【書評】青山美智子『月の立つ林で』登場人物のつながりに心温まる優しい連作短編小説
2023.02.16 更新日:2023.03.17
『月の立つ林で』
青山美智子 ¥1760/ポプラ社
ポッドキャストがつなぐ、日常の中の優しい物語
どこにでもいそうな人々の、平凡な日日。それらを丁寧に描きながら、読む人に感動を与える作風で、注目を集めている小説家・青山美智子さん。’21年から2年連続で本屋大賞にノミネートされるなど、活躍が期待されている。
最新刊の連作短編小説も、“普通の人たち”の世界が広がっていくお話だ。一章「誰かの朝」の主人公は、40代の怜花。長い間勤めていた病院での看護師の仕事を辞めて、今は実家に戻っている。次の仕事を見つけるまでの充電期間と思いつつ、「看護の仕事を中途半端に放り出してしまったのではないか」と、内心ではモヤモヤが止まらない。彼女をほっとさせるのは、タケトリ・オキナという男性が配信するポッドキャスト『ツキない話』。彼が語る月の満ち欠けや月食などの話は、怜花だけではなく、偶然、番組を知った者たちの心に安らぎを与える――。
そのほかにも章ごとに登場するのは、夢を諦められないまま生活のために配送のバイトをしている芸人、趣味で続けていたアクセサリー作りが予想以上に忙しくなり夫や義母など家庭との両立に悩む女性など。みんな、どこかですれ違っていそうな、親近感を抱ける人ばかり。彼らが感じる戸惑いや将来への思い、日々の中で起こる喜びは、私たちにも共感できるはず。
淡々としたストーリー展開が心地よく、さらに前の章に登場したキャラクターが、ほかのお話にも脇役で登場してくる仕立てにも引き込まれる。「あの人は、どこで出てくるのかな?」と、ワクワクしながら読み進められる。そして私たちの生活に、すっかり身近になったポッドキャストが、話をつないでいるところにも魅力を感じてしまいそう。
例えば自分にとってお気に入りの番組を思い浮かべながら、「あの番組を聴いている人たちの中にも、こういう日々を送っている人がいるのかも」など、想像を巡らしてみるのも楽しいかもしれない。波乱万丈なドラマものを読む体力&気力が今はないけれど、小説で感動したり、勇気づけられたいと思う人には、ぴったりの物語!。
『ビューティフルからビューティフルへ』
日比野コレコ ¥1540 河出書房新社
第59回文藝賞を受賞した、18歳のデビュー小説。進学校に通い、クラスではカーストの上位グループにいながらも希死念慮にとらわれるナナ、鬱屈した内面を秘めた静など、高校生たちの絶望と希望が入り乱れる様子を描いた物語。疾走感あふれる文章は、まるで音楽を聴いているかのような気分に。作者が紡ぐ文字に乗っかり、今の10代が持つヒリヒリした感覚を味わって。
『ボーダー 移民と難民』
佐々涼子 ¥1980 集英社インターナショナル
前作『エンド・オブ・ライフ』の「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」受賞後の第一作。祖国で命の危機に瀕し、命からがら難民条約批准国の日本に避難。にもかかわらず難民として認められず、入管に長期間収容されている人たちの受け入れと待遇改善を訴えてきた弁護士、児玉晃一の四半世紀にわたる奮闘の日々に迫る。目頭が熱くなるノンフィクション。
『おつかれ、今日の私。』
ジェーン・スー ¥1540 マガジンハウス
人気コラムニストの最新刊。テーマは「セルフケア」。働く大人がため込みがちな疲労を、ときほぐすエッセイが48編収められている。“しんどくなったらニヤニヤできる何かを見つける”、“他人はもちろん自分からの期待にも、こたえすぎないこと”など、現実と向き合いつつも、お気楽でいられる生き方のヒントがちりばめられていて、読めばじわじわとパワーが復活。
取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE3月号(2/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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