【父から同性愛を告白された娘は…】イケオジ2人が恋に落ちた大騒動を描く『泣いたり笑ったり』監督インタビュー
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折田千鶴子
2022.12.02
南イタリアの港町、ひと夏の大騒動
バカンス・ムードたっぷりの、ハッピーで感涙必至のステキな映画『泣いたり笑ったり』の登場です! 多様性や偏見といった社会問題をカラッと笑いをまぶして、感動の家族&人間ドラマに仕立てました。対照的な2つの家族の価値観とその変化が生き生きと描き出され、文字通り観客は泣いたり、笑ったり。
2家族に勃発した大騒動の発端は、なんと両家の父親同士が恋に落ちてしまったこと! 一人は妻子を泣かせて来たリッチでインテリなロマンスグレー、もう一人は亡き妻を愛し、息子たちから敬愛される海の男。セレブ家族と庶民家族という社会的階層の異なる2家族は、果たしてどんな反応をするのでしょう!?
2016年に、同性カップルの結婚に準ずる権利を認める「シビル・ユニオン法」が可決されたイタリアですが、法律が整ったからと言って、なかなか意識まで変わるのは難しいようです。日本は全く持ってそのレベルに達していない(国民意識より政治&法律の方がずっと遅れているせいという気がしますが)のですが、施行から5年以上経つイタリアでの現状が、垣間見れるのも本作の見どころです。
そんな本作は、イタリアで43週のロングラン大ヒットを飛ばしました。これが長編第2作目となる期待のシモーネ・ゴーダノ監督に、オンラインでインタビューしました。
1977年8月31日、イタリア、ローマ生まれ。ローマのDAMSで映画を学ぶ。短編『Niente orchidee』(10)で監督デビュー。『Moglie e marito(妻と夫)』(17)で長編映画監督デビューし、ナストロ・ダルジェント賞コメディ作品賞にノミネート。監督第2作『泣いたり笑ったり』(19)がイタリア・ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ジャスミン・トリンカ)受賞の他、ナストロ・ダルジェント賞コメディ部門でコメディ作品賞、主演男優賞(アレッサンドロ・ガスマン、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ)にノミネート。長編第3作『マリリンの瞳は黒かった』(21)がNetflixで配信中。
『泣いたり笑ったり』ってこんな映画
南イタリアの港町ガエータにあるトニ(ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ)の別荘に、バカンスを過ごすため娘たちや妹カップルがやって来る。今年は離れの部屋を、ある家族に貸したという。そこへやって来たのは、漁師のカルロ(アレッサンドロ・ガスマン)と息子たち家族。実は恋に落ちて愛を温めて来たトニとカルロが、バカンスを利用して互いの家族を紹介し、「結婚したい」と告げる予定を立てていたのでした。ところが紹介する前に2人の関係がバレ、両家の面々は大騒ぎ。中でもトニの長女ペネロペ(ジャスミン・トリンカ)と、カルロの長男サンドロは、父親の結婚に大反対し……。
──とっても面白かったです! 初めに少々ショックを受けたのが、普段はリベラルな発言をして進歩的らしいペネロペが、父の同性婚を拒絶する姿でした。サンドロの拒否反応は腑に落ちたのですが…。リベラルを標ぼうする人間でも身内のことになると……という例が監督の周りでもあったのでしょうか?
「完全オリジナル脚本ですが、登場人物に特定のモデルがいるわけではありません。とはいえやはり文化的・社会的な背景からイタリアの現状を考えると、そういう人たちが実在してるな、とは感じていました」
「確かにサンドロの反応は、理解しやすいですよね。漁師で魚屋を営む家族の、父親が同性婚をすると聞いた息子が理解に苦しむのは、誰もが“そうだよね”と思うでしょう。だからサンドロを演じたフィリッポ・シッキターノにも、“みんなそのことを理解できるし、絶対に悪者にしないから、怖がらずに演じ切ってくれ”と言いました」
「一方でペネロペは、知的階級の家族に属し、表面的には同性婚に賛同するグループに近い気持ちの持ち主に見えるのに、実際には瞬間的に拒絶してしまう。つまり今のイタリア社会でも、結局は同姓婚に対してまだまだ偏見や先入観が蔓延しているんだ、と言わざるを得ない状況を表しています。だって私自身、親からいきなり同性婚をすると言われたら、初めはやっぱり同じような反応をしてしまうかもしれない、と自分でも思いますから」
──私もそうかもしれません。だから身につまされた部分もあって……。
「加えて僕は40代で親になりましたが、イタリアでは晩婚化が進み、子どもを持つ年齢がどんどん高くなっています。親の年齢層が高くなると、どうしても親が“子供はどう思うかな!?”と気にする傾向にある気がします。僕らの親世代より今はずっと、親が子供の反応や判断を慎重に見極めている気がします。怖がるというか……。そんな状況も、本作に描き込みました」
娘の気持ちの流れが肝!
