たくさんのニュースやエンタメがあふれている今の時代。スピード感のあるものが主流になっているからこそ、本を手に取り、時間をかけて物語の世界へ没頭しているときのリラックス感は格別なもの。
今回は、文筆家、編集者・小川奈緒さんの「これぞ」というおすすめの小説を紹介します。
お話を伺ったのは?
文筆家、編集者 小川奈緒さん
ライフスタイル全般をテーマに執筆活動中。最新エッセイ『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』が12月5日発売予定。Voicy『小川奈緒の家が好きになるラジオ』配信中。
●Instagram:nao_tabletalk
「私にとって小説は、生活を潤してくれる楽しいもの」(小川奈緒さん)
子育てが一番忙しかった頃、物語の世界を渇望していました
暮らしまわりのエッセイを世に送り出している小川さん。noteやVoicyなどのSNS上でも、子育てをしながら生活を楽しむコツを情報共有し、高い支持と共感を得ています。そんな小川さんは「今、小説を読んでいるのが最も楽しい自分時間」なのだとか!
「独身時代は旅先で好きな小説を一気読みをし、気分転換していました。そんなときに必ず携えていたのは、海外ミステリーや村上春樹さんの作品。村上さんは長編小説も多いですが、仕事がひと息ついたら自分なりに“再読月間”を設けたりもしていましたね」(小川奈緒さん)
お気に入りの物語を何度も読み返すほど小説好きだった小川さんですが、その後妊娠・出産を経て「とても小説どころではない」マインドに陥ったのだとか。
「エッセイや実用書は平気でしたが、小説を読むとなると、心のどこかで育児や家事が気になってしまい、読書にひたることができなくなってしまったんです。切り替え下手な性分だから仕方ない、と思っても、心のどこかで寂しかったし、物語の世界を渇望している自分がいました」(小川奈緒さん)
娘さんの中学受験が終わり、子育てに少し区切りがついた一年ほど前から、ようやく小説に没頭できるようになったのだとか。
「あまり長くない物語から楽しみ始めました。そんな中で今村夏子さんの中編は、入り込みやすかったですね。少しずつ小説の世界を味わう感覚を取り戻す中で、一気に読めてしまったのが、山内マリコさんの連作短編集でした」(小川奈緒さん)
小川さんはこうした小説への思いをVoicyで配信したところ、同じように「子育てをしながら小説を楽しみたかった」「忙しい中でも読める作品を探していた」と、リスナーの方々から大きな反響があったとか!
そこで小川さんは、自身のVoicyでつながった人同士が、本について意見交換をしやすいようにと、Instagramで「#Voicy家好き読書部」というリスナーさんの投稿による部活動を立ち上げました。
「Voicyの読書部では、私は『あまり来ない顧問』みたいな存在です。中には読書部をきっかけに、本屋さん巡りの楽しさに目覚めたという方もいたりするんです。
文章って、その人ごとに読める速さはそれぞれですし、物語は誰かに強要されて読むものではないはず。読書は、ほかの趣味に比べると、その人の暮らしに合わせて楽しめるのもいいところだと思っています。
それでいて、読み手ごとにオリジナルの世界を作れますよね。脳内で登場人物にふさわしい役者をイメージし、映像化されたものを見て、想像どおり、これは違うかな?なんて楽しみ方もできますし。読んだ本をもとに新たなコミュニケーションも生まれます。
例えばうちの娘は私に、作品をすすめるのが好きなんです。辻村深月さんのミステリー小説も、彼女の導きでハマり、映画化作品も一緒に行く約束をしています」(小川奈緒さん)
一日に数十分の小説タイムで自分を幸せにしてあげています
最愛の作品だけを収めた書棚
今、一日の中での読書時間は?
「寝る前にベッドの中で、が基本の読書時間です。それも読めるのは本当に少しで、長くて数十分かもしれません。在宅で物書きをしていると、読書もはかどりそうなイメージですよね。でも現実は家事と仕事が混在した状態。物語に集中する心身のゆとりは出てきましたが、まだまだ、自分だけのまとまった時間をとるのは難しいです。そして翌日のことを考えると、読書より睡眠時間を増やしたほうが、体にもいいはず(笑)。
でも私の場合、やらなくてもいいことを一日に少しはさむと、人生をより楽しめている感じがするんですよね。タスクをこなすだけの毎日は、何かが足りない気がして。私にとって小説を読むのは、コーヒーをいれて飲んだり、お菓子を作るのと似た感覚。ほんの10分でもいいので、最高に楽しめる小説タイムを作り、“自分で自分を幸せにする”感覚を味わっています」(小川奈緒さん)
小川さんの
小説愛が再燃すること間違いなしの小説3選
#01
『むらさきのスカートの女』
今村夏子
ディープな世界が繰り広げられるも、最後まで集中力が途切れずに読める
その街では密かな有名人である、むらさき色のスカートをはいた女性。彼女を観察し、友達になりたい「私」の自我を描く。
「人物同士のセリフが多く、どんどん読めてしまいました。設定や心理描写が独特で、小説にトリップした感を堪能できます」(小川奈緒さん)
#02
『一心同体だった』
山内マリコ
面倒くさくも愛おしい女同士の関係。思わず一気読みしてしまった名作!
1980年生まれの8人の女の子たち。その成長や迷い、友情を30年の年月の中で描き出した連作短編集。
「前の話で脇役だった子が次の話では主役にという構成も読みごたえ十分。時代ごとのカルチャーも描かれ、好みが合う人にはたまらないはず」(小川奈緒さん)
#03
『かがみの孤城』
辻村深月
中学生が主人公のファンタジーもの。でも、大人だって十分楽しめる!
学校生活になじめず、引きこもっていた中学生のこころ。ある日部屋の鏡が光って異世界へと誘う。そこにはこころによく似た子が集まっていた。
「娘からのおすすめ作。私には若すぎるのではと思うも、夢中で読破! 12月公開の劇場アニメも楽しみです」(小川奈緒さん)
次回は「『小説』の世界にひたりたい! フリーアナウンサー・宇垣美里さん編」をご紹介。
撮影/露木聡子 取材・文/石井絵里
こちらは2022年LEE12月号(11/7発売)「『小説』の世界にひたりたい!」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(掲載当時)です。
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