メンズノンノ出身“こだまたいち”さんが浅草の骨董世界に誘う。映画『ゆめのまにまに』インタビュー
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折田千鶴子
2022.11.10
自分が主演だなんて、衝撃的です。
思わず“ニュアンス・ボーイ”とお呼びしたくなっちゃう、なんか癒されてしまう俳優でミュージシャンのこだまたいちさん。ちょっとハスキーがかった声音が優しくて、いつまでも聞いていたくなってしまいます。そんなこだまさんが、『ゆめのまにまに』で映画に初主演しました!
1991年、愛知県出身。ファッション誌「メンズノンノ」の専属モデルを経て、俳優・フォークシンガーとして活動中。主な出演作に『左様なら』(18)、『アイネクライネナハトムジーク』(19)、『PRINCE OF LEGEND』(19)など。関西電気保安協会のCM「ある日突然関西人になってしまった男の物語」が話題に。シンガーとして、19年にEP「たいちのズッコケだよ人生は」をリリース。22年に新たなユニット「酔蕩天使」のフロントマンに。本作の主題歌「サンローゼ」の作詞作曲も手掛ける。酔蕩天使のファーストアルバム『ヨイテン』が、11月23日に HILLS RECORDSよりリリース予定。
──本作は、こだまさんの所属事務所ディケイドが30周年記念で作った作品だそうです。そこで主演ということは、これから会社を背負っていく存在として期待されていますね!
「先輩方に憧れて入ったディケイドの30周年記念で自分が主演というのは、衝撃的なことです。しかも設立が1991年3月で、僕も1991年3月生まれ。不思議な縁を感じて……。本作のテーマにもかかわって来ますが、僕はもう十分に大人で過去があり、未来もある中で、大事にしたいもの、手に入れたいもの、手放していきたいものなど、本作を通して色々と考えさせられました。自分の人生とも重なる部分があり、自分の整理にもなりました。単純に(初主演は)嬉しかったですし」
──撮影には、どう入っていきましたか?
「僕、結構気合が入り過ぎちゃうタイプで(笑)、150%出そう、とパンク魂みたいなのがあるので、それが良くない方に出てしまうことが多々あって……。撮影前に張元(香織)監督とお話させてもらったり、リハーサルを重ねたりして、監督が肩の力をほぐしてくれました。あとはもう、集中してやるしかない、という感じでした」
『ゆめのまにまに』ってこんな映画
東京・浅草六区に佇む古物店「東京蛍堂」では、不在がちな店主・和郎(村上淳)に代わり、毎日アルバイトのマコト(こだまたいち)が店番をしている。客は多くはないが、日々誰かしらが出入りしている。馴染みの仲見世の店主、町内会の人びと、古着物蒐集家たち、骨董マニア、女子高生など…。夏の終わりのある日、店主に逢いに来たような女性・真悠子(千國めぐみ)がフラリと訪れる。何を物色するでもなく、何となく毎日通ってくる彼女のことがマコトは気になり始め……。
──マコト自身、なんとなく掴みどころがない感じですが、どんな人物だと考えて撮影に入りましたか?
