香港民主化デモの街を疾走する青春映画『少年たちの時代革命』監督インタビュー。台湾アカデミー賞を席巻!製作秘話がまたスゴイ!!
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折田千鶴子
2022.12.11
気鋭の若手監督レックス・レン&ラム・サム
名も知らぬ仲間の命を繋ぐために、自分たちの未来のために、自由のために、少年は香港の街を駆け抜ける――。2019年の香港の民主化デモに参加する若者たちを活写したフィクション映画『少年たちの時代革命』を、政治的な映画は苦手……なんて理由で敬遠したら勿体なさ過ぎます! いえ、人生、何倍も損をしてしまうかもしれません。私たちよりずっと年下の10代の若者たちが、こんなにも熱くなって闘っている姿に、胸がガクガク揺さぶられ、見る私たちも熱くなってしまいます。政治的なテーマを扱いながらも、疾走感に溢れ、強い想いがみなぎる魅惑の青春映画です。
本作は、民主化デモが進行する香港で極秘裏に製作され、当然のように上映禁止になりましたが、皮肉にも海外の映画祭で上映され、大きな話題となりました。なんと台湾アカデミー賞(金馬奨)で最優秀新人監督部門、最優秀編集部門にノミネートされ、金馬国際映画祭アジア最優秀映画賞を受賞してしまった超話題作です。その製作秘話は……フィクション以上の波乱含み。話を聞きながら、「マジですか!?」と何度も聞き返したくなりました!!
一躍、“香港映画界に彗星のごとく現れた”と驚嘆で迎えられた新人監督レックス・レンさんとラム・サムさんに、オンラインでお話を伺いました。取材日当日も映画祭に出席されていたため交代で(レックス監督は最後に戻って来ましたが、主にラム・サム監督に)お答えいただいています。
レックス・レン(左)
1982年生まれ。香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。フルーツ・チャン監督に師事、脚本、助監督を努める。短編映画『螻蟻』(17)が第11回Fresh Wave International Short Film Festival最優秀監督賞、第23回香港インディペンデント・ショートフィルム&ビデオ・アワードで最優秀賞を受賞。『紙皮婆婆』(18)が金馬創投會議グランプリ受賞。
ラム・サム(右)
1985年生まれ。香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。長編映画とドキュメンタリー映画の両方で活躍。代表作に『暉仔』(11)、ドラマ作品『豹』(15)、『黑哥』(17)など。現在は香港舞台芸術学院で講師も務める。
──お2人は同じ香港演芸学院電影電視学院演出学科を卒業されていますが、レックス監督が2歳年上ですね。学生時代からの知り合いですか?
ラム・サム「実は僕の方が、学院に1年早く入学した先輩なんです。映画学校の4年間は、色んな人が互いにサポートし合い、ごちゃ混ぜで授業を受けたりするので、互いに面識がありました。でも卒業後、一緒に仕事する機会があって、その際に似た考えを持つ者同士だと分かり、一緒に映画を作ることになりました」
──2人の役割分担は決まっていますか? 異なる得意分野がありますか?
「僕と彼は性格が違うので、ざっくりですがレックスは俳優たちを怒る担当です(笑)。彼は実行力や決断力、アレンジが得意なので、そういう分野を担ってくれました。僕は優しいので(笑)、俳優のケアや彼らとコミュニケーションして関係を築く方に専念しました。もちろん大きな決定は、みんなで話し合って決めましたが」
『少年たちの時代革命』ってこんな映画
2019年、香港の街はデモに参加する若者たちで溢れている。少女YYは親友のジーユーとゲームセンターで遊んだり、たまにデモに参加する普通の17歳。しかしある日、2人はデモ中に逮捕されてしまう。ジーユーは、「香港は何も変わらない」と、高校を卒業したら香港を去るという。父親は大陸で仕事、母親は再婚してロンドンに居る、香港で独りのYYは、18歳の誕生日、SNSに悲しいメッセージを残して街に消えるーー。デモに参加する予定だったナムは、SNSでそのメッセージを見つけ、YYを助け出そうと恋人のベルやデモ仲間、ソーシャルワーカーらと共に捜索隊を結成。YYの姿を探して香港中を駆け回るが――。
当時、若者による抗議の自殺が相次いだ香港で、自殺志願者を救おうと民間捜索隊が結成されたという。その必死な姿が、本作に刻み込まれている。
──2019年6月に香港民主化運動が始まりましたが、どの時点からカメラを回し始めたのですか? 劇中、実際のデモ映像が差し込まれていますし、実際にデモの最中に撮影したそうですが、そうなると着想してから脚本を書く時間などないに等しい気がするのですが……。
「実際のデモ映像に関しては、僕自身も撮影していましたが、色んな人から提供してもらいました。僕らのチームにもデモ行進に参加している人もいましたし、カメラを回している友人もいたので。だから実際の素材は早い段階から集まっていたんです。ただ、本作を作るにあたっては、最初、そういうリアルな映像を入れる予定はありませんでした。というのも、その運動を使って自分の作品を作るということが、どこか運動を消費してしまうような感覚があり、気が進まなくて……」
「でも作っている途中で友人から、香港の人は分かるだろうけれど、海外の人は見ても多分、分からないんじゃないか、と言われて……。やはり当時の出来事をちゃんと映像として入れた方が、海外の人たちが映画に入り込みやすいだろう、と実際の映像を追加することにしました」
──実際にデモが起きている瞬間に、すぐそばで撮影が行われていた、ということですよね!?
