『浅草ルンタッタ』
劇団ひとり ¥1650/幻冬舎
大正初期の浅草に笑い、泣く! 劇団ひとりの最新小説
いまや芸人だけではなく、映画監督や脚本家としても評価を得ている、著者。最新小説は、大正初期の浅草を舞台に、人々の明るくたくましい人生が描かれる。
吉原の遊郭から少し離れた場所にある、置屋の「燕屋」。遊女が身を寄せる場だが、遊郭の中にあるお店とは違い、非合法の売春宿だ。さまざまな過去を持った女や男たちが暮らし、働いているこの店の前に、一人の赤ん坊が捨てられていた。突然の出来事に戸惑う店の人々の反対を押し切り、「私が育てたい」と名乗りをあげたのが遊女の千代。かつて彼女は、自分の子を亡くしていた。こうしてお雪と名づけられた赤ん坊は、燕屋で働く大人たちにとっても、アイドル的な存在として成長していく。中でもお雪を可愛がっていたのが、元は遊郭で名をはせた鈴江と、客引きの信夫だ。
9歳になったお雪は、信夫と老舗の芝居小屋へ行き、最先端の芸能・浅草オペラに魅せられる。ヨーロッパから輸入されたオペラは、浅草ではコミカルなセリフと踊りが繰り出される出し物として大人気になっていた。お雪はオペラへの思いが募り、観てきた作品を大人たちの前で披露するまでに。その愉快な歌と踊りは、燕屋の平和のシンボルだった。だがある日、客の横暴な行いで、お雪と千代は引き離され、鈴江や信夫など燕屋の人々の運命も一変する。
突然の悲劇に直面し、さらにたった一人で生きていかなければならなくなった、お雪。そのサバイバル術は、まさにドラマのようなユニークさ! そして彼女を守ろうと思い続け、行方を探す信夫と、信夫の兄夫婦など、周りの人たちの生きざまにも引き込まれてしまう。誰もが生命力にあふれており、どんなどん底にいようとも、力いっぱい笑わせてくれる。それも大笑いというよりは、奇想天外でどこかしみじみとしたユーモアになるのがたまらない!
浅草オペラという独特の芸能を軸に、人々の心のつながりを描いた長編。読んだ後は、「この文章が映像になったものも見てみたい」と思ってしまいそう。
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
三國万里子 ¥1650/新潮社
ニットデザイナーとして活動している著者の初エッセイ。幼い日、父に口走った何気ないひと言。旅館でアルバイトをした日々の記憶。結婚し、子育てする中で感じたことなどが綴られる。細やかな心の動きや、季節のうつろいなどの描写が美しく、読むとほっこりと温かな気持ちに。同時に「自分も、何気ない日常を書き留めてみようかな?」という気持ちにもなる!
『MAKI’S DAILY DISH』
ワタナベマキ ¥1540/主婦と生活社
本誌でもおなじみワタナベマキさん初のパーソナルマガジン。シンプルでおいしい料理、サスティナブルに続けられることや日々のスマイルのための工夫など、著者が家庭料理のモットーとしていることを一冊に。素材の味を引き出す調理法、長く大切に使える道具とその手入れの話からお気に入りの器の紹介など、料理を作る楽しさが沸き上がってくること間違いなし。
『ルッコラのちいさなさがしものやさん』
北澤平祐 ¥1650/白泉社
ねこのローズマリー、でんしょばとのパクチーとともに、さがしものやさんを開いている少女・ルッコラ。今日も彼女の元には、町に住む仲間からいろんな依頼が押し寄せる——。リボン、風船、動物などであふれたページから、お目当ての品を見つけ出すのが楽しい、探し絵の絵本。親子で読むと盛り上がれそう! ファンシーな色合いで、贈り物用の一冊としてもおすすめ。
取材・原文/石井絵里
こちらは2022年LEE12月号(11/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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