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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【松本まりかさんインタビュー】『雨に叫べば』でエロス映画監督に! スタッフにイジメられ、踏ん張る勇姿に噴き出し笑い必至!【Amazon Prime Videoにて独占オンライン公開中】

  • 折田千鶴子

2021.12.17

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『ミッドナイトスワン』の内田英治監督作

最近の松本まりかさんの活躍、スゴイものがありますよね。現在も主演ドラマ「それでも愛を誓いますか?」が放送中ですが、今年は姿をずっと見ていた気がするほどです。そんな松本さんが、今度は配信映画『雨に叫べば』でエロス映画監督に! しかも『全裸監督』『ミッドナイトスワン』(どちらも最高!!)の内田英治監督作です

舞台は、昭和の映画撮影現場。当たり前のように色んなハラスメントが噴出し、それがもうイヤなんですが、笑える域に達していて面白い!! ということで、松本さんに撮影裏話を聞いてみました。「80年代って本当に皆さん、こんな派手な格好していたんですか!?」と言いつつ、80年代の装いで登場してくれました!

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松本まりか
1984年9月12日、東京都生まれ。2000年にドラマ「六番目の小夜子」で女優デビュー。数々のドラマに出演し続け、2018年にドラマ「ホリデイラブ」の井筒里奈役を演して大ブレイク。近年の出演作に、「竜の道 二つの顔の復讐者」「妖怪シェアハウス」(2020年)、「教場Ⅱ」「最高のオバハン 中島ハルコ」WOWOWドラマ「向こうの果て」(2021年)など。
──この『雨に叫べば』の前に、WOWOWオリジナルドラマ「向こうの果て」でも内田監督とご一緒されています。ドラマの撮影中から、本作の話が持ち上がっていたのですか?

「直接ではありませんが、“次も”とおっしゃってくれたようで、すごく嬉しかったです。連続して主演を任せてもらえるなんて、光栄です」

──しかも2作とも昭和が舞台って、どれだけ業が深いのか、みたいな感じで(笑)。

「そうなんです。監督と主演女優が何本も一緒に作品を作るというのも、なんか“昭和の監督と女優の関係”っぽいですよね(笑)。私もギリギリ昭和生まれですが、昭和の記憶は全くなく、ほぼ平成を生きてきて、令和では仕事をたくさんいただけるようになった。だからこの作品で描かれる昭和の世界も知らないのに、私は昭和の方が生きやすかったかもしれないな、と思ったりして。業が深い役も多いですし、うん、業が深い(笑)。私に流れている血は、昭和だなって思います」

配信映画『雨に叫べば』ってこんな作品

©2021東映・東映ビデオ

1988年、とあるスタジオ。新人監督・花子(松本まりか)が撮影現場から逃亡し、車の中に立てこもっています。それを取り囲み、罵声を浴びせているのは現場のスタッフたち。現場プロデューサーの橘(高橋和也)は遠巻きに眺めていますが、アメリカ帰りのプロデューサーの井上(渋川清彦)が花子を説得し、現場に戻します。何とか撮影が再開しますが、今度は主演のアイドル俳優・新二(須賀健太)の演技がグダグダ。さらに問題は次々と勃発、肝心の映画は完成するのでしょうか!?  コンプラ意識のない当時の撮影現場を舞台に、映画制作の舞台裏を覗かせてくれる、笑いと阿鼻叫喚に溢れたヒューマン・コメディです。

──松本さんが“生きやすかったかも”と思える昭和の魅力は、何でしょう?

「とにかくストレート。本作の登場人物みんな、自分の欲求にストレートで、協調性を知らないというか(笑)。良くも悪くも、みんなものすごく尖っていたと思うんです。自分の仕事にプライドを持ち、自分の作品を作るんだと撮影部、録音部、照明部、メイク部、衣装部などみんな職人のようで、ギラギラと作品に向かっていた。そのエネルギーが、すごくいいな、と。調和の時代である今の方がいい時代だとは思いますが、どこか調和し過ぎて情熱を失ってしまったというか、自分の意見も言えない時代でもあるというか。一方で、悪い面としては、現場で怒号が飛び交うような、理不尽なパワハラがあって。その辺りも、すごくビビッドに描かれています。しかもユーモアたっぷりに、現場のドタバタが面白可笑しく描かれている。血がみなぎっている感じに、ワクワクしちゃいますね」

──ところで、松本さんの“昭和の血”は、どこから来ているのでしょう!?