「はい。状況的には、隣でデモが起きてる中で撮影していました。もちろん危険もあるので、例えば団地の中でYYを探すシーンなどは、他にデモが起きない時を狙って撮る、といった配慮はしています」
──となると、超特急で脚本を仕上げたことになりますよね? 俳優たちの撮影に入る時点では、脚本は完成していましたか。それとも撮りながら脚本開発をしていったのですか。
「ある程度は書き上げてから撮影を始めました。2019年の6月~7月にデモが始まった時点で本作の企画が始まり、主にレックスとプロデューサーのダニエルが脚本を担当して1、2ヶ月で書き上げました。キャスティングは最初から新人俳優や素人を使う前提だったので、演じる彼らが思う内容も入れ込もうと、空白の部分を残しておきました。その部分を撮影しながら埋めたり、脚本を修正しながら撮影をしていく感じでした」
「ただ実は、半年くらい撮影がストップしたことがあったんです。それは、別のドキュメンタリー映画『理大城囲』の内容そのものですが、香港理工大学が警察に封鎖されるという事件が起き、本作のチーム全員が心ここにあらずの状態になってしまって。みんな運動に集中していたのもあって、やむを得ず一旦撮影を停止しました。最も運動が激しかったその時期、実際にチーム内で逮捕された人も出ましたし、このプロジェクトから離れる人も出てきました。図らずも中止したことで、本作の脚本を完成させ、修正する時間が出来て、最終的にこのバージョンが出来上がりました」
驚きの極秘・撮影方法
──撮影は完全にゲリラ撮影ですよね? 機材もスタッフも最小限に抑え、緊張感漂う撮影が続いたのでしょうね。
「まさにゲリラ撮影で、常に緊張感を持っていました。そもそもテーマ的に撮影申請が下りづらい作品なので、トラブルも起きましたし。居ないと思ったら、警察がまだ近くにいたり……。だからいつも、ちょっと撮影したら、すぐ別の場所に移動して違うシーンを撮影していました。しかも今度はコロナに直撃されてしまって。当時、香港では“集合禁止令”という法律が出されました。最も厳しい時は、4人までしか一緒にいてはいけなかったんです。町を一緒に歩くのも、多くて4人まで」
「そのため撮影チームを4人単位に区切り、いろんな場所にスタンバイさせ、ある場面の撮影をパッと撮って、すぐに離れるという調整をしながら、撮影を進めていきました。可能な限り身軽にしようと、カメラもできるだけ小さいものを選び、マイクなどの機材も簡素で軽いものを選びました。ショッピングモールでYYを捜索するシーンの撮影では、俳優2人が前にいて、その後ろにカメラマン1人と僕の合計4人で撮りました。その時、レックス監督は別のところで、別の俳優たちを追いかけるシーンを、カメラマン1人と彼の4人で撮っていて。4人ずつに分かれ、撮影を進めて後で合わせたシーンもありました。もちろん可能な限りは、みんなで一緒に撮影しましたが、致し方なく4人ずつに分かれて撮ったりしながら、どうにか完成させました」
──その製作過程自体が、ものすごい劇的ですよね!!
「そうなんですよ。よくチーム内でも冗談で、“多分この本編より、撮影秘話を映画にした方が面白くなるんじゃないか”なんて言ってました(笑)」
──当然、どこかに見張り役もいるわけですよね!?
