疑心暗鬼になりがちな今、まっすぐな愛を伝えたい
────ムロツヨシさん
その動向がすぐさまトレンド入りする、今や日本中が注目しているムロツヨシさん。独特の存在感で異彩を放ってきただけに、“初主演映画”と言われると、思わず違和感を覚えてしまう。
「主演が目標だったわけではないですが、それを経験しないと見られない景色はあるのかな、と。25年かかりましたが、一家の父親役での座長という、大きなものを背負わせていただきました。プレッシャーを“やり甲斐”に変え、コロナ禍で撮影が延期された悔しさを晴らすためにも、自分を信じてフルスイングで臨みました」
その『マイ・ダディ』でムロさんが演じたのは、愛妻に先立たれ、娘と2人で暮らす牧師の一男。中学生の娘は父親がウザいと文句を言いつつ、教会の手伝いは怠らない。そんな父娘の会話の応酬が楽しいが、娘が白血病で倒れ、物語はシリアスへと転調。さらに娘と血のつながりがないことが発覚する。
「亡き妻を疑いながらも、ブレずに娘をまっすぐ愛し、守ることにすべてをかける父親。僕は父になったことはありませんが、そんな父親としてこの作品で生きられるなら、と思いを込めました。(娘が)病に倒れてからの展開は、想像しなかったことが起きて生まれる感情なので、芝居として台本を読めば演技をします。
実はそれ以前の“日常”を作るのがとても難しかった。どれくらい日常が日常らしく見えるか、娘に嫌われながら父娘にしっかりある愛情など、当たり前のことを表現するのが最も難しいと、再認識した現場でした」
その告白は意外だが、病を娘に告げる場面から早くもウルウル。亡き妻への疑惑、自分の血が適合しないことへの憤りや絶望など、“むき出しの生々しい感情”を繊細に表現するムロさんに驚嘆!
「考え方は日々変わりますが、これまで僕は“役を自分に近づけて”演じてきました。物語を担う人間としては、そのほうが伝わりやすいと今でも思っていて。ただ皆さんに認知してもらえるようになった今、そろそろ“役に自分を近づける”時期にきたかな、とシフトチェンジしている最中なんです。今回は、これまでやってきた、楽なお芝居を完全に遮断しました」
そんな進化したムロさんに、娘が一男に必死に“愛”を伝えようとする終盤でもさらに泣かされる。
「娘から愛を教えられるシーンは、長回しで何度も、1日かけて撮りました。リアルな会話を成立させようと繰り返すうち、感情が動いて次のセリフが出ないことさえありましたね。今は疑心暗鬼になりがちな時代ですが、このまっすぐな愛が伝わったらうれしいです」
さて、私生活ではインスタグラムにアップされるお料理から、一人生活を楽しんでいると思いきや。
「モチベーション維持のためにアップしていたら、お料理番組からお誘いをいただき、そこまでうまくないゾ、と困っちゃって(笑)。自分の味つけにも飽き始めたし、一人は大して楽しくないぞ!」
むしろ“寂しがり屋度が上がった”と語るが、比例して(!?)役者業にとどまらぬ活躍もますます広がる。
「本職はもちろん役者ですが、僕が一番好きなのは“経験を0から1にする”こと。表現者としての覚悟をもう一つのせるため、もの作りユニット“非同期テック部”を発足しました。まだ45歳なので、多少の無茶はしていたいんですよ」
むろつよし●1976年1月23日、神奈川県生まれ。’99年、作・演出・出演を行った一人舞台で活動を開始。近年の出演作に現在放送中のドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』、『大恋愛~僕を忘れる君と』(’18年)、『親バカ青春白書』(’20年)、映画『新解釈 三國志』(’20年)など。『川っぺりムコリッタ』が11月公開予定。
『マイ・ダディ』
8年前に妻(奈緒)が他界し、小さな教会の牧師・一男(ムロツヨシ)は、中学生の娘・ひかり(中田乃愛)と暮らしている。ある日、ひかりが白血病で倒れ、さらに衝撃の事実が発覚する。なんとひかりと一男は、血のつながりがないという。動揺しながらも一男は、娘に適合するドナー探しに奔走するが。(9月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開)
撮影/岸本 絢 ヘア&メイク/池田真希 スタイリスト/森川雅代(FACTORY1994) 取材・文/折田千鶴子
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