『帰らない日曜日』
優雅な官能とほの暗い予感に心が震える愛の物語
圧倒的な美しさ! 広がる緑の丘陵、揺れる黄金の稲穂、どこまでも続く石垣、その広大な敷地に建つ優雅なお屋敷。絵に描いたようなイギリスの美しい田園風景を背に、名家の跡継ぎとメイドとの身分違いの恋を描いた本作は、一人の女性の人生の選択や自立、その生き方までを描き込み、彼女の心に刻まれた〈運命の一日〉を、より忘れ難くきわだたせる。
1924年3月。イギリス中のメイドが里帰りを許される母の日。ニヴン家に仕える孤児院育ちのジェーンは、数年前から秘密の関係を続けてきたシェリンガム家の跡継ぎ・ポールから電話を受ける。近隣の三名家での昼食会に両親と出席予定の彼は、遅刻を決め込み、誰もいなくなった屋敷にジェーンを誘い入れる。二人は心ゆくまで愛し合った後、遅れてポールは昼食会へ向かう。ゆっくりしていくよう言われたジェーンは、裸のままシェリンガム邸を探索しはじめる。パイを片手に一家の写真や絵を眺め、キッチンから図書室やクロークへ。女王気分を満喫し、ニヴン家に戻ったジェーンに、思わぬ知らせがもたらされる――。
若き頃の秘密の逢瀬や官能の日々と、作家として愛の日々を振り返る40代のジェーン、二つの時間軸の物語が交差する。ジェーンと関係を持ちながら、ポールは当然のように親が決めた名家の娘と婚約。しかも“婚約者は兄の恋人だった”と悪びれずに告白する態度からも、上流階級の価値観や因習の堅固さ、想像されうるジェーンのその後に心が揺れる。先のない恋と承知でも、晩餐会でつい必要以上にポールを見てしまう姿にハラハラ!
一方、親しい三名家の息子たちが第一次大戦で次々命を落とし、ポールだけが唯一生き残ったという、時代がはらむ悲しみと暗い影――名優コリン・ファースとオリヴィア・コールマンが親の悲しみを体現し、物語の味わいを重層的に深める。果たして生涯忘れ得ぬこの恋は、ジェーンに何をもたらしたのか。晩年の彼女を映す終盤、深い吐息と感慨があふれ出す。
・5月27日より新宿ピカデリーほか全国公開
・公式サイト
『マイスモールランド』
どうにかしなければと、心のザワザワが止まらない!
17歳のサーリャ(嵐莉菜)は幼い頃に来日し、日本で育ったクルド人。夢は学校の先生になること。バイト先で聡太(奥平大兼)と親しくなり、生活は苦しいが青春を満喫している。しかし突然、一家の難民申請が不認定となり、父親が入管施設に収容される。
サーリャのバイトも認められず、生活基盤が消失し……。こんな信じ難い理不尽に苦しむ人たちが、今、日本に多数存在することを知る意義深さだけでなく、青春映画としての煌めきも備えた佳作。
・全国で公開中
・公式サイト
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
人生絶賛模索中! ちょい痛女子の自分探しとお仕事映画
’90年代、作家を夢見てNYに来たジョアンナは、運よく老舗出版エージェンシーで職を得る。ヤリ手上司(シガニー・ウィーバー)のアシスタントとして、J.D.サリンジャー宛てのファンレター処理を任される。
一方私生活では、地元に恋人を残したまま、作家志望のカレと暮らし始め……。能力を過信して暴走する姿に、“あるある”と苦笑いで共感必至。自分を見つめ直し、人の痛みを慮れる成長、一歩踏み出していく勇姿が爽快!
・新宿ピカデリーほか全国公開中
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
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