実はワイン大国のオーストラリア、豊かな土壌から生まれる味わいとは
日本に輸入されるワインの産地はチリとフランスの二か国が過半数を占めているといいます。そんな中、ワイン好きの視線を集めているのがオーストラリアワイン。実は壮大なワイン産地であるオーストラリアは、ワイン生産量世界6位、輸出量世界5位。その豊かな土壌と環境から生み出されるワインに、日本でも注目の兆しが見えてきました。
そんなオーストラリアでもっとも歴史が深いワイン産地がハンター・バレー。シドニーから車で約3時間の距離、小規模なワイナリーが集うエリアです。ここで「スモール・フォレスト(Small Forest)」を経営するラドクリフ敦子さんは、オーストラリアにおける日本人初の醸造家。オーストラリアワインのイメージを覆す、職人気質なワインをつくっています。お恥ずかしながら、これまで数えるほどしかオーストラリアワインを手に取ったことのない素人の私ですが、その魅力についてたっぷりとお伺いしましたので、ぜひご紹介させてください。
地元のワイン好きを魅了する、実直な手仕事
「オーストラリア人はワインが大好き。つくる規模も日本とは比較になりません。働いていたメーカーでは年間20,000トンものワインを作っていて、そのうち3万樽の面倒を見ていました。大手だから機械的につくっているのではという印象を持たれる方がいるかと思いますが、それは全く違います。そこで教わったことは、とにかくセラー(貯蔵室)に出なさい。テイスティングをたくさんしなさい、ということ。ひとりで働く今でもそれは変わりません。朝から晩までずっと農園やワイナリーにいますし、畑を歩いて歩いて、繰り返し食べてみて、香りが出てきているか確かめる。たった1℃の発酵温度の違いの違い、すこしの栄養を足すか足さないか、そんな日々のジャッジでワインは変わる。「今しないといいものは得られない」と思いながらつくっていくんです。」
オーストラリアで愛される品種「ヴェルデホ」は飲み飽きない
「ワインというのはぶどうの品種にマーケットの流行が影響するものです。定番のシャルドネ、すこし前だとソーヴィニヨン・ブラン、最近はピノ・グリでしょうか。皆さんもワインを選ぶときに、そういった有名な品種のラベルを手に取る人が多いのではないでしょうか。私が使っているのは、オーストラリアで地元の人やワイン愛好家に愛されてきた品種「ヴェルデホ」です。味わいは甘すぎずスッキリで飲み飽きません。作り手の目線で言うと、栽培しやすく、病気になりにくく、酸味が落ちにくいんですよ。日本ではあまり知られていないと思いますので、ぜひ試していただきたいですね。」
日本酒づくりの経験で得たものとは
敦子さんは、ワイナリー経営を始めるまでに多彩な経歴を重ねてきました。日本でワイナリーに勤めた後、仲間と共にワイン造りのコンサルタント会社を起業。そしてオーストラリアへ移住。大手醸造所ローズマウント社(Rosemount Estate)で7年働いたのち、日本に一時帰国。宮城県の酒蔵で日本酒造りの経験を積み、 再びオーストラリアに戻る。スモール・フォレストを設立したのは2013年のことです。
「オーストラリアにはじめて来たとき、何もない場所だな、と感じていたんです。ワインメーカー・ローズマウント社に入ったときも、1年経ったら日本に帰ろうと思っていたくらい。でも、毎年たくさんのぶどうができて、それに責任を持って向かいあう。それは厳しいことも多かったですが、とにかく楽しくて。今、辞めてしまったらもったいない、と思いながら、退職までの7年はあっという間でした。」
「退職後には、日本酒・浦霞の醸造元から声をかけていただき、東北に18か月住み込みで日本酒づくりを学びました。実は大学時代には日本酒を学んでいたほど、大好きなんですよ。実際、日本酒づくりに携わってみて得られたものは、技術だけではありません。どこに暮らし何を食べているか、感性や風土そのものがものづくりに影響を与えていることに気付かされました。気持ちが豊かでないと、良いものは生まれないんですよね。食事の面で言うと、フレンチ、スパニッシュ、イタリアン、インド風、いろんな料理を作って食べて、味覚を鍛え、敏感でいるようにしています。このあたりでは各国のスパイスが手にはいるので、外食することなく楽しめます。
20年前は何もないと思っていたオーストラリアも、今ではざわつきのなさを心地よく感じています。暮らしぶりは本当にシンプルですよ。毎日ワインをつくっているから、洋服にはすぐ穴があくし、足元はいつも同じワークブーツ。四季もないですけど、暮らしの中で気づくことはたくさんあるし、身の回りの自然に感謝しています。」
クラウドファウンディングで「SMALL FOREST by ATSUKO」の味を手元に
敦子さんが手がけた「ヴェルデホ」新ヴィンテージ2021年を、なんと世界中のどこよりも一早く手にするクラウドファウンディングがはじまっています。LEE誌面にもご登場いただいたことがある、オーストラリア在住のワインコンサルタント本輝咲(もと・きさき)さんは、今回のプロジェクトの発起人でもあります。
「もともと敦子さんのワインのファンで、その味に惚れ込んでしまい、ぜひそれを日本の皆様に届けたいという想いがありました。素材が生きた繊細な味わい、また飲みやすく食事にも合わせやすいんですよ。今回は敦子さんが絶大な信頼を置くオースラリア・ビクトリア州にある家族経営のワイナリーPimpernel Vineyards(ピンパネル ヴィンヤーズ)の縁で、セット販売が実現しました。どちらも日本では入手が難しいワインです。」(本さん)
つくりたいのは「きれいなワイン」
ワイナリーでは、ワイン製造から直売所での販売まで、多岐にわたる工程を敦子さん一人で行っているといいます。大切にしていること、こだわりを伺いました。
「わたしが日頃から言っているのは“きれいなワイン”をつくりたいということ。その年に育ったぶどうの良さを引き出し、素材を活かすことが一番という意味です。まずは雑味なしのきれいなワインをつくって、そこに何を足していくか考える。さぁ、絞り方を変えてみようか。いや、酵母や樽を変えてみようか、と。」
「リーズコンタクトという手法を使うことがあります。酵母とワインを一緒にしておくことで、ふくよかに、なめらかに。味以外の部分、うまみや口当たりがぐっと複雑になるので、ワインを飲んだ後も楽しめるんですよ。わたしはあまり和食を食べないのですが、わたしのワインを飲んだ人からは和食に合いますね、という言葉をいただきます。もしかしたら、リーズコンタクトから生まれたうまみがマッチするのかもしれません」
これから「SMALL FOREST by ATSUKO」のワインを楽しまれる方に
「ワインを飲んでくれた人が美味しいと言ってもらえたら、それが一番のご褒美です。それも知らない人、遠い地の人が手にとってもらえるなら、大きな喜び。飲みやすいことを大切にしているので、普段はワインを手に取らない方にも届くと嬉しいです。家族との食卓で楽しんでくださいね。」
Makuake クラウドファンディングページ SMALL FOREST
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峰典子 Noriko Mine
ライター/コピーライター
1984年、神奈川県生まれ。映画や音楽レビュー、企業のブランディングなどを手がける。子どもとの休日は、書店か映画館のインドアコースが定番。フードユニットrakkoとしての活動も。夫、5歳の息子との3人家族。