コロナ禍で働き方の変化にともない、家庭での家事育児の役割分担、さらには夫婦の関係性の変化につながっています。さまざまな世間のアンケート調査が出てその度に報道されていましたが、「在宅時間が増えて、以前より夫婦関係が良好になった」というポジティブなものもあれば、「一緒にいることが増えて、関係がより悪化した」というようなネガティブなものまで、結果はいろいろ。この差はどういうことなのでしょう。そこで社会学で家族について研究を続けていらっしゃる、立命館大学・産業社会学部の筒井淳也教授にお話を伺いました。
コロナによって二極化。うまくいく夫婦とそうではない夫婦の違いは?
──コロナ禍によって、夫婦関係が悪化しているところと、以前より良好になっているところと二極化している印象がありますが、どのように捉えていらっしゃいますか?
筒井淳也教授(以下、敬称略):まさに二極化と言っていいと思います。これらは在宅時間が増えることが影響していますが、コロナ前から家庭内の連携が上手くいっていたところは良いですが、連携できていないところは余計にこじれてしまい、負荷が増幅されている印象です。内閣府の調査「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の調査では、家族の在宅時間が長くなった場合に不満を感じている女性が多いという結果がでました。しかし他方で、夫婦間で話す時間が増え、男性の家事育児時間も増え、不満が解消されているというケースも多くあります。
──夫婦関係だけでなく、教育やデジタル化など社会のあらゆる業界で潜在的にあった問題が、コロナによって露呈させましたね。
筒井:そうですね。社会学的にいうと、ここ100年ぐらいかけて保育や教育、外食などを中心に、家庭の機能を「外部化」してきましたが、コロナによって家庭の機能が内部に差し戻されました。ですから、外部に頼らなくてもやっていけるご家庭は耐えられましたが、シングルマザーをはじめとする外部に頼らないと機能しないご家庭は、困難な状況に陥ってしまった。職住分離も長期的に進めてきたのですが、テレワークが急速に進んだことによって、今回歯止めがかかりました。これって大事件なんですよ。
──でも、職住分離に歯止めがかかったのは良いことでは?
筒井:会社勤めが増えた影響で女性が働きにくくなったという側面はたしかにあるので、そこに歯止めがかったのは良いことです。政府もテレワークをずっと推進してきましたが、なかなか進まずにいたので。ただ、それが裏目に出ている家庭もある、ということです。
解消されていない「親ガチャ」、社会全体で家族を争点にするには遅すぎた
──筒井教授が社会学で「家族」を研究するようになったのはどうしてですか?
筒井:近代化が進む中で、生まれによって格差が出ないような調整が徐々になされるようになってきました。例えば、障がいを持って生まれてきた人へは社会が保障しようとか、ジェンダー平等などもそうですね。しかし、なぜか「家族」だけは調整できておらず、生まれや親によって子どもの人生が決まってしまう。
「親ガチャ」という言葉が話題になりましたが、改善されぬままずっと放ったらかしになっていて。「不思議な現象だな」と思い研究を始めました。他方で、計量社会学とは、人々の社会の仕組みや意識、行動様式を客観的なデータから捉えて研究します。特に、少子化や未婚化が大きな社会問題になっているので、こちらは研究者の使命としてデータの分析に取り組んでいます。
──コロナがあってから、家族のあり方を社会全体で問い直す機会が増えましたよね。
筒井:遅いぐらいです。これまで、家族の形など政治や政策の争点にはほとんどなりませんでしたが、今では選択的夫婦別姓や保育のこと、少子化が影響しているテーマが選挙の中でも割と大きなトピックになるようになりました。
あとはジェンダー平等の流れもありますね。日本では徐々に共働きが進んでいるのに、家事分担の不公平はあまりにも強い。男性に「今週、食事を何回作りましたか?」と統計を取っても、ほぼゼロ。地方、特に非都市部に行くと「家事なんて男はやらない」「恥ずかしくてできない」というのはよくある話です。
家事分担を進めるには、仕事と家事を同列にあつかう
──家事分担が進んでいる家庭と、そうでない家庭の違いはどこにあるのでしょうか?
筒井:調査しているのですが、強い要因が見えてこなくて。学歴や収入、労働時間などで計量化するのですが上手に説明できない。こうなってくると「みんなもやらないから」「自分だけ家事なんて恥ずかしい」など、感覚的なところかもしれません。日本人女性もこれだけ家事分担が多くても文句を言わない。どこか「家事は女性がするのもの」と思っているので「当たり前の水準が変わっていない」が一番の大きな要因かもしれません。
──…なるほど。それはあるかもしれません。自分たちの中に刷り込まれた、当たり前を変えるには?
筒井:アンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)をなくすことでしょうか。CMは進んでいて、食器を洗っている男性のシーンが多くなりました。家事を男性がすることを当たり前のことにするには、CMやドラマなどのメディアの力は大きいです。
──パートナーに家事分担してもらうために、どう働きかければいいかわからないで悩んでいる人も多いです。
筒井:一つ具体的な方法として言えるのは「仕事と家事を同じように扱うと、ハマる男性も多い」ということです。家事も育児も、会社と似たような仕事でして。食事を作る時は冷蔵庫の在庫を消費管理しつつ、家族の好みなども把握してカスタマー優勢にして…こういったことが、女性は家庭内でも自然と複合的にできるのですが、男性はそこまで家庭内では意識をしていない。そうなると女性側がイライラして「もういい!」ってなってしまいがちですが、そこをこらえて。夫が「自分は仕事ができる」という自負があるならそこを刺激して、「仕事ができる人は家事もできる!」と家事でもその力を発揮してくれるはずです。
──確かに。夫はコロナでリモートワークになってから、仕事の前に朝の家事をルーティン化してくれているので、すごく助かってます。私は流動的に動くので、今はバランスがいい。ですから、出社ベースになると困ります(苦笑)。
筒井:個性が出てうまく回っているんですね。もし、そこでうまくいかなくなる場合があれば、家庭内でもミーティングをすれば良いですよ。ただ、仕事でのミーティングと違う点は、AとBで意見が食い違っても、会社なら上司なり第三者が判断してくれる存在がいますが、家庭内では夫婦で意見をすり合わせをするしかない。
──そこの調整、難しそうですね…!
