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映画『1640日の家族』里親家庭と実父…愛情と理性の間に揺れる心を描いた意欲作

2022.07.10

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Cinema Culture Navi

『1640日の家族』

『1640日の家族』

©︎ 2021 Deuxième Ligne Films – Petit Film All rights reserved.

本当の家族、子どもの幸せを熟考させられる意欲作

本能的な愛と理性の間で、しばし胸の揺れが止まらない。きっと多くの人が、主人公アンナに自分を重ね合わせ、“自分なら!?”と問わずにいられないだろう。

アンナは子煩悩な夫ドリスと幼い息子2人を育てながら、生後18カ月のシモンを里子として受け入れる。3人の子どもは本当の兄弟のように育ち、とりわけ年の近い次男とシモンは何をするのも一緒。月に1度の実父との面会交流を続けながら、幸せな4年半がたっていた。

そんなある日、シモンの実父エディが、息子との暮らしを再開したいと申し出る。まだ先のことと思っていた一家は衝撃を受けるが、児童社会援助局は粛々と進め、毎週末シモンがエディの家で過ごすことに。2人は父と息子として、ぎこちなく距離を縮め始める。しかしアンナは、面倒なことを自分に押しつけようとするエディに不信感を募らせる。そしてクリスマス。雪山のバカンスを楽しみにしていた子ども3人は、シモンがエディの家で過ごす援助局の決定に納得できない。アンナもまた、3人の望みを叶えようとし……。

1歳半から愛情を注ぎ育ててきた利発で素直なシモンを、しかも“ずっとママと居たい”と泣く可愛い盛りの6歳児を、いきなり手放せるか!? 頭では理解していても、いきなりすぎて心が追いつかないアンナの心情が痛いほどしみる。また息子2人が、“シモンを奪わないで”と騒ぐほど、やるせなさも募る。だが大切なのは、シモンの“今”ではなく、これからの幸せだ。アンナ家族と過ごしながら、“パパは今寂しいかな?”とつぶやくシモンに胸を突かれる。

妻を出産と同時に亡くし、赤ん坊との生活が立ち行かなくなったエディも、決して悪人ではない。立ち直り、息子と人生を再建しようとする意志は、当然尊重されるべきだ。シモンにとっても実の親と暮らすことが、きっと一番なのだろう。でも……。里親の愛情と理性、本当の家族とは? 胸の動悸は収まりそうにない。いろんな問いかけを含んだ、深い家族ドラマである。

・7月29日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
公式サイト

『WANDA/ワンダ』

『WANDA/ワンダ』

©1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

名だたる映画人が愛する“伝説的映画”がついに初公開!

田舎町の主婦ワンダは、居場所を見いだせず家事も子育ても放棄、夫に離婚される。ふらふらと見知らぬ男についていき、いつしか犯罪に加担し――。社会の底辺をさすらう女性の道行きを描く、当時では衝撃的な女性像ゆえか、そぎ落とした表現ゆえか、’70年ヴェネチア国際映画祭最優秀外国映画賞受賞作ながら、本国アメリカで黙殺された。享年48歳の監督・脚本・主演のバーバラ・ローデンの遺作。

・7月9日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト

『ボイリング・ポイント/沸騰』

『ボイリング・ポイント/沸騰』

© MMXX Ascendant Films Limited

キッチンは戦場!? 一流レストランの表と裏を激撮!

クリスマス直前のロンドン。妻子と別居中の人気高級レストランのシェフ、アンディはストレスMAX。そのうえ発注ミス、ライバルシェフやグルメ評論家の来店、厨房とフロア係のいさかい、クレーマーなど、次々問題が勃発し……。レストラン内外をカメラが自在に縫い、厨房からフロアに至るまでリアルに映し出す。正真正銘90分1カット撮影による臨場感が実にスリリング。人種差別についても考えさせられる。

・7月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開
公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子


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