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LIFE

堀江純子のスタア☆劇場

七海ひろきさん演じる怪物の無垢さに浄化される、錦織一清さん演出舞台『フランケンシュタイン-cry for the moon』。観客も無垢な気持ちで観るべき【堀江純子のスタア☆劇場】

  • 堀江純子

2022.01.21

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“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.11:舞台『フランケンシュタイン-cry for the moon-』

“思い込みは捨てよ”
──そう強く思わされた『フランケンシュタイン-cry for the moon-』。

先日は東京公演初日に向けて、演出家・錦織一清さん×主演・七海ひろきさんのスペシャル対談が叶いましたが、その際、錦織さんは、こんなことをおっしゃっていました。

「僕は役作りっていうのがイヤだと思うほうなんです。怪物を演じていても七海さんが七海さんに見えたほうがいいと思う」

……とはいえ、科学者フランケンシュタインが生み出した怪物を演じる七海さん。“今回、あきらかに怪物ではない七海さんはどう自分を出す?”と錦織さんに訊ねたら、

「あきらかに怪物、ってところにイメージ持ちすぎなんだよね。だってわからないじゃない? 七海さん、モンスターかもしれないよ?」

そんな錦織さんの演出によって、そして七海さんのハートある演技で生まれたこの物語は、おどろおどろしいホラーではなかった。むしろ、まるでおとぎ話のような世界がそこにはあり、心の動きを味わうドラマがありました。

STORY: 19世紀、若き科学者ビクター・フランケンシュタイン(岐洲匠)は、科学の力を死体を蘇らせるという禁忌を犯した実験の結果、名もなき【怪物】(七海ひろき)を誕生させる。【怪物】は言語や知性を習得し、感情が芽生え、やがてコントロールできなくなるほどの怪力を身につける。その怪力に身の危険を感じたビクターからは見捨てられ、周囲の人々からも拒絶され疎外されて孤独になった時、盲目の娘・アガサ(彩凪翔)と出会う。彼女の美しい心に触れたことで、人間の理解と愛を求めた【怪物】が彷徨い行き着く先とは…。

怪物は演じる人によって無垢な美となる

若き科学者ビクター・フランケンシュタイン(岐洲匠)は神に背くように禁忌を犯し、科学の力で死体を蘇らせてしまう……それが七海さん演じる怪物の誕生でした。首に鮮やかに残る傷跡、右腕は怪物らしき悍ましさがありありと。しかし、ここは敢えて古巣の名を出して評価させていただきたい。宝塚歌劇団の元男役スターとして煌めきのなか、舞台に立ってきた七海さん。陰影をあらわにするスポットライトのもと光と影の双方を纏って生まれし怪物の立ち姿は、本当に美しかった。

決して曇ることのない七海ひろきさんの透明感

宝塚歌劇は時にファントムや物の怪、鬼、野獣さえもスターがその役を担う……。実は、閉ざされた伝統で成立しているようで、その懐は非常に広く、新しきにチャレンジしていく劇団と私は認識しているのですが、その劇団で育った七海さんはさすが、美麗を芯に携えた怪物でした。どんな役であろうと、主役として絶対的に持っていなければならないオーラは、宝塚が七海ひろきという生徒に持たせて送りだした宝であり、錦織さんが目指していたとおり、そこには私が認識している七海ひろきさんがいました。背徳の末、死体が甦り怪物が生まれてしまった瞬間なのに、その誕生の瞬間、劇場の空気は一瞬にして澄み渡ったような……。

それは七海さんが持つひとつの個性……どんな役を演じても決して曇ることのない透明感がそうさせたのではないか。ただ“怪物”という呼び名を授かっただけの、無垢な生き物であったのは、七海さんが培ってきた彼女そのものが投影されたからなのではないかと……錦織さんがおっしゃっていたことを思い出しながら、己の思い込みがフラットにされていくような感覚を味わいました。

猛スピードで育っていく怪物の様は、ピクサーのアニメのキャラクターが育っていくようなワクワク感もあり、まだ言葉がわからず“アー、ウー”と漏れ出る声で欲求を満たそうと自由に振る舞ってしまう怪物は赤ちゃんであり、幼い子ども。

彩凪翔さんのアガサはまるで聖母

ビクターと別れ、世間の渦に飛び込む怪物は街の人々から奇異な目で見られ、怯えられ、逃げられてしまう。ここで、思い込みの差別と、目の前にある本質の対比が見えてきました。その、キーとなる人物が彩凪翔さんが演じる盲目の娘、アガサ。自分たちと姿形が違うからと排除する人々と、怪物の姿が見えないアガサが対照的で。