「はい、その担当がいました(笑)」
香港で起きていた分断
──分断が起きるのは何となく予想できましたが、劇中で描かれるように、家族内での分断、断絶が起きてしまうのは衝撃でした。
「それも実際に起きていたので、映画に取り入れました。デモに参加する多くの若者たちが、実際に家庭内で政治観の違いや理念の違いから、衝突を経験していました。僕自身も家族と向き合う中で似たようなことがありましたし、友人も家庭内で分断が発生していました。それをキャラクターたちの中に、色んな程度を付けながら入れ込んでいきました」
──食堂のおばさんがデモ隊を見て、「アメリカにお金をもらって子供が騒いでるんだ。みんな死ねばいい」と言うシーンは、かなりショッキングでした。
「そういうことも、実際にありました。当時、“黄色経済圏”というものがあり、客は店の政治観で(どの店に入るかを)選んでいたんです。店のオーナーが民主派の人だったら、民主派=黄色い店と呼び、逆に親中派を“青い店”と呼びます。つまり青いお店に入ってしまうと、デモに反対している親中派なので、そういうこと(デモを罵倒するようなこと)もあるわけです。実際、今の香港でも、政治観などをお店選びの基準にしている人たちもいます」
──単純にインテリ層が民主派寄り、労働者階層が親中・体制寄りとは割り切れない感じですか?
「あまり、そういう分かれ方ではないですね。年齢層では大まかに分かれるとは言えますが。例えば学生の多くは、政府に不満を持つ人の方が多いです」
──本作は政治色が強い映画ではありますが、同時に青春映画としての“きらめき”があるからこそ、多くの人が魅了されるのだと思います。例えば付き合っているカップルの焼きもち、若さゆえの衝動、親への反抗心など、青春要素が色々ちりばめられているのが魅力です。
「それも、実際にデモ現場を観察したことから取り入れています。そもそもデモの現場は若者がほとんどですし、常に緊張している状態ではないんです。待っている時間があり、時間を持て余している若者もいて、そんな時に年齢相応の行動を取っていて。ゲームをしたり、仲間と遊んだり、運動してみたり。だからこそデモ運動全体に活力があったと言えますし、そこに僕らも青春っぽさを感じ取り、この運動自体がとても魅力的だと思いました。今回の映画のオリジナルタイトルは『少年』ですが、少年のようにヤル気があり、情熱があり、少年のような精神性がある、そんな意味も込めています」
若い俳優たちの力
──脚本段階でカチっと固めず、空白を残して俳優たちのアドリブで埋めようとした、と先ほどおっしゃっていましたが、例えばどんなシーンで若い俳優たちから出て来たものを採用されましたか?
「一番記憶に残っているのは、まさにクライマックスのシーンです(ラストに関わるので詳細は伏せます)。もちろん脚本である程度セリフを用意していましたが、敢えて俳優たちに、どういうセリフを言いたいか、どんなシーンにしたいか決めていいよ、と伝えました」
「そのシーンは、映画の中でもラストですが、実際の撮影でも、ほぼ最後に撮影したシーンなんです。というのも、それまでの現場での経験、ストーリーやキャラクターに対する感情などが、ある程度育った段階で撮影したいシーンだったので。YYも、YYを探していた人たちにも、どんな風に考えを導き出すのかを実際に俳優に考えてもらい、最終的にそれを採用して、あの映画のラストシーンになりました」
──準備期間も短く、しかもゲリラ撮影で、新人俳優や素人に演出をつけること自体、かなり難しくはなかったですか?