──女たらしだったトニと、愛妻家だったカルロが恋に落ちるという組み合わせが新鮮です。そのあたりの意図は、今の時代、もう女だ男だヘテロだゲイだバイだとか、そんなこと関係ない、単に人間対人間なんだ、と打ち出したかったのでしょうか。
「おっしゃる通りです。今後そういうことが、もっとたくさん語られていくと思います。原案の段階で、共同脚本のジュリア(シュタイガーヴァルト)と、普遍的な物語にしたいということを出発点にしました。最初は、2人の若者を主人公に想定していたんです。若者が自分たちのセクシャリティを、つまり同性愛であると目覚めていく、と。でもそうすると、どうしてもそこに注意が向いてしまい、“愛情”自体の物語が希薄になってしまうと危惧しました」
「そこで60代前後の男性を主人公に据え、彼らが同性愛であることを発見する、という設定を思いつきました。かなり色んなリサーチを重ねた結果、高い年齢になってからセクシャリティを発見することが結構あると知りました。また、社会的な背景や階層が異なる家族を出逢わせることをポイントにしたかったのも、60代男性同士にした理由です」
「トニの方は、イタリア語で“ラディカルシック”と呼ぶ、いわゆるスノッブな家族です。何人もの女性と浮名を流し、セリフでも“関係したのは女性だけではなかった”と出てくるくらいの人物です。カルロの方はもっと庶民的で、なんと言っても妻と家族を愛し、強く団結している家族です。そんなカルロがトニの自由な精神に初めて触れ、自分もどこか解放されていき、恋に落ちたわけです」
──オジサマ同士の純愛に、思わずキュンキュンしましたが、確かに若い者同士だと、肉体的にセクシャルな描写がもっと増えたんだろうな、と思いました。その辺りはどうですか。(注意! ネタバレの可能性があります。監督の応えは鑑賞後にお読みください)
「本作は、もちろんトニとカルロの恋愛物語が一番大きな枠組みではありますが、トニの娘ペネロペの視点で語っていることが重要です。父親が同性愛であることを知ったペネロペが、どうしても受け入れられずに拒絶する姿、父親に愛された経験のない彼女が、父親の結婚相手であるカルロに父親像を見出していくーーという明確で感情的な視点で物語ることが主題でした。だから本作は2人の男性の恋愛映画というより、ペネロペが父性を見出すカルロと対峙する姿を描きたかったとも言えます。ペネロペの感情に軸を置いたので、トニとカルロの絡みのシーンは、あまり描かなかったんです。どんな風にペネロペの気持ちが変化していくのか、というのが肝です」
三種三様のコメディ・センス
──トニを演じたファブリツィオ・ベンティヴォッリオさんの、どうしようもないクズさや軽さが、すごく面白かったです。一方のカルロ役のアレッサンドロ・ガスマンさんは、頼りがいがあってカッコ良くて。彼らの掛け合いなど、演出でどのような点を特に工夫しましたか。タイミングや間などは、監督が厳密に演出していったのですか。
「指示を出したところ、逆にアドリブの余地を残したところ、両方あります。ファブリツィオさんと言えば、色んな役を多数こなして来て受賞歴もあり、イタリア映画界の宝物のような存在です。アレッサンドロさんは、もう少し庶民的な役で親しまれている感覚があります。そしてもう一人、大きな役割を占めたペネロペ役のジャスミン・トリンカさんは、カンヌ映画祭で賞を獲って(ある視点部門の『フォルトゥーナタ』(17)で女優賞に輝く)以後の初仕事だったので、僕としてはイタリアの3大スターを起用することになったな、という感じでした」
参考) 日本で公開された代表作に、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ:『人間の値打ち』、アレッサンドロ・ガスマン:『神様の思し召し』、ジャスミン・トリンカ:『息子の部屋』『イタリア的、恋愛マニュアル』など。
「才能溢れる役者に囲まれて仕事をするのは、とても幸運なことでしたが、3人は役へのアプローチがそれぞれ全く違うんです。だから僕の方も、それぞれに合わせて演出しました。アドリブが多いのは、ダントツでジャスミン。彼女は天性というか、とにかく才能に溢れていて、自由に自発的にアドリブができるんです」
「ファブリツィオは毎朝現場に入ると、その日のルーティーンをきちんと確認し、アドリブは最小限でキチッキチッと演じるタイプです。アレッサンドロはもう少しオープンですね。彼が素晴らしいのは、相手の役者さんの立ち位置を理解することに長けていること。だから、監督の仕事を助けてくれるタイプなんです。3人が異なったエネルギーを持っていたので、それを受けて僕もとてもモチベーションが上がりました」
──3人のタイプ、特にファブリツィオさんとジャスミンさんは想像と逆でした。
「今回の撮影で彼女の面白いエピソードを教えましょう。劇中、車の中でペネロペがカルロに色んな思いを打ち明けた後に吐いてしまうシーンがありますよね。実は彼女、本当に吐いちゃったんですよ(笑)。あの場面では、演技以上の感情を表現してくれていますが、感情を入れ過ぎて本当に気分が悪くなってしまったみたいで(笑)。まさに体当たりの演技でした!」
「撮影時、アレッサンドロがジャスミンに“僕が君の演技についていくから、自由にやってくれ”と言ったそうなんです。それであの場面が出来上がったわけですが、アレッサンドロが相手の動きをよく見て理解し、自分の立ち位置を決める俳優というのがよく分かるでしょ(笑)。既に100本以上の出演作がありますが、SNSで『泣いたり笑ったり』で演じた役が、これまでで一番いい役だった、と書いてくれて大感激しました。とても誇りに思っています!」
新作が既にNetflixで配信中!