心の目で感じ取るアガサは、怪物を恐ろしい存在とは捉えず、むしろ、ただ困ってる様子で、それを言葉で伝えることもできない怪物を感じ、加護し、言葉を教えて…そんなアガサによって、喜怒哀楽にも気付いていく怪物。アガサの柔らかに包み込むような優しさはまるで聖母のようで。



男役としての包容力が人としての懐の深さへ

七海さんと同様に、宝塚の男役としてバリバリにカッコよく、キザにキメていた姿がまだ記憶に新しい彩凪さんにとって、このアガサ役は退団後初めての舞台出演。錦織さんの導きがなければ、“あのザ・男役な彩凪翔さんが退団後一発目の女優デビューでよくぞここまで女性に!”なんて感想を書いてしまっていたかもしれません。

けれど、もう少し深く、男役時代の彼女を思い出してみれば、男役の美学としてのスキルでカッコよさを表現してはいたけど、清涼感のある声で、常に品のあるパッションを携えて演じ、歌い踊っていらした方であると……そこから、男役芸を外して、ある種、役者として無垢な状態で、アガサと向き合った。そこに生まれたのは、包容力。男役として娘役を包む包容力が、人としての懐の深さへと変貌した……。

おそらくそれはもともと彩凪さんが持ち合わせていた魅力ではないかと。彼女の新しいチャレンジの一歩が、飾ることを求められるのではなく、剥き出しにする勇気が必要とされるカンパニーであったことは、今後の彩凪さんの歩む道に礎になることと思います。

岐洲匠さんの若き科学者の冷酷と熱さの程よいバランス

そして、ビクター・フランケンシュタインを演じた岐洲匠さん。冒頭、科学者の狂気も匂わせる約10分間の語りで、物語の導入をしっかりと伝え、“怪物”を生み出す“起”の役目を負うことに。台詞で埋め尽くされたこの時間があっという間に過ぎていくように感じるのは、岐洲さんの語り口がシャープでほどよいリズム感があったこと。侵してはならない領域を正当化するのに、アグレッシブになるだけではなく、ある種冷やかに進めていく冷酷と熱さの程よいバランスがありました。

2人のイケメンな元男役にも負けない正統派美男子である容姿が、若き天才の過ちと、実は心の内にある愛情の両面を惹き立てることに。

元AKB48の横山結衣さんの卒業後初舞台。アイドルが、別世界で“別の本物”を掴んでいく

ビクターの婚約者となるリズには元AKB48の横山結衣さん。まだ若く、少女の愛らしさを持ちながら、しっかりと“女”を演じることができる人でした。アイドルであった過去を封印し、ある種覚悟を持ってリズを演じたのではないでしょうか。そんな潔ささえ窺えました。

すでに妖艶さも兼ね備えた彼女は、これから少女も大人の悪女役にもぜひぜひチャレンジしていってほしいですね。私はアイドルが、別世界で“別の本物”を掴んでいく様を見ているのが大好きなのです。

エンディングの射光に客席も包まれて

エンディング、ビクターと怪物を射光が客席をも包み込み、チャペルで祈りを捧げるような厳かな感覚にも陥った『フランケンシュタイン-cry for the moon-』。無垢な怪物と盲目の娘。そしてビクターも誤った鎧を脱ぎ捨てて光の道へ。人間の汚れの中に、生み落とされた怪物によって失うものは多かったようで、残されたものは光。その光の意味を私たちそれぞれが想う……そんな深くてちょっと痛い、おとぎ話でした。

『フランケンシュタイン-cry for the moon-』大阪公演中!

●スケジュール&場所:

大阪公演:〜1月23日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

原作:『フランケンシュタイン』(シェリー作 小林章夫訳 光文社古典新訳文庫刊)

出演:七海ひろき 岐洲匠 彩凪翔/蒼木陣 佐藤信長 横山結衣 北村由海/永田耕一

演出:錦織一清
脚本:岡本貴也

●料金:10,000円(前売・当日共/全席指定/税込)

●一般発売:11月20日(土)10:00〜

●公演情報詳細:

【公式ホームページ】 https://stage-frankenstein.com
【公式ツイッター】 @franken_cftm
【公式インスタグラム】 @frankenstein_cftm

主催:舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」製作委員会
©FCFTMP

●こちらのインタビューもぜひ合わせてお読みください

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「フランケンシュタイン-cry for the moon-」公式サイト 『七海ひろき Official website』 錦織一清公式サイト「Uncle Cinnamon」

写真/富田恵

堀江純子 Junko Horie

ライター

東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。

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