LEE読者がティーンの頃に通ってきた(?)さまざまなカルチャーが今またブーム! そこで「あの頃の映画」にガツンと影響を受けた皆さんのおすすめ名作をご紹介! 一度見ている作品も、年齢を重ねて、親の目線で見るとまた違う魅力に気づくはず。
お話を伺ったのは
映画ジャーナリスト 金原由佳さん
’93年に相米慎二監督『お引越し』を見て雷に打たれ、弟子入り、映画界へ。小6の少女が両親の別居に猛烈に抗う話で、親も成熟していない、母親がキャリアを大切にするところに共感。LEEwebで「エンパワメント映画館」を連載中。
Twitter:yuka_kimbara
公式サイト:http://yukakimbara.jp/
熱量あふれる日本映画は、親子にとってのいい“教材”にも
’80年代の日本映画にはクレイジーな熱量があり、少女がやくざの組長になる『セーラー服と機関銃』が大ヒット、薬師丸ひろ子、小泉今日子、原田知世など、少女が男社会を揺り動かすガールズパワーが強い時代でした。それは『すずめの戸締まり』など新海誠監督のアニメに引き継がれています。
個人的には根岸吉太郎監督の『永遠の1/2』(’87年)から青山真治監督の『SHADY GROVE』(’99年)、そして濱口竜介監督の『寝ても覚めても』(’18年)に連なる、自分が常に半分の存在でしかないという欠落感を時代に先んじて描いた監督たちに影響を受けました。
今20歳の息子はコロナ禍で大学生となり、友達と密に群れる体験に恵まれないまま。’80年代の映画を見て、大人と子どもがはちゃめちゃに群れ、対等に対決する熱さがSFのようだと言います。世代間のギャップを知る教材にもなるかも。
性別違和、トランスジェンダーに触れるのも早かった
’83『ションベン・ライダー』
学校の番長であるデブナガという生徒が親のトラブルから、ヤクザに誘拐されるところからスタート。辞書(坂上忍)、ブルース(河合美智子)、ジョジョ(永瀬正敏)の仲よし三人組は、自分たちをいじめていたデブナガにきちんと復讐したいから助けに行くというロードムービー。
「昔の横浜をはじめ、熱海、名古屋の風景が懐かしい。暴力団対策法が進み、映画からヤクザが消える今、本作では中学生とヤクザが対決し、デブナガ救済に大暴れ。相米慎二監督は子どもが潜在的に持つエネルギーを描く達人で、性別違和を抱くブルース役に河合美智子さんを起用し、時代に先んじトランスジェンダーの内面にも触れています」(金原由佳さん)
バブル期特有の浮かれ気分が興味深い
’89『ファンシイダンス』
「街で見かけるけれど今イチ何をやっているのかよくわからない、という職業体験映画のひとつ。お坊さんになるためには実際、どういうプロセスが必要か描かれていることもおすすめの要素ですが、大きな推薦理由は阪神・淡路大震災、東日本大震災などを経験する前の日本の社会が映っていること。世はバブル経済の絶頂期で、シティボーイがお坊さんになるというギャップを、当時おもしろがって見ていたのですが、主人公の本木雅弘さん以外の登場人物にもあの時代特有の浮かれ気分が漂い、興味深いかと」(金原由佳さん)
世界で最も「円」が強かったとしたら……
’96『スワロウテイル』
「’22年の流行語大賞候補の『悪い円安』。一方、今作の舞台は、世界で最も円(¥)が強い時代。つまりは、今の日本とはアベコベの世界で繰り広げられる活劇です。強い円を求めて世界中から移民が東京に押し寄せて、あちこちにリトル中国、リトルベトナムなどの新勢力の町が興隆しつつあるという架空の町が描かれ、今や高層ビル街となった新浦安のだだっ広い野原っぷりも興味深い。それぞれのルーツや欲望や民族間の恩讐、国境を超えるのがCHARAさん演じるグリコの歌声。音楽のかっこよさは今でも健在」(金原由佳さん)
【特集】子どもと見たい80’s 90’sの名作映画
イラストレーション/SAWAMI 取材・原文/金原由佳
こちらは2023年LEE1・2月合併号(12/7発売)「子どもと見たい80’s 90’sの名作映画」に掲載の記事です。
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