「確かに、自分の思いを発表するタイプの人ではないので、色んな読み取りようがあり、それゆえ色んな演じ方がある。だから監督とマコト君のバックグラウンドについて、かなりお話しさせてもらいました。そんな中でもマコト君が、たまにパーソナルな部分を出すことがあるんです。例えば“僕は20代の頃にお酒飲みすぎちゃったから、もういいんだよ”というセリフ。そんなことをサラッと言うマコト君は、結構、過去にいろいろあった人なんだな、と感じて。隠しているつもりはないけど、引き出しの中に何かをしまってる印象があり、掴みどころがないながらも、自分の中ではブレずに1本筋を通して演じられました」
──過去を抱えながらも、とても静かで優しいトーンでマコトが「東京蛍堂」に居るから、お客さんも、なんとなく店にフラリと入れるのでしょうね。
「しまっておきたい過去がある人だけれど、来るもの拒まずというか(笑)。浅草という町で接客業をしているわけですが、生粋の商売人という感じもしない。ただ、“はっきり物を言う商売人の文化”を学びながら、人と線を引く手段を心得ているのかな、と思いました」
──マコトの“ふわっと店先に居る、押しつけのない感じ”は、こだまさん自身が放つオーラと近い感じがありますよね。
「確かに、監督が僕のそういう部分を拾ってくれたのは、かなり大きかったと思います。完成した作品を観たら、自分が演じていたイメージと、印象が違うところもあって。自分が無意識にやっていた部分で、ポジティブな発見もありました」
浅草の持つ空気を全身にしみこませた
──舞台の“浅草”という町が、主要な登場人物みたいな存在です。
「魅力的な町だと思いつつ、本作に関わるまで、あまり行ったことがなかったんです。かつて浅草六区から大衆芸能が生まれ、それが今も続く歴史ある町ですよね。僕、コミックバンドの流れから、榎本健一さんや古川ロッパさんなど、昭和のコメディアンが元々好きだったんです。それこそ『浅草キッド』というか、ビートたけしさんの生い立ちとか、たけしさんの師匠・深見千三郎さんとか、元々とても興味があって」
「そういう空気を自分に染みこませようと、浅草をずっと散歩して回りました。浅草って、どこかアミューズメントパークのようなイメージというか(笑)、作り込まれた世界だと感じていたところもあって。今、若者たちが集うキラキラした町という側面もありつつ、裏通りにはリアルな生活感がある。表には観光客がいるけれど、裏には人力車を引く方々が休んでいる場所がある、みたいな。キラキラもリアルな生活感も含め、すべての空気を自分にしみこませようとしました。さらに撮影は21年9月くらいに行ったのですが、コロナ禍で人通りがなく、お店もシャッターが閉まっている状態で、コロナ禍ならではの空気がありました。浅草の町からエンターテインメント性が消えたような状態というのも、撮影のタイミングとしては貴重でした」
──そんな浅草の骨董屋という空間に日々身を置いて、どんなことを感じましたか?
「古物店として営業されている“東京蛍堂”というお店で撮影させていただきました。置いてあるものは、実際に売られている物たちです。撮影前、蛍堂の店主・稲本淳一郎さんに色々とお話をうかがって、いろんなことを学びました。一番面白かったのは、店内の掃除の仕方。店の中は貴重品だらけですが、どこに何があるかすべて把握していらっしゃって、忍者みたいにその中をかいくぐって、拭いていくんです。その歩き方が、すごくうまい! 置いてある物にぶつからないよう、歩きながら拭いて回る。ここで回転し、ここでくぐって……みたいな掃除の仕方を練習しました。店内の歩き方が上手くないと、絶対に説得力が出ないと監督もおっしゃっていて。“店内の歩き方”が最初のテーマでした」
──村上淳さんが演じる店主、和郎さんとは共演シーンが少ないですが、マコトにとって大きな存在ですよね。
「はい、共演シーンは1回だけです。でもマコトからしたら和郎さんは、やっと見つけた居場所なのかな、と。それほど距離は近くないかもしれないですが、和郎さんのこと本当に好きなんだと思います」
人やモノとの心地よい距離感
──蛍堂に集まる人たちが、みんな和郎さんを目指してくるけれど、なかなか会えない、みたいな。大して何も起こらないけれど、そんな人々との関係や距離感が心地よいですよね。
