2022 FIFAワールドカップでは、日本中が熱狂しましたね!
昨年の東京パラリンピックでも、子どもたちとさまざまな「パラ競技」に出会い、知らなかったパラアスリートたちの世界に心を突き動かされたのを覚えています。
障がいのある人たちの暮らしや社会をについて、親子で話すきっかけにもなりましたし、まずは「知る」ことが、多様性を考える第一歩になることを実感しました。
とはいえ、継続しているわけではなく、断片的になってしまっている現状です。
そんな中、子どもたちに継続して「多様性の尊重」を育む取り組みをしている授業がありました。
日々のくらしを支えるLIXILが、多様性の理解を深めるための授業を開催
株式会社LIXILが2017年より全国の小中学校を対象に、「ユニバーサル・ラン<スポーツ義足体験授業>」を行っています。
義足アスリートとの交流や講義、そして、実際にスポーツ義足を体験することで、多様性の理解を深める取り組みです。
陸上はパラ競技の中でも花形ですし、子どもたちも非常に興味をもって学べるとあって、これまで248校(2022年11月末日現在)の学校で体験授業を実施しているそう。
そこで11月に東京・杉並区立西田小学校で、パラ陸上走り幅跳びのアジア記録保持者である又吉康十選手を講師にむかえての体験授業がありました。
又吉選手は小さな頃からスポーツは大好き少年で、18歳で大学進学のため上京されました。20歳の時、帰宅途中に電車との接触事故に合い、左足のひざから下を失うことに…。
元々体を動かすのが好きだったため、障害を持った後も自由に球技ができるようになりたいと思い、まずは走ることから挑戦。ランニングクリニックに参加したことをきっかけに陸上競技をスタートたせたとか。
陸上を始めた当初は短距離種目のみでしたが、2019年から走り幅跳びにもチャレンジし、その年には日本記録を樹立されたそうです。現在はアジア記録保持者として活躍し記録を伸ばし続けている、そんな又吉選手の授業を取材しました。
「どうやって固定しているの?」義足に対する素朴な疑問に答える
今回、行われた5年生の体験授業では「まず義足の人に、日常生活で会ったことありますか?」という質問からスタートしました。
ごく少数の生徒だけ手をあげていましたが、ほぼ出会ったことがない人が大多数。
そんな中、又吉選手が義足をはくことになった経緯や今のアスリートとしての活動について、また日常用の義足とスポーツ義足の違いなどを説明しました。
この日の又吉選手はスポーツ義足ではなく、日常用の義足を装着していました。
スポーツ義足は、やはり陸上競技向けとあって直線距離を走ることや高く跳躍するために作られているので、ほかのスポーツや日常生活には向かないのだそう。
さらに又吉さんが子どもたちに問いかけます。「この義足、どうやって固定していると思う?」実際に目の前で着脱しながら説明してくれました。
日常用義足はキャッチピンがついているシリコン製のライナーを足に装着し、義足が抜け落ちてしまわないようにピンで固定。
一方、スポーツ義足は吸着式のライナーを空気を抜いて装着し、義足を持ち上げている状態。
それぞれ、子どもたちが思いっきり引っ張ってもびくともしません!
その後、それぞれの義足を持って重さや硬さ、柔軟さなどを子どもたち自身が体感していました。
いよいよスポーツ義足を体験!思った以上にバランスをとるのが難しい
いよいよ、子どもたちがスポーツ義足を体験します。
これは健常者がスポーツ義足を体験するための義足で、義足を使いこなすアスリートの身体能力や努力を実感できます。
子どもたちは少し緊張しながらも、みんな前向きに挑戦していました。
少しの段差や少しの距離を歩くだけでもグラついてしまうので、両手で支えてもらいながら歩く子もいれば、スポーツが得意な子はすっかり使いこなしている様子。
私も片足ずつ体験しましたが、やはりバランスを取るのが難しく体幹が非常に重要ですが、思い切って足をふみこむとスムーズに歩くことができました。
一方で、自分の脚力がバネのように「拡張」した感覚にも陥りました。これこそ、体験したからこそわかる感覚でした。
「義足ユーザーって日本でどのぐらいいる?」様々な問いから多様性を学ぶ
体験後、再び座学の時間が設けられ、さまざまな問いかけがありました。
「義足ユーザーってどのぐらいいると思う?」という質問に対して、日本では6万人、アメリカだと200万人、世界的には2000万人もいて、世界で考えると1クラスに1人ぐらい義足の人がいてもおかしくない割合なのだとか。
「日本の人口を100人にした時、子どもと高齢者って割合的にはどのぐらいかな?」
「外国人は? 妊婦さんはどのぐらい?」
「じゃあ障がいのある人は?義足つけている人は?」
子どもたちも口々に答えながら、盛り上がっています。
全体の人口に対して、割合的に少ないマイノリティな存在だと、どうしても課題や障壁があっても理解を得られにくく、生活しにくい部分が出てきてしまいます。
やはり「知る」ことが相手を理解する上で重要になる、ということが体感的にわかりました。
自分にとって当たり前だけど、ほかの人にとっては当たり前ではないこと
終盤、「自分にとっては当たり前だけど、又吉さんにとっては当たり前じゃないことってなんだろう?」という問いかけが、非常に印象的でした。
「プールやお風呂は?」と子どもたちが聞くと、又吉さんがこう答えました。
「プールは義足を外して泳ぐし、家のお風呂は当然毎日片足で入っているから当たり前。銭湯や温泉に行った時は義足をつけて当たり前にはいっていますよ。慣れないときは滑ったけどね!」
健常者にとっては義足では不便だと思うことでも、当人にとってはそれが日常だから、不必要に配慮をする必要がないことに気がついた様子でした。
でもこれも人それぞれだから、かならず相手、本人に聞いてみなくてはなりません。
このやりとりが多様性を理解する上で、最も重要なプロセスだということが、言葉で理解するというよりは、体感して腑に落ちた感じがしました。
最後に、又吉さんに授業にかける思いを聞いてみました。
「障がい者に対するイメージが変わればいいな、と思っています。もちろん、同じような障がいでも苦しんでいる人もいるし、僕みたいに楽しんでスポーツをしている人もいる。人それぞれであるということは、健常者と同じだと思います。あとは、義足のことを知らないと怖がられることもあるのですが、実際に触れ合ってみると怖い印象もなくなります。ですから、できるだけ多くの子どもたちと交流していきたいと思っています」
授業が終わった後も、又吉さんに駆け寄る子どもたち。
まだまだ質問したいことが溢れているのでしょうね。とても素敵な授業でした。
この体験授業に興味のある方はぜひLIXILのサイト「ユニバーサル・ラン〈スポーツ義足体験授業〉」をご覧ください。
個人での応募はできませんが、自治体や学校単位で申し込むことができます。
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。