筒井:ポイントは、「これに関しては相手のこだわりが強い」と思うことには手をださないこと。うちも洗濯だけは夫婦間で価値観が合わないんです。僕はタオルを干すとき、端がずれていても気にならないのですが、妻は少しでもずれていると気になるようで、なかなか参画されてくれません。だから洗濯に関しては、調整するのを諦めました。
ズボラでいい!とにかく家事時間を短縮して、ゆとりを
──暮らしにゆとりある時間を生みだそうという「ゆとりうむプロジェクト」の理事長をされていますが、最近 #ずぼら飯 #ずぼら主婦などのキーワードもよく見かけます。
筒井:#ズボラ飯でも時短でもなんでもいいんですが、日常にゆとりがないときついです。ゆとりうむでも家事をできるだけ圧縮して、過剰な家事サービスは求めないことを推奨しています。アンケート調査にも出ましたが時短・分担をしている方が、家事のイメージをポジティブに捉えている結果もあるので。
──時短や分担すること自体を、楽しんでいるのですね。
筒井:そこで円満夫婦の在り方3か条を作りました。①時間的ゆとり②空間的ゆとり③心理的ゆとり。夫婦と言っても他人なので距離感を持たないとケンカしますし、相手に求めすぎないことも大事。
──サイト内にある「家事のクリエイティブ診断」をやりましたが、ミニマリストタイプとかハイセンスタイプなど、家事のバリエーションが多彩で面白かったです。家事のやり方って色々あっていいし、優劣ないな、と。
筒井:それぞれのやり方を認めるという意味でも夫婦で診断をやってみると面白いですよ。家事って個性があるので、とにかく時間を短くして、なるべくクリエイティブな楽しい時間にする努力をしてみる。どこかで時間をとって新しいやり方を開発していかないと、変わっていきませんから。
例えば「下味冷凍」と言って、冷凍前に調味料を一緒に入れて下味をつけて冷凍しておく。最初は正直言って、面倒臭いです(苦笑)でも慣れたらラクだし面白い。どこかで覚悟を決めて、今後、ラクになるための工夫を取り入れてみましょう。
コロナ前に戻らないために、長期的に家事担当決めるべし
──出社傾向になりつつある今、夫婦間での家事分担をこのまま継続させる秘訣は?
筒井:男性が変われるかどうかなんです。コロナがまた流行り始めても政府は助けてくれないから、家の中で解決しないといけない問題は多いぞ、と意識しておく必要があります。これまで面倒な作業を女性に押し付けてきたので。
──そこは相当根深いですね…。
筒井:根深いから残るんですよ。男性の家庭参加が進んでいる国でも、急には変わらなかった、30年ぐらいかけて少しずつ変えてきた。それでもやっぱり女性が担っている家事は多いので、これをきっかけに変わっていくのでは?
──やってみないと家事の難しさってわからないですよね。
筒井:あと見えない家事の存在を知ることが大事です。洗濯だったら色ものと分けたり、素材によってはネットに入れたり、洗剤を補充したり、先に汚れを落とさないといけなかったり…。これって単発では意味がなくて、一定期間継続的にやらないとわからない。ですから、役割分担の仕方はいろいろですが、各々が長期的に責任を持って担当した方がいいです。あまり意味ないのが「週1回、僕がご飯作るよ」みたいなタイプですかね(苦笑)。
──わかります!家事分担できている気になってますよね! これから第6波が来てしまって、また一斉休校になったりしたら…事前に対策を決めておく必要がありますか?
筒井:去年の一斉休校の時、仕事をやめざるを得なかった女性が多く、離職あるいは失業してしまったケースが多々ありました。ですから、政府はその選択を気軽にしない方がいい。その為にはワクチンを子どもにも普及させるとか、分散登校にするとか、なんとか一斉休校にならない方向で考えた方がいい。
──あの時は本当に急すぎましたし、家庭内も仕事も大混乱になりました。
筒井:企業側も休校になった場合、もっと柔軟に対応してほしいです。夫婦で片方の会社がリモートワークをしにくくするということは、配偶者が勤めている会社にも負担をかけているという自覚を持つべき。もっと覚悟を決めてリモート化を。
仕事と家庭を両立させ、さらに生活にゆとりをもたらすのは、女性だけの役割ではありません。このことを強調しておかないと、どんどん女性は自分で家事育児を引き受けてしまう。日常生活をもっと楽に送れるようにならないと、しんどいですよ。家事は家族みんなでやって、時間にも気持ちにもゆとりを持つことが大事です。それを生み出すのは自分と家族だし、企業だし、強いては政府だろって思います。
──とても勇気づけられました。お忙しいところありがとうございました!
家族や夫婦、さらに家事の話って毎日の身近な話なので、問題も見えにくいのが実状だと思います。しかし、こうして社会学の知見から読み解いてもらうと、俯瞰して見ることができました。家事分担にはそれぞれの夫婦でやり方やバランスがあるとは多いますが、意識の持ち方や具体的なや時短・時産の方法など具体策も試す価値あり。筒井教授の言葉に勇気づけられた方は、ぜひ夫婦で対話してみてください。長期的な役割分担を決め、時短・時産を取り入れながらゆとりある毎日を過ごしていきましょう! ぜひこちらのサイトも参考にしてみてください。
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。