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90年以上前に初演され、差別や貧困、資本主義社会を痛烈に風刺した音楽劇の名作『三文オペラ』。このたび、劇作家・鄭義信氏の手によって生まれ変わった『てなもんや三文オペラ』では、原作の舞台であるロンドンの貧民街が、第二次世界大戦で破壊された大阪砲兵工廠の跡地へと置き換わり、そこで貪欲にたくましく生き抜くアウトローたちの人間模様が生々しく描かれる。
理屈じゃなくて誰からも愛される。そんな主人公を演じたい
────生田斗真さん
「鄭さんが脚本や演出を手がけられる作品は、どれもエネルギッシュで、マイノリティに対する想いやアイデンティティを強く感じるものが多い印象があります。今作では、役者のセリフも歌の歌詞もすべて関西弁に。一見大胆なアレンジにも思えるけど、鄭さんの描く雑多で猥雑な世界観がベルトルト・ブレヒトの原作と絶妙にマッチしているなと感じました」
今回演じる主人公のマックは、戦後、廃墟と化した軍事工場で屑鉄やさまざまなものを盗んで生計を立てる盗賊団のボスという役どころ。
「マックは、結婚しているのに平気で恋人を作ってしまうような、生き方も言葉遣いも乱暴なキャラクター。だけど、周りの人に“こいつだったらなんか許しちゃうよね”と思わせるというか、理屈じゃなく愛されている人でもあるんです。それは、きっと乱暴さの中にも愛情深さがあるからかなって。その温かい部分を香らせることができればと……日々の稽古で絶賛模索中です!」
そう言って笑う姿は、ほどよく肩の力が抜けていて、とても自然体。そんな飾らない人柄のせいか、プライベートでは思わぬ出来事に遭遇することもあるんだとか。
「街で声をかけられて、“握手してください”って言われるのかなと思って待ち構えていたら、返ってきたのは“(櫻井)翔くんによろしく伝えてください!”のひと言(笑)。そういうことは、わりとよくありまして……。おもしろい経験ができて、いつもありがたいなと思っています」
インタビューが行われたのは、稽古期間の真っ只中。体力勝負の日々はこちらが想像できないくらいハードなはずなのに、「忙しい時期とゆっくりできる時期の繰り返しなので、LEEを読まれている皆さんよりもズルしている感じはあると思いますよ」と、軽やかに言ってのける。
「仕事のなかにご褒美があることもありますしね。今回の舞台に関しても、東京公演はもちろんですけど、全国各地に行けることも、ちょっとした旅行気分を味わえて、すごく楽しみにしています。福岡、大阪、新潟、長野……と、ここまで細かくまわれるのは久しぶり。土地によって全然違うお客さんの空気感を肌で感じたり、おいしいごはんを食べたり……。
あと、僕はツアー先のホテルに泊まるとき、部屋を自分の使いやすい仕様に変えるのにこだわっていて。ホテルって、机の上に、電気ケトルの使い方とかテレビのリモコンの説明書とか、いくつか冊子が並んでいるじゃないですか。物が少ない状態のほうが落ち着くので、あれをまず全部引き出しの中にしまうのが決まりです(笑)。
舞台期間中は、公演が終わったらまっすぐ帰宅して、なんでもよく食べて、しっかり寝て、体力を回復することがとにかくいちばん大事。快適な睡眠環境を作るためにも、それぞれの場所でホテルにチェックインしたら、冊子を片付けるところから始めようと思います」
いくた・とうま●1984年10月7日、北海道生まれ。フジテレビ系連続ドラマ『元彼の遺言状』に出演中。新作歌舞伎『赤胴鈴之助』に真摯に向き合う姿に約2カ月半密着したドキュメンタリー映画『生田斗真 挑む』が6月16日よりNetflixにて全世界独占配信。公開待機作に映画『渇水』(2022年)がある。
Instagram:toma_ikuta_j
公式サイト:https://www.johnnys-net.jp/page?id=artistTop&artist=19
『てなもんや三文オペラ』
1950年代の大阪。アジア最大の軍事工場跡地に眠る莫大な屑鉄を掘り起こす盗賊団の親分・マック(生田斗真)は、恋人のポール(ウエンツ瑛士)と結婚。それを疎ましく思うポールの父親(渡辺いっけい)の陰謀で、警察署長(福田転球)に逮捕されそうになり……。東京公演は(※6月11日から)30日までPARCO劇場で上演。7~8月には、福岡、大阪、新潟、長野での地方公演を開催。
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/sanmon
取材・原文/吉川由希子
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