『ディナー・イン・アメリカ』
孤独な少女と推しメンが出会うパンキッシュなラブストーリー
まさかまさかの掘り出し物! コロナの影響でいまだ本国アメリカで公開されておらず、お先に日本公開となる本作。ベン・スティラーがプロデュースしたという以外、日本的には監督(アダム・レーマイヤー)もキャスト(エミリー・スケッグス&カイル・ガルナー)もほぼ無名。ところがおもしろくて可愛くて、どんどん夢中にさせられる。
アメリカの田舎町。学校でも意地悪な男子にバカにされる孤独な少女パティは、過保護な両親のおかげでしたいこともできず、単調な毎日をやり過ごしている。唯一の楽しみは、大好きなパンクロックを聴くこと。愛するパンクバンド“サイオプス”を大音量で聴きながら、自室でひとり踊りまくるパティは、まるで自分の殻を突き破ったかのように、自由で幸せそうだ。そんなある日、ひょんなことから警察に追われていた不審な男、サイモンを匿うことに。ところが実は彼こそが、パティが敬愛するサイオプスの覆面リーダー、ジョンQだった!
ダサいトロいと馬鹿にされるパティと、チンピラ風のサイモンは、見るからに出会うはずのない相手。ところが家族からはれもの扱いされるパティと、自分の家族から疎まれるサイモンは、ともに社会不適合者の烙印を押された者同士として、相手のやるせない気持ちが痛いほどわかる。熱烈すぎるファンレターの送り主がパティだと気づき、思わずサイモンが逃げ出そうとするシーンは笑えるが、いつの間にか愛する音楽でつながり、信頼と安らぎを覚え合う様子が、ストンと心に落ちる。
そしてパティのラブレターから彼女に文才を見いだしたサイモンが、書きためた文章にメロディをつけ、最高の一曲が出来上がっていく過程は、たまらなくロマンティックで、見る者を高揚させる。変人扱い、上等! 「vs.偏狭な世間」とばかりに、2人がいじめっ子に反撃するシーンの痛快なこと。いらぬ偏見を打ち破る異色のラブストーリーは、誰の心にも反骨パワーとエネルギーを注入してくれる。
・9月24日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにて公開
・公式サイト
『アナザーラウンド』
笑って、呆れて、言葉を失う――シニカルな人間考察映画
『偽りなき者』の主演マッツ・ミケルセン×監督トマス・ヴィンターベアが再タッグ。冴えない高校教師(ミケルセン)と同僚3人は、“血中アルコール濃度0.05%が理想の状態”理論を証明するため、実験に取り組む。ちょい飲みで授業をしたら生徒にバカ受け、生活も充実していく。ところが案の定、実験はどんどん大胆になり……。
制御不能な男どもと笑い飛ばせないドツボ感に、人間の弱さを見るなんともいえない後味!
・新宿武蔵野館ほかにて公開中
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
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