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CULTURE NAVI「BOOKS」

【書評】肉親や夫婦の絆を問う新作ミステリー/文縞絵斗『葛藤』、他3編

2022.03.05

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『葛藤』
文縞絵斗 ¥1870/講談社

突然、16年前に誘拐された娘に似た子が目の前に現れたらどうする?

『葛藤』文縞絵斗 ¥1870 講談社

本作が2作目の注目ミステリー作家、文縞絵斗さん。待望の新作は、とある夫婦の間に起こった誘拐事件を軸に進んでいく。

専業主婦の紗英と、地元の私立高校教員の丈治は、どこにでもいる中年の夫婦だ。しかし二人は16年前に、生後1カ月の娘を誘拐された過去を抱えて暮らしている。「娘はまだどこかで生きている」と信じ続ける紗英と、そんな彼女の姿に未だに戸惑い続ける丈治。失意を抱えたまま、形だけの夫婦関係を送っている紗英は、ある日ヒカリという少女と知り合う。

偶然にも彼女は丈治が務める高校の生徒だった。誘拐された娘と同い年のヒカリと親しくなるうちに、紗英は彼女が「自分の娘であって欲しい」と強く願うようになる。そして丈治も、ヒカリが何者なのかを知りたいと考えるようになっていく――。

誘拐事件をきっかけにすれ違ったままの夫婦関係、そして紗英の前で「私は実の両親に愛された実感がない」と語るヒカリ自身が、これまでに背負ってきた家庭環境も、物語の謎をさらに深めていく。誘拐事件の真相は? 紗英たち夫婦の子どもは本当に生きているのか? ヒカリはなぜ、彼らの前に現れたのか?などの疑問が次々と湧き上がり、素早い展開とともに、物語の世界にくぎづけになってしまう。

喪失感を抱えたまま生き続けてきた紗英が、ヒカリとのかかわり方に悩む姿も、また読みどころのひとつ。ストーリーの中では、まるで本物の母娘のような、ほのぼのとした交流を持つ二人だけれども、「ヒカリを娘の身代わりにしていいのだろうか」という違和感は、紗英の中で膨らみ続け、丈治にも何度も指摘されてしまう。しかしその葛藤は物語後半、事件解決の糸口へとつながる行動へと結びついていく!

肉親との絆やそれ以外の他者とのかかわり、さらには夫婦関係についてもあらためて考えさせてくれる丁寧な心理描写が魅力的。そして各人物の心の動きを追ううちに明らかになっていく真相――。「これぞミステリー小説!」と思える、ヒリヒリとした読後感をぜひ味わって。

『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』
【著】大竹 稽、スティーブ・コルベイユ ¥2200/BOW&PARTNERS

【著】大竹 稽、スティーブ・コルベイユ ¥2200  BOW&PARTNERS

日々湧き上がる悩みや疑問に対し、哲学者が教えてくれる“今”活用できる「物の見方」。整理、探求、創造などの章を立て、過去の哲学で繰り広げられた50の視点とともに、人間の普遍的な心理や、今の自分を突破するヒントを教えてくれる。「もっと多様なものの見方をしてみたい!」と思う人にはオススメ!

『ひとまず上出来』
ジェーン・スー ¥1595/文藝春秋

『ひとまず上出来』ジェーン・スー ¥1595 文藝春秋

ラジオ、文筆業と各方面で大活躍中の著者の最新作。人生経験を重ねてきた大人の女性に向けて、今、彼女自身が思っていることを書き連ねたエッセイ集。「〇〇らしさ」が持つ厄介さ、中年の仕事への取り組み方、心の傷の回復の仕方……。著者らしい、世のモヤモヤへの考察と「自分もまだ、迷いつつ生きている」というメッセージが秀逸。励まされます。



『こうして私は料理が得意になってしまった』
有賀 薫 ¥1650/大和書房

『こうして私は料理が得意になってしまった』有賀 薫 ¥1650 大和書房

毎日スープを作り続けるスープ作家の有賀薫さんによる、日常の料理の思い出や奮闘、工夫や喜びがつづられたエッセイ。各トピック末には話題に上がった料理や素材の小さなレシピ付き。さらに料理上達へのヒント、使い勝手のいい調理道具の紹介や整理術などのアイデアも詰まった、日々ごはんを作る人にとっては共感と発見が目白押しの一冊。


取材・原文/石井絵里


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