「それはもう完全に、俳優の皆さんに感謝しかないですね。予算も少なく、急な変更が多発し、アドリブを強いてしまう場面も多くありましたが、彼らが自分の演じるキャラクターや脚本を、とにかく信用してくれたことが大きかったと思います。今、話した終盤のシーンは、高い場所での撮影でした。僕らが現場に立った時も、引くくらい怖かったんです。しかも撮影日は台風で雨も激しく降り、風も強かった。僕らもヒヤヒヤしていたのですが、彼女は役に完全に入り込んでいて、素晴らしい演技をしてくれました。本作は俳優たちの力あってこそ、多くの人に受け入れられた素晴らしい成果を得られたのだと思っています」
──さらに最後の最後のラストシーンの、あの“画”が素晴らしいですよね。最初に観た時もですが、2度目に映画を観た時も、さらに胸が熱くなり泣けて泣けて……。作り手の願い、祈りのようなものが感じられ、胸を打たれました。
「元々、あの“画”は、レックス監督のアイディアです。ある種、現実的なシーンから、精神的なところヘと観客の心を持っていきたい、と考えました。だからこそ表現は抽象的ながらも、観客が泣いてしまうような感情を引き出せたのだと思います。あの最後のシーンは、僕らも感動して涙を流しました」
「ただ、実際にあのシーンを撮影した時は、実は爆笑エピソードが色々とあったんです(笑)。完全に裏話ですが、あの最後の最後のカットは、スタジオで撮影しました。高い台を持ってきて、カメラマンも含めて7、8人がギュウギュウ詰めの状態で(笑)、あの“画”を創り出そうと色々と頑張ったのですが、かなりNGを出しました。予定の位置と違ったり、うまく形を作れなかったり。途中からはもう、みんな笑っちゃって(笑)。今観てもすごく感動的なシーンで泣けるのですが、撮影時のことを思い出すと、つい噴き出してしまうんです(笑)」
最後にレックス監督が、参加中の映画祭から急いで戻ってきてくれました。
──最後に、主人公らが警察に捕まるシーンの表現が素晴らしく印象的でした。前半では青い映像の中を影絵のように人が動く。後半は赤の背景の中を影絵のように動く。やはりフィクションを撮るなら、映像でも魅せるぞ、という気持ちが強かったのですか!?
レックス「実は……どうして青い幕と赤い幕を使ってあのシーンを描いたかと言うと……単純に予算がなかったからなんです(笑)!! デモをしていて逮捕されるシーンは、とても重要です。でも、それを再現するにも予算が足らなくて。かなり長い時間どうしよう、どうしようと悩んでいました。ある晩、悩みながらお酒を飲んでNetflixをつけたら、ちょうど映画『ドラキュラ』があって、それを観たんです。そうしたら、幕を使って中世の戦争を表現したシーンがあって、“なるほど、これならイケるぞ!”と知恵を借りたんですよ(笑)!」
メチャクチャ、カッコいい映像に魅せられたのですが、そんな秘話があったとは(笑)。それを教えてくれるレックス&ラム監督、お2人の人柄にも魅せられてしまいました。YYの命を救いたいと香港中を走り回るナムたち、一人の命よりも運動の方が大切だと考える仲間もいて、町には警官もウロウロしていて、もう心臓バクバクですよ! 自由を、自由のある未来を求めて命がけで闘う若者たちの熱さ。平和ボケと言われて随分と長~い時間が経ってしまった日本ですが、是非、本作から情熱と友情、人の命の大切さ、そして自由のかけがえなさを感じて熱くなってください!
映画『少年たちの時代革命』
2021/香港 /86分 / 配給:Cinema Drifters・大福
監督:レックス・レン(任俠) ラム・サム(林森)
出演:ユー・ジーウィン(余子穎) 、レイ・プイイー(李珮怡) 、スン・クワントー(孫君陶)、 マヤ・ツァン(曾睿彤) 、トン・カーファイ(唐嘉輝) 、アイビー・パン(彭珮嵐) 、ホー・ワイワー(何煒華) 、スン・ツェン(孫澄) 、マック・ウィンサム(麥穎森)
2022年12月10日(土)よりポレポレ東中野他、全国ロードショー
『少年たちの時代革命』公式サイト————————————————-
『少年たちの時代革命』ポレポレ東中野イベント情報
◆12/10(土)12:00回上映後&16:30回上映後
初日舞台挨拶<登壇>レックス・レン(監督)、スン・クワントー(ナム役)
◆12/11(日)12:00回上映後&16:30回上映後
舞台挨拶<登壇>レックス・レン(監督)、スン・クワントー(ナム役)
◆12/17(土)14:10回上映後
トークイベント<登壇>倉田明子(東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授)
◆12/24(土)14:10回上映後
トークイベント<登壇>宇田川幸洋(映画評論家)
ラム・サム監督がインタビュー中に語っていた、撮影中に起きた名門・香港理工大学が警察に封鎖された事件を描いたドキュメンタリー映画『理大囲城』が、2022年12月17日(土)より本作と同じポレポレ東中野で連続上映されます。そちらも是非!
(C) Hong Kong Documentary Filmmakers
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監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
2021/香港/88分/配給:Cinema Drifters・大福
『理大囲城』公式サイト
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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