──監督の最新作『マリリンの瞳は黒かった』が現在Netflixで配信中です。精神疾患を抱えたグループの人間模様やその家族、社会との関係などが扱われています。『泣いたり笑ったり』の脚本家のジュリア・シュタイガーヴァルトさんと、また一緒に組まれていますね。
「これまでの3作の脚本すべてを手掛けてもらい、一緒に仕事をしてきました。彼女は今、監督としての活動も始めました。これまで一緒にアイディアを出し合ってきましたが、次にまた一緒に新作映画を作ることになったら、監督業を経験した彼女によってまた何か新しい視点が見つかり、それが脚本に盛り込まれるだろうと期待しています」
──精神科のデイケアセンターで出会った人たちが、ひょんなことからレストランを経営することになる物語も、彼女のアイディアですか?
「すごい偶然ですが、ローマでこの『泣いたり笑ったり』の上映後に観た映画が、精神疾患のある人たちが色んな活動を行っている、ある団体についてだったんです。そこには、彼らがバールやレストランを経営している姿が映っていました。一緒に観ていたジュリアが、“こんなアイディアがあるよ”と言ったんです。新たに話を作り出すのではなく、こうして現実にあるものをヒントに映画を作りたいね、ということから生まれました」
──嘘を吐けない元シェフの男性と、口から嘘ばかりが飛び出す女性が、最初は彼女の嘘=架空のレストランだったのに、ネットで評判となり本当に開業してしまう物語です。これまで以上にコメディとして成立させるのは難しかったのではないですか?
「1作目の『Moglie e marito(妻と夫)』は、腹から笑えるようなコメディ。『泣いたり笑ったり』は、ちょっぴりセンチメンタルなコメディ。そして『マリリン~』は少し悲しい要素が入ったコメディ。いつも割に重く大きなテーマを扱ってきましたが、僕は常に“軽妙さと皮肉”を上手く取り入れて表現したいと考えています」
「特に『マリリン~』は、登場人物をからかったり、バカにするように見えてしまうリスクもありました。でも彼らに同情するでもなく、貶めるでもなく、淡々と描くことを心がけました。プロの俳優だけでなく、実際に疾患を持つ方に演技してもらう難しさもありましたが、良く見ないと分からないようなディテールで“面白いな”と思えることがたくさんあり、その面白味をうまく拾えたのではないかな、と自負しています。でも次に考えてるのは、全く違う方向性。コメディでもないので、また新たな世界観の映画になると思います!」
そう聞くと、次の作品も楽しみですね! さて、話を『泣いたり笑ったり』に戻します。
父親大好きな長男サンドロが、トニとの恋愛&結婚という話を聞いて、文字通り腰を抜かしてしまうシーンには噴き出しましたが(笑)、そんな彼がどう変化していくのかも大きな見どころです。彼の飾らない真っ直ぐな言葉が、強いし、泣けちゃうんです!
そして最大の問題はペネロペ! あの手この手で結婚を阻止しようとするのですが、なかなか彼女の考えが変わらない理由も、ずっと抱えて来た思いを吐露するシーンで納得というか、「辛かったね」と一緒に涙ぐんでしまうと思います。
チャキチャキしたトニの元妻が、これまたステキですが、なんと演じているのはアンナ・ガリエナですよ!! かの『髪結いの亭主』の、あの色香爆発の彼女が年を重ねて、こんな肝っ玉母ちゃん(でもセレブっぽくてステキ!)を演じてしまうとは、時の流れを感じます。この母からペネロペに対する鋭い一言も、最高に突き刺さります(笑)。
是非、ペネロペの心の旅路、そして解放と変化を楽しんでください。もちろんイケオジ2人の純愛にも胸キュンキュンです。最後はウルウルしながら、ぜひ劇場で幸せな気持ちを胸いっぱい吸い込んでください!
映画『泣いたり笑ったり』
監督:シモーネ・ゴーダノ
出演:アレッサンドロ・ガスマン、ジャスミン・トリンカ、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ
2019年/イタリア/100分/配給:ミモザフィルムズ
© 2019 Warner Bros. Entertainment Italia S.r.l. – Picomedia S.r.l. – Groenlandia S.r.l.
■12/2(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
『泣いたり笑ったり』公式サイト
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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