「母が仕事をしていたので、私はほぼお祖父ちゃんお祖母ちゃんに育てられたんです。寝るときに昭和という戦中戦後の激動の時代の話を生々しくも鮮明に聞いていたので、その影響もあるのかもしれませんね」

新人監督役へのアプローチ

──監督なのに車に閉じこもっている冒頭には、正直ちょっとイライラしました(笑)。そこから監督として変化・成長していくわけですが、どんな風に“監督・花子”を作っていったのでしょう?

「冒頭の場面は、内田監督から“自信がない感じで、おどおどしていて欲しい”と言われました。私も“もうちょっと、ちゃんとした方が……”と言いましたが(笑)、弱気でいいんだ、と。というのも花子は、内田監督ご自身がだいぶ投映されているので、そういう姿を打ち出したかったのだと思います」

©2021東映・東映ビデオ

──これも冒頭に近いシーンですが、監督のくせに撮影中に居眠りするって、と(笑)!!

「そうなんですよ(笑)!! しかも花子って、どうでもいいような“湯気”の演出にこだわって、無駄に何度もテイクを重ねたりするんですよね。今のデジタルと違って、当時はフィルムだから高いのに。どうしても“湯気を出す”場面を作りたかったのも、内田さんの実体験らしいです(笑)。監督が“カット!”と言うと、現場にいる全員がバッと振り返るんです。OKなのかダメなのか、全員に注目されている中で、“もう1回お願いします”と言うのは、内田さん、本当に胃がキリキリしたらしいです。私も花子を演じて初めて、その気持ち、すごく分かりました。みんなのガックリ具合、溜息、“なんだよ”という呟き、そしてザ~ッと全員が作業に戻って行く感じが……すごくて。あまり内田さんは自分のことを語られない方なので、そういう意味でも、すごく楽しかったです」

──花子が撮っている作品『愛の果て』は、兄・和人(矢本悠馬)の婚約者(大山真絵子)を寝取ってしまう弟・新二(須賀健太)の三角関係の話です。かなりベタな作品で……(笑)。

「そうなんですよ。私(花子)にとってのキャストは、3人だけですが、俳優にあんなコテコテの芝居をさせているのに、こだわるのは湯気か、と(笑)。湯気の前に芝居じゃないかなと思いつつ、それがまた面白くてたまらなかったですね(笑)。でも、そこに花子の美学があるんでしょうね」

──花子に強力に圧をかける現場のスタッフ役に個性派実力俳優が揃っていて、皆さんお上手だからイジメに近い言動が、イヤだけど面白くて。

「そうなんです。撮照録のベテランスタッフによる罵詈雑言の数々までも本当に面白く演じられるんです。どんなに過激な事していてもどこかチャーミングで憎めない。人間力と俳優力に溢れていて。皆さんの絶品の演技の中でのこの監督役は贅沢でしたね」

©2021東映・東映ビデオ

──その一方で、新二を演じるのがアイドル俳優という設定で、“絡みがあるなんて聞いてない”とか、前貼りを嫌がったりする展開も可笑しくて。“前貼り”という代物を正面切って見たのは初めてでしたが、むしろ全裸よりも恥ずかしいというか、なんか妙に滑稽で笑ってしまいました。

「そう、前貼りって滑稽なんですよね(笑)。そういう撮影現場の裏側を、本当にまざまざ見ることが出来るのも、本作の大きな魅力です。ちなみに、私も劇中の現場スタッフも、常に『愛の果て』の台本を持っていますが、あれ、実は中身を開くと『雨に叫べば』の台本になっているんです。巻末の数頁だけ、『愛の果て』の物語が載っていて。そういうのも含めて、すべてがジワジワくる面白さでした」

──そして花子は段々と“自分の作品を作っている”と目覚めていきます。そして終盤、覚醒します。

「今日の感じのメイク&ファッションは映画の最後の方に出てくるものに近いですが、元々そんな予定ではなかったんです。でも監督から“最後、一気に劇的に変わって欲しい”と要望があって、メイクさんの“赤リップ引きますか!?”の一言から、メイクさんやスタイリストさんたちと一緒にビジュアルを作り込んでいきました。それによって、自分(花子)にも自信が出てきて、強い女性になるような感覚もあって。それは発見でしたし、みなさんと一緒に作っている感があって、すごく楽しい作業でした」



いい作品を作るということ

──劇中、芸術作品を追及するのか、それとも映検(※架空の団体)を通すために妥協するのか、別の方法を探るのか。作り手としては究極の選択を迫られたりします。

「普段の私は、そういうことで悩んだことはありませんでしたが、大きな問題なんだと気づきました。撮りたいものは映検に引っ掛かってしまう、でも映検に通らないと大勢の観客に見てもらえない。そんな葛藤の中、監督やプロデューサー陣はいつも闘っているのか、と良く分かりました」

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──本作にも、たくさんヒントが隠れていますが、詰まるところ“いい作品を作る/いい作品が出来る”には、何が大切だと改めて思いましたか?