「地元の人や骨董マニア、子供や女子高生など、いろんな人たちが集まってきて、なんか羨ましさも感じました。マコトが居るか居ないか分からないような距離感で接することが出来るから、集まってくるのかな、と。すべてがファンタジーのようにも感じつつ、こういうことが現実にもあると感じたり。浅草だからこそかな、とか。僕もマコト君の距離感を見習いたいと思いました」
──最初にこだまさんが、“大事にしたいもの、手に入れたいもの、手放していきたいものなど、色々と考えさせられる”とおっしゃいましたが、人との関係においても、その通りですよね。
「僕が一番思うのは、いろんな人や物が吸い寄せられてくるように集まる不思議な“東京蛍堂”の中で、別れていくことも大きなテーマになっているんだな、と。それがとても勉強になりました。決して悲しい別れではなくて、愛着があるからこそ別れていく。どこからか物を仕入れ、お客さんがそれを買い、どこかへ運ばれていく。人も物も、ただその瞬間に集まっている、と。遥か大昔のものもあれば、少し過去のものもあれば。人にも物にも歴史があるという“時間”もテーマになっていますが、僕は、その“瞬間”というものにグッと来ています」
自由に生きるとは
──劇中、マコトも含めてみんなが店主・和郎さんのことを“自由だね~”と言います。自由な生き方って誰もが憧れるものでもあると思いますが、果たして何が自由な生き方なんだろう、とも思います。
「自由な生き方とは――自分でケツ持ちできること。最後の最後に責任を持てないと、自由には生きられないというか。自由そうに見える人って、めちゃくちゃ真面目なんだろうなって思います。自分の周りを見ても、自分がどうなっても自分が責任持つ。その分、人には迷惑を掛けない、しっかりした考えを持ってる人が多い気がします。 “自由”の捉え方も色々あって、都会の荒波の中を自由に泳いでいける人もいるでしょうし、フラリと一人で旅に出るような人もいるでしょうし。僕の周りにも、急に“仕事を辞めます”って海外に行く人もいて、スゴイと思います。行くこともスゴイですが、その準備を自分でしているのがまずスゴイ。いろんなことを片付けて行くわけじゃないですか、しがらみとか(笑)。その、いろんな情報を処理する能力がすごいな、って思います」
──こだまさん自身は?
「僕自身はいろんな人と関わり合いながら生きていきたいタイプ。1人で旅したいとか全然思わないですね。見たいものも、あんまりないし。どっかの秘境で“ああ、いい景色だな”と思うこともあるでしょうが、そういうことより僕は人と会話したい。そういうところから、“こんな人がいるのか”とか“自分にはこういう一面あるのか”と知っていく方が好きなので、孤独にならないように生きていきたいです(笑)」
──お話を聞いていると、こだまさんって“欲がない”ですね(笑)。
「現代人っぽいな、って思います。前に、現代人ってどんどん物欲が減っているって聞いたことがあって。今はSDGsが広く良きことと言われているので発言しやすくなりましたが、少し前までは“もっと欲を持てよ!”とよく言われた時期があります(笑)」
──ただ、“創作欲”とかはあるわけですよね!?
「多分、音楽にしても、役者として出演する作品にしても、ありがたいことに好きなことが続けられてるので、まだ“創作欲”を意識したことがないというか、多分気づいていないんです。でも、作品作りをやめられるイメージはまったくないです」
こだまさんの“サラッ”と洗い立ての木綿みたいな感触が、映画『ゆめのまにまに』にとってもフィットした、いや、こだまさんだから、こういう感触の作品になったと言った方が適切なのか。骨董屋さんの世界を覗けるのも魅力の一つです。何を求め、何を手放すのか。マコトが毎日、看板を出し、そこに居る、今と昔が交差する「東京蛍堂」で、是非、一時の心の休息を!
映画『ゆめのまにまに』
2022年 / 日本 / 101分 / 配給:スールキートス
監督・脚本:張元香織
出演:こだまたいち 千國めぐみ 三浦誠己 山本浩司 中村優子 / 村上淳 ほか
2022年1 1月1 2日(土)より東京・ユーロスペース他、全国順次公開
『ゆめのまにまに』公式サイト写真:山崎ユミ
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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