『空にピース』
藤岡陽子 ¥1870/幻冬舎
どんな子どもにも上を向く権利はある!
公立の小学校で働く女性をヒロインに、教育や子どもを取り巻く環境について考えさせられる長編が、今月の一冊。
主人公のひかりは教員生活5年目で、新たな小学校へ赴任することに。そして6年生のクラスの担任になる。低学年や中学年を受け持った経験はあったものの、高学年をまとめるのは初めてになる彼女。最初は心を躍らせていたものの、生徒たちの言動や、学校全体の雰囲気に衝撃を受けていく。ベトナムからやってきて、日本語を理解しきれずに葛藤しているグエン、不登校ぎみで給食だけを食べに学校へやってくる大河。そしてひかりを驚かせたのが、授業中にもかかわらず、勝手に教室を出ていく真亜紅(まあく)の存在だ。
周りからは「一度キレると何をしでかすか分からない」と見なされている真亜紅に、同級生もほぼ無関心だ。さらに学校側からは「彼を始め、問題行動のある児童は見て見ぬふりをして下さい」と言われてしまう。それでも彼女は子どもを見捨てきれずに、自分ができる範囲で、彼らに寄り添おうと決意し、行動する――。
出身や家庭環境はバラバラの子どもたちだけれども、共通しているのは貧困と、そこからくる自信のなさだ。親が働きに出ていてずっと家にいないため、規則正しい生活習慣を教わっていない子、父親が失業し、進学をあきらめている子。そして家庭内でDVを繰り返された果てに、自分の感情を表に出せなくなってしまった子……。彼らの抱えている事情は、今の社会が抱えている問題を反映しているよう。それでもくじけずに子どもたちと向き合い、学校とも折り合いをつけようとするひかりから、学びや気づきを得ることは多いはず。
物語の後半は、「キレる子」の真亜紅と、彼の姉が抱えている事情に焦点があてられる。「子どもの成長のために、周りの大人が出来ることは何か」と模索するひかりにエールを送らずにはいられない。そして、自分たちの現状を受け止めながら未来へ一歩踏み出そうとする子どもたちと、ひかりの姿に、心が満たされていくはず。
『うまれることば、しぬことば』
酒井順子 ¥1650/集英社
SNS「映え」やグループや会社からの「卒業」、「自分らしさ」や「OL」などという、いつの間にか何気なく使っていることば。変化の激しい今の時代に、そんなことばはどのように使われるようになり、そして使用されなくなっていくのか。私たち使用者の意識や歴史・社会的背景から著者が考察したエッセイ。自分の使用してきた・していることばについて省みる機会にも。
『幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談』
中村うさぎ マツコ・デラックス ¥1760/毎日新聞出版
親友同士の二人が、依存、恋愛、家族関係などをテーマに寄せられた人生相談に答える一冊。「整形は美しくなるものではなく、自分のコンプレックスを徹底的に分析する手段」など、核心をついた意見が続出。辛口な二人の言葉の奥にある、他者への肯定や、慈悲深い目線に救われる人は多いはず。ストレスがたまったり、悩みのループに陥ったときの、よい処方箋になる。
『毎日のあたらしい料理』
今井真実 ¥1650 KADOKAWA
「無理をしない」、「自分の楽しみのために料理をする」をモットーに、日々に寄り添ってくれる料理の作り方を紹介するレシピ本。オムレツ、チャンプルー、煮物など、どの家庭の食卓にもなじみ深いメニューばかり。さらに野菜ひとつ、肉ひとつで作れるものもたくさん。そのうえで、素材や調味料のうま味を存分に引き出せる、滋養たっぷりの料理が作れる頼れる一冊。
取材・原文/石井絵里
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