時を経て気づく、四季のある風情、丁寧な手仕事 大人はそろそろ「和」を楽しみたい
平澤まりこさんの<東京“和”散歩>白洲正子が次郎と暮らした家に息づく、一貫した美意識「武相荘」【LEE DAYS】
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LEE DAYS リーデイズ
2021.11.29
昨今、改めて日本ならではの色や風情に親しみを感じるようになったという平澤さん。控えめながらも上質で、美しい調和が心地いいお気に入りの場所へ案内していただきます。
イラストレーター
平澤まりこさん/Mariko Hirasawa
ひらさわ まりこ●版画、装画や広告、パッケージ、絵本など創作活動は多岐に渡り、旅のエッセイも刊行。著書『イタリアでのこと』(集英社)、『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)、絵本『ねぶしろ』(millebooks)ほか多数。2021年10月25日まで岐阜県「ギャルリ百草」にて、安藤雅信さんとの陶製作品展「動物たちの宙」を開催。@mariko_h
■『イタリアでのこと』の詳細はこちら
重厚な瓦葺き門をくぐり、白洲次郎さん・正子さんが終の棲家にした「武相荘」の母屋へ。門は東京・高輪の旧家から移設し、石畳は都電で使われていた敷石を次郎さんが並べた
「世界の国々の生活を体験して気づく、身近にある美しさ」
旅先で胸に刻まれた、ものやことを綴ったエッセイも人気の平澤さん。10代の頃から“海外でホームステイ”という形での旅を重ねたことが、日常を心豊かにする自国の感性に目を向けるきっかけに。
「いろいろな国の生活を見ていくうちに、日本の暮らしにまつわるデザインに興味が高まりました。そんな時期に出会ったのが、民藝です。昔からこんなに洗練された美があったのか、と感銘を受けて、さらに興味が広がりました」(平澤まりこさん)
さまざまな本を読むうちに、柳宗悦や千利休の世界、そして白洲正子さんなどの美意識を知ることに。その流れでお茶や着物の着付けを習い、時を同じくして染色工芸家・芹沢銈介さんや柚木沙弥郎さん、板画家・棟方志功さんなどが描く世界にも強く惹かれていったといいます。
今回は自身が幾度となく訪れて日々の生活を彩るヒント、ときめきや癒しのスイッチが見つかる“和”のスポットへ。落ち着きの中に凛とした美しさが宿っているような、佇まいや品々に心を寄せる場所です。
潔い価値観や生き方に魅せられた白洲正子さんが夫の次郎さんと昭和18年から暮らした「旧白洲邸 武相荘」。面影が今も色濃く残ります。
白洲夫妻の暮らしぶりが伺える「武相荘」の母屋は、古い茅葺屋根の農家を改装。正子さんは「茅葺屋根だけは残してほしい」と子どもたちに語り、その遺志を継いで2006年に葺き替え。この正面には庭が広がり、季節の移ろいを眺められる
「白洲正子が次郎と暮らした家に息づく、一貫した美意識」
「自分にとっての価値ある美を見出し、好きか嫌いかで選ぶ潔さ。個のモノサシを信じて、ブレない軸があるところに惹かれます」(平澤まりこさん)
平澤さんがそう語っているのは、日本の美を探求した数多くの名著を世に送り出した白洲正子さんについて。揺ぎなき審美眼を発揮して“骨董の目利き”と評されながらも、買うのは日常生活で使えることが大前提。
正子さん曰く“安心して一緒に暮らせる”品々が、太平洋戦争中に夫の次郎さんと東京都心から移り住んだ家や庭とともに公開されています。
茅葺屋根の母屋はミュージアム、子ども部屋があった二階家と食堂はレストランに。大工仕事が好きな次郎さんの作業場を含む建物はショップ、ガレージはオープンカフェとして活用されながら愛用品の展示も。
「民藝への興味が深まった20代後半に初めて足を運び、以来何度か訪れています。季節ごとに展示替えされる器や着物などは凛とした空気をまといながら温かみもあり、日常の空間に溶け込んでいる。そこに漂うのは美しいものを選ぶ目を育み、自身が“手におえる範囲”を見極めていたからこその心地よさ。著書で知った世界に間近で触れられて、もの選びやしつらえに刺激を受けます」(平澤まりこさん)
また、正子さんが好きなものを語るときの表現で心に響いた“うぶな美しさ”を目の当たりにして、創作に向かう姿勢にも徐々に変化が生まれたといいます。
「若い頃にはピンとこなかったのですが、年齢も経験も重ねていくうちに腑に落ちたんです。作為なく純粋な気持ちで生み出されたものに、人は引きつけられるのだと。そして作品に向かううえで、湧いてくる直感を大切にしたいと思うようになりました」(平澤まりこさん)
そんな稀有な美意識に感化されると同時に、「失敗を恐れず行動すれば実になる」という真っすぐな生き方にも強い憧れを抱いている平澤さん。3歳で魅せられた能の稽古に打ち込み、14歳で女性初の舞台へ。
戦後に骨董の名品を手にすると、古美術の名士との交流により審美眼を磨く。40代半ばで染織工芸の店「こうげい」の経営に携わり、54歳から紀行文執筆のために日本巡り。武相荘で過ごす束の間、正子さんの気概の一端も垣間見ると「やってみればいいじゃない」とエールを送られているようで元気になるそうです。
@町田 旧白洲邸
武相荘
「囲炉裏のある和室」
「江戸時代末期の朱塗大膳に、江戸時代の伊万里の飯茶碗やそば猪口、倣古伊万里の徳利といった雑器使いが素敵」(平澤まりこさん)。
愛用の器が展示される部屋には、客人と鍋を囲んだ囲炉裏がある
「リビング&サロン」
母屋を入ると、土間を洋風に改装した一室が。タイル張りの床暖房にペルシャ絨毯を敷き、槙野文平作のウィンザーチェアや李朝箪笥“バンダチ”を折衷。
「このミックス感に惹かれます」(平澤まりこさん)
「書斎」
中座したかのような気配が漂う書斎。北側の窓に向いて机が置かれ、窓の外に植えた椿は花を眺められるように枝を仕立てて。
「私と同じく、有機的なものが目に留まるとイメージが湧いたのかな、と想像が膨らみます」(平澤まりこさん)
「石の三重塔」
母屋正面の竹林を背に、静かに佇む石塔は旅先で出会ったもの。閑寂な村里や旧跡、寺社を訪ね、日本の美を見出す旅を彷彿させて。下には、次郎さんの遺髪が納められている
「レストラン&カフェ」
広々としたメイン空間から続くかつての食堂にて、季節のアイスを挟んだどらやき(¥880)と珈琲(¥680)で一息。長女、牧山桂子さんのアドバイスにより再現されたレシピで作る、白洲家ゆかりのメニューもいただける
DATA
旧白洲邸 武相荘
東京都町田市能ケ谷7の3の2
ミュージアム ☎︎042-735-5732 10:00~17:00(入館は~16:30) 入場料¥1100、
ショップ ☎︎042-736-6478、
レストラン&カフェ ☎︎042-708-8633
11:00~16:30 、18:00~20:00(ディナー完全予約制)
定休日:月曜(祝日・振替休日は営業)夏期・冬期休館あり http://www.buaiso.com/
撮影/馬場わかな 取材・原文/髙井法子
※商品価格は消費税込みの総額表示(2021年10/20発売LEE DAYS VOL.2現在)です。
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LEEとともに歩んできて、子育てが一段落。自分に目を向ける余裕の出てきたLEEの姉世代の方に、日々の“ほんとうに好きなものと心ときめく時間”をお届けします。
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