「現場の全員がいい作品にしようと思って作品に臨んでいることが、やっぱりすごく大事なんじゃないかな。どんな小さな役や役割でも、みんなが遣り甲斐を持って、“自分たちは素晴らしいものを作っている、人の心に影響を与えるんだ”という意識や心持ちで居ることが重要だと思います」

──現場を振り返ると、どの場面が爽快だったと思い出されますか?

「やっぱり最後、みんなで踊り出すところですね。あれだけ言い合ったけれど、みんなが変わっていって、“これが、やりたいものだ”というものを見つけていく様は、すごい爽快感がありました。なぜいきなりミュージカル!?とは思いましたが(笑)、みんなの気持ちが一つになったことを、台詞などで説明するのではなく、歌って踊ることで表現してしまう内田さん、スゴイと思いました」

2021年はどんな年だった!?

──ところで松本さんご自身も、花子が圧を受けまくったように、これまで“理不尽だな”と思うようなことを経験されてきましたか?

「もちろん、たくさんあったと思いますが、全部自分の責任だと思うようにしてきました。私は声がこんな風なので作ってるんじゃないかってよく言われましたが(笑)、いくら“私は違う”と言っても仕方がない。相手が私の何かが気に食わなくて、何か不快な思いをしたのは事実なので。だったら“違う”と叫ぶのではなく、そう思われないようになればいい、と考えてきました。そう思われないような位置まで自分が上がればいい、と。例えばライバル視されてイヤなことをされるなら、ライバルだと相手が思えないくらいまで自分が上がればいい。まだまだハードルは高いですが、そんな風に自分で自分を鼓舞していけたらなと」

──相手を憎まず、自分も落ち込まず、というのはなかなかハードですね。

「その瞬間は嫌な気持ちになってとしても、誰かを憎む感情が醜いし、そうすることで嫌な顔になったり、自分の嫌いな自分になる気がして。人を憎まないと決めたことが、一つ、自分の大きな支えになっています。他人のことは変えられないけれど、自分は自分で変えられる。少なくとも変われる可能性はある。だったら、勝手に相手が自分を好きになってくれるような状態を作るのみかなと」

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──さて2021年も残り僅かになって来ました。今年を振り返って、松本さんにとって人、モノ、映画や本など、何か大きな出会いがあったら教えてください。

「台湾映画の『少年の君』は、かなり衝撃的で、震えました。ああいう作品をやってみたいと思うような、社会的にも個人にも訴えかける、意義ある作品です。“君は世界を守れ、僕が君を守るから”という台詞の、ピュアな美しさ! 頑なに貫き通す、愛と信頼の深さに胸を打たれて。とっても真実が詰まっている映画なので、とにかく観て欲しいです」

「そして、やっぱり本作の監督・内田さんとの出会いは大きかったです。2021年の1月からドラマ「向こうの果て」の撮影が始まり、それが私の初めての主演作で。そして本作で2021年が終わるという、内田組で始まり内田組で終わる、と。実はドラマの撮影中に、内田さんの『ミッドナイトスワン』が賞を獲ったので(日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀主演男優賞)、現場もすごい盛り上がったんです! すごく嬉しくて、低予算で撮られた作品が受賞するなんて、少し時代が変わったようにも感じました」

「今年は、本当にたくさんの役を演じ、主演作を4本もやらせていただけたことは大きかったと思います。こんなにも求めてもらえることに幸せを感じた反面、追いつかない悔しさもありました。来年は、丁寧に作品に向き合い、走るのではなく、一歩一歩を感じられる1年にしたいです」

来年も松本さんの活躍が楽しみですね!

と、その前に、是非『雨に叫べば』を観て、年末をお過ごしください!

『雨に叫べば』

2021年/製作:東映、東映ビデオ/©2021東映・東映ビデオ

監督・脚本:内田英治

出演:松本まりか、大山真絵子、モトーラ世理奈、渋川清彦、矢柴俊博、内田慈、石川瑠華、佐々木みゆ、ふせえり、森下能幸、菅原大吉、須賀健太、濱田岳、矢本悠馬、相島一之、本田博太郎、大和田伸也、高橋和也ほか

 

Amazon Prime Videoにて独占オンライン公開中

『雨に叫べば』公式サイト

写真:藤澤由加

ヘアメイク:ミック スタイリスト:秋山瞳

衣装:yueni、TITE IN THE STORE、SWASH LONDON、ReFaire、ellesse、Three Four Time

 

 

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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