黒木華さん×柄本佑さん発”不倫する女と男の本音” 。映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』対談!
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折田千鶴子
2021.09.08
夫の不倫を描くというアイディアが秀逸!
黒木華さんと柄本佑さんと言ったら、もう安心感しか覚えない。鉄板な2人の共演作というだけで、観ない選択はありません!! しかも映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』で2人が演じるのは、不倫夫とサレ妻というワケアリ夫婦。そんな微妙~な空気が漂う物語で、この2人が掛け合いを繰り広げるなんて。結婚5年目の夏、夫の不倫を知った漫画家の妻が、それをネタに新作漫画を描き始め――。もう、先が知りたくてウズウズしちゃいますよね!?
その漫画家夫婦を演じた黒木華さん、柄本佑さんにご登場いただきました! 映画をきっかけに、女と男の本音トークはじまります!
黒木さんは漫画家の佐和子。柄本さんは佐和子の夫で、同じく漫画家の俊夫を演じています。佐和子の担当編集者にして、俊夫の不倫相手に奈緒さん。佐和子が通う自動車教習所のイケメン先生に、金子大地さん。そして佐和子の母親に風吹ジュンさん。この5人が、最高のアンサンブルを奏でています。
監督は、新進気鋭の堀江貴大さん。ユニークなオリジナル作品を輩出してきた企画コンテスト「TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM FILM」の18年準グランプリに輝いたというのも、注目ポイントですね。
──夫の浮気の顛末を漫画に描いてしまうという、その設定だけで興味津々、心惹かれます。オファーを受けた決め手は、やはり脚本の面白さでしたか?
黒木「はい、どうなっていくんだろうという展開の分からなさ加減や、漫画の中の出来事なのか、現実に起きていることなのかなど、想像の余地がたくさんあるホン(脚本)でした。堀江監督とも初めてだったので、ご一緒してみたかったのもありました」
柄本「僕もまずはホンを読んで、とても素直に騙されたんです。読後感の気持ち良さが非常にあって、シンプルに面白かった。どっちにも振れていないというか、偏りのない、老若男女誰もが楽しめる王道のエンターテインメント作品を作るんだ、という監督の意志みたいなものを脚本の段階ですごく強く感じて。それがいいな、と思いました」
──騙されたのは、先ほど黒木さんがおっしゃった“漫画か現実か、本当はどっちなのか”という辺りですか?
柄本「そう、その終盤あたりの、嘘と本音が交錯していくところですね。どこまでが現実で、どこからが漫画なのか、分からなくなっていくような。どういう展開になっていくの!?と思いつつ、騙されながら読みました。あ、こっちに行くのか、みたいな」
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
結婚5年目。かつて佐和子の憧れの漫画家だった俊夫はスランプに陥って以来、妻で漫画家の佐和子のアシスタントをしています。売れっ子として多忙な日々を過ごす佐和子は、ある日、自分の担当編集者の千佳(奈緒)と俊夫が、キスしている現場を目撃してしまいます。佐和子は、次の新作の題材を“不倫”に決めて描き始めます。そこには、俊夫と千佳の不倫現場がリアルに描かれていました。こっそり読んでしまった俊夫は驚愕し、妻に問いただすことも出来ないまま、隠れて読み続けていきます。やがてそこには、佐和子と自動車教習所のイケメン先生が、淡い恋に発展していく様子が描かれていて――。
──クスクス笑いながら、夫婦の行方に最後まで目が離せなかったです。俊夫と佐和子という役を演じる際、特に気を付けたことを教えてください。
柄本「撮影前に監督から“不倫をしている俊夫が明らかに100%悪い。でも悪人にはしたくない”という話がありました。“しょうがねぇ奴だなぁ”と言いながらも、どこか憎み切れない愛らしさがあるといいね、と。気を付けたのは、そこですね。ただ、その愛らしさも、脚本の段階でかなり具体的に落とし込まれていました。黒木さん演じる佐和子さんが常にミステリアスな感じで居たので、あとは黒木さんのお芝居に寄り添っていけば、自然と俊夫さんらしさが出てくる感じでした」
黒木「監督と相談し、俊夫さんの言動に傷ついたり、怒ったりしている佐和子の表情や感情を、あまり分かりやすく表現しないよう気をつけていました。(教習所の)新谷先生といるときの佐和子と、俊夫さんといるときの佐和子の“差”を、どれくらいつけるか、なども監督と話し合いながら進めていきました」
──黒木さんと柄本さんの掛け合いが、絶妙でした。お互い相手が黒木さん/柄本さんだけに、やっていて楽しくて仕方ない感じだったのでは?
柄本「黒木さんが持つフェイスとシルエット……なんだ、このミステリアスな動物は、みたいな(笑)。本当にピッタリ佐和子そのまんまで、すごくステキでしたね。なにかを出してこない感