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【柚木麻子さんインタビュー】「読めば元気が出る『女性による女性の偉人伝』を書きました!」

2022.01.06

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巧みなストーリーテリングと生き生きとした人物造形に定評がある柚木さんの小説。最新作は、明治時代に生まれ、女子教育に尽力した河井道を中心に、彼女とシスターフッド(女性同士の連帯)を交わした一色ゆりや同時代の女性たちの活躍を描いた大河物語。

読めば元気が出る「女性による女性の偉人伝」を書きました!
────柚木麻子さん

柚木麻子さん

「道は、私が中高時代を過ごした女子校の創立者です。私はゆりの娘の義子先生に、聖書の授業を受けていました。それが今から数年前、女性の書き手から『柚木さんの小説ってシスターフッドですよね』と言われて、何のことかと検索したら、道とゆりの関係を義子先生が書いた本が出てきて。これって私の学校の話じゃない?と。さらに『マジカルグランマ』という小説の中で、一色家の洋館をモデルにした際に、増改築の独特さに驚いたんです。

それは一色夫妻が道を支えるために設計された家でした。また母校で文芸部のコーチを務めるうちに、史料室の写真に村岡花子など、朝ドラのヒロイン級の方々と道が写っているのを見て、より興味が。そんな私の在学中は女子高生ブーム真っ盛り。でも制服はないし、感謝デーでは野菜を売るのが習わし。豚の世話までする一方で、ディスカッションの機会も多い。楽しいけど変わった学校だと思ってました(笑)」

作品の取材開始時、柚木さんのお子さんは0歳だったとか。

「私、保育園40カ所落ちを経験しています。そんな中で、母校は子どもと出かけられる場所でした。義子先生は『子どもの声をさせてはいけない場所は不健全』が口ぐせ。史料室はコロナ禍で途中から閉鎖になったものの、学校の皆さんには温かく接していただきました」

さらにこんな連帯も。

「齢(よわい)90代も含めたOGにも話を伺って。先輩方は年齢を重ねても意欲的で、コロナ禍の自宅待機中、いつ連絡しても対応してくださいました。『探している資料、YouTubeにあるわよ!』と、情報収集能力も高かったです!」

世代を超えた女子たちの協力のもとに紡がれた物語。そしてもちろん、柚木さんらしい仕掛けも。

「読めば元気が出る伝記です。男性は男性を偉人にするのが得意ですが、女性は不得手な気がしていて。その中でこの分野を誠実に開拓されてきた先輩作家に敬意を払い、一作ぐらいエンタメがあってもいいのかなと。道は米国留学中に野口英世と接点があり、学校近くに太宰治が入院していたのも事実。『ならこんなことがあったかも』と想像を膨らませました」

そして今、私生活も「自分の感覚を大事にしている」のだそう。

「家事の時短テクは指南本の目次を読み、『ややこしい……私は逆に無理!』と撤退。40代になると、面倒くさいという感覚は、大事にしたほうがいいとわかってきました(笑)。20代の頃、周りに『セクハラ・パワハラはかわす&隙を見せないのが優秀な人』的な圧があって、謎だったんです。もうそんな価値観、通用しないですよね。『センスはよくないと』『モテてなんぼ』な風潮も、気にせず生きればよかったです。

LEE読者と同世代の私が、おこがましいですが『自分の“なんかめんどくさいな”って勘を信じ、周りのノリに忖度しすぎないで!』とは言いたい。河井道や彼女の仲間も、戸惑い、失敗もしつつ、己の勘を信じながら時代を切り開いたと思うんです」

Profile

ゆずき・あさこ●1981年、東京都出身。2008年に『フォーゲットミー、ノットブルー』でオール讀物新人賞を受賞し’10年に『終点のあの子』で小説家デビュー。『本屋さんのダイアナ』、『ナイルパーチの女子会』(山本周五郎賞受賞作品)、『マジカルグランマ』など著書多数。
Twitter:W7u8NXx595mJBux



『らんたん』

『らんたん』

大正末年。天璋院篤姫にその名をつけてもらった一色乕児(とらじ)は、見合い相手の渡辺ゆりにプロポーズ。彼女の返事は「シスターフッドの契りを交わしている道という女性と、3人で暮らしたい」という内容だった。明治に生まれ、大正、昭和時代に女子教育へ新たな風を持ち込んだ私立恵泉女学園の創立者・河井道をヒロインにした大河小説。(¥1980/小学館)


撮影/古本麻由未 取材・文/石井絵里

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