妊娠中~産後は、体のさまざまな部位の色が濃くなりがちな時期。授乳期までは母性の高まりのせいか、自分のことなんてどうでもいいわモードに突入で、さほど気にならなかったりするものですが、ふと「いつの間にこんなふうに……」、「もしや一生このまま!?」などと密かに不安にかられる人も多いのではないでしょうか?
出産経験のある女性たちに話を聞いたところ、産後の色悩みの中でも、ツートップは「バストトップ(乳首)の色が濃いめになった」、「しみ(肝斑)らしきものができた」でした。まずは皆さんのコメントを紹介します。
■妊娠中&産後に「バストトップ(乳首)のトーンが濃いめになった」と感じた人の声(お悩み第一位)
・「卒乳後は元に戻ると思っていたが、濃い色のまま」
・「もともとは薄かったが、産後10日ほどで濃さがピークに。3ヶ月で卒乳したら薄くなった」
・「自分史上最高の濃さとなったが、赤ちゃんに吸われるうちに色が抜けていった」
・「産後も一切色が変わらなかったというママ友もいて、個人差が大きいのかな?と思った」
■妊娠中&産後に「しみ(肝斑)のようなものが顔にできた」と感じた人の声(お悩み第二位)
・「産後半年ほどでこめかみ周辺にうっすらとしたしみが。あるだけで5歳は老けた気がする」
・「紫外線対策をきちんとしていたのに、子供と散歩するようになったらできた」
・「デパートの美容部員さんに『そばかすですよ』と言われたが、美容皮膚科では『肝斑です』と断言された」
・「35歳で出産後、そばかすのようなしみが濃くなった。単なる加齢なのか、産後特有のものなのかは不明」
今回は、この産後の2大色悩みについて、専門家の先生に直撃してきました。お話を伺ったのは、「こすぎレディースクリニック」の院長、椎名邦彦先生です。
■妊娠後、なぜ色が濃くなるの?
高見澤 バストトップやしみに限らず、妊娠をきっかけに体の部位が黒ずんだという声をよくききます。何が原因でしょうか?
椎名 妊娠中の黒ずみは、妊娠ホルモンの増加が原因です。妊娠をすると、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)、副腎皮質ホルモンの分泌が急激に増加していきます。これらのホルモンはメラニン色素細胞を刺激するため、肌のメラニン色素数が増えて、色が濃くなるのです。
高見澤 「女性ホルモンが増える」というと、なんとなく美容によいことばかり起こりそうなイメージですが、色が濃くなるという影響もあるのですね。濃くなるかどうかは、かなり個人差があるような気もするのですが。
椎名 そうですね。妊娠前から肌の色や乳首の色素の度合いは個人差があるように、妊娠してからの黒ずみの度合いは、妊婦さんそれぞれ違いがあります。
■授乳に備えて乳首の色が濃く
高見澤 今回もっとも悩みが多かったのは、乳首でした。
椎名 乳首にはメラニン色素が多いので、黒ずみが出てくるのは正常の妊娠経過といえます。出産後に赤ちゃんがおっぱいを吸う力は強く、肌を強くする必要があります。そのため、メラニン色素を増やして産後の授乳に備えていると言われているんですよ。
高見澤 確かに産後、初めての授乳はものすごく痛くて、すぐに血豆ができて泣きながらあげていました……。あの激痛を思い出すと、色を濃くして肌を強くしておくのは大事なこと! という気がしてきました。
椎名 それに、赤ちゃんは視力も弱く、最初ははっきりした黒い色が見えやすいと言われますので、吸いつくための目印になっているのかもしれませんね。
高見澤 ほう……。授乳をスムーズにスタートさせるための変化だったんですね。授乳期を終える頃、気付いたら元の色に戻っていた、という声が多かったのも、納得できます。
椎名 妊娠から産後の色の変化は、通常は半年から1年程で薄くなっていき、一生ずっと残る方はいません。もし残ったとすれば、年齢と共に肌代謝が衰えてくすみが気になるように、年齢のせいでくすみになっている場合でしょうか。
高見澤 女性ホルモンのせいで濃くなるならしょうがないという気がしますが、年齢故のくすみならば、対策を立てられそうですね。
■しみは産後も残りやすいので注意
高見澤 色悩みツートップのもうひとつは「しみ」でした。こちらも、他の黒ずみ同様、産後は消えていくのでしょうか?
椎名 産後はしみの中でも肝斑(かんぱん)が出てくるケースが多く見受けられます。よくあるパターンは、両頬に広い範囲で濃くなるタイプですね。身体の黒ずみは産後徐々に時間と共に薄くなりますが、肝斑は出産以降も消えずに残ることが多いんです。
高見澤 確かに、しみに悩む方は、お子さんが2、3歳以上のママさんが多かったですね。
椎名 お子さんが成長して外出の機会が増えると、紫外線を日常的に浴びることになるので、よりしみが増えていく……とも言えますね。
高見澤 育児が忙しくて自分のしみになんぞ構っていられない! という心境のママさんも多いと思いますが、放置すると手遅れになりますか?
椎名 子育てが落ち着いてから治療にいらっしゃる方も多いですし、手遅れではないと思います。
高見澤 それは朗報ですね。あの、ちょっと脱線しますが、しみに似たもので、個人的にもうひとつ気になっているものがあるんですが……。妊娠後にほくろが大量にできるとか、濃くなるという話を聞いたことがあるのですが、本当でしょうか? 都市伝説的なものかと思っていたのですが、私自身も耳たぶのほくろが濃くなった気がしていて……。
椎名 ほくろは妊娠により増えると言われておりますが、急に目立って大きくなったり、数が増えることは通常ありませんよ。
高見澤 そうなんですか。では、耳たぶのは妊娠との関連性はなさそうですね……。
椎名 乳輪まわりにほくろが増えた、と思う方はいらっしゃいます。大抵の場合は、乳輪のモントゴメリー腺と言う皮脂腺が、妊娠により発達して目立ち始め、色素も濃くなった現象を、ほくろがたくさんできたと勘違いしているケースです。
高見澤 妊娠、出産は本当に色々な変化をもたらすのですね。
■自宅でできる乳首&しみの色対策も
高見澤 では、今回の2大色悩みに対して、有効な治療方法はありますか?
椎名 当院で対応できる内容ですと、美容施術ではイオン導入施術(ビタミンC美容液をお肌に浸透させる施術)ですね。外用剤では、ハイドロキノン・トレチノイン酸(美白・肌代謝促進作用のある医薬品)を使った治療があります。
高見澤 ハイドロキノンは、美白目的の治療によく使われてますよね。こちらは自宅での使用ですか?
椎名 はい。おうちでは子供の手の届かない場所で管理する必要があり、要保冷です。
高見澤 自宅でできるなら、多忙なママさんでも気軽にできそうですが、いつ頃から使用可能なんでしょうか?
椎名 ハイドロキノンは、妊娠中には使用できませんが、産後は使用可能です。ただし乳首には、赤ちゃんへの授乳があるうちは使用できません。授乳が完全に終わってからの時期に治療を始めてください。
高見澤 内服薬でおすすめはありますか?
椎名 しみ・肝斑に効果があるのは、トラネキサム酸です。こちらは産後、授乳中でも内服は問題ありません。
高見澤 トラネキサム酸は、喉が痛い時に内科などで処方されることもあるお薬ですよね。妊娠中の使用はどうでしょうか?
椎名 止血、抗炎症作用があり、妊娠中でも短期間使用する場合はありますが、妊娠中は血栓症のリスクが多少なり高まりますので、長期の使用はお勧めできません。
高見澤 なるほど。外用剤、内服薬ともに、きちんと病院で相談をして治療をすすめるのが安心ですね。勉強になりました。
来週水曜日に更新予定の後編では、妊娠前は知らなかった!? 意外な部位の色悩みについて、椎名先生に教えていただきます。ぜひまたご覧下さい。
■「こすぎレディースクリニック」椎名邦彦院長プロフィール
聖マリアンナ医科大学卒業
同大学院博士課程修了
カナダ・モントリオールマギル大学博士研究員(不妊治療)
聖マリアンナ医科大学病院産婦人科医局長
メディアージュクリニック青山院長(美容皮膚科・婦人科)(2007年-2014年)
東京女子医科大学美容医療科
愛育病院(東京・港区)など産科医療に20年以上携わるほか、不妊症治療専門クリニックにて最新治療に携わり
2016年3月 こすぎレディースクリニック開院、現在に至る
■「こすぎレディースクリニック」
2016年3月、武蔵小杉にて開院。基本姿勢は『癒して治す』。
最新の産婦人科・美容医療に、東洋医学などの代替医療やアンチエイジング医療を取り入れながら、女性がいつまでも健やかで美しくあるための医療を提供。
イラストレーション/烏山ミライ
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高見澤恵美 Emi Takamizawa
LEEwebエディター・ライター
1978年、埼玉県生まれ。女性誌を中心に女性の性質や人間関係の悩みに迫り、有名無名千人超を取材。関心あるキーワードは「育児」「健康」「DIY」「観劇」など。家族は夫と4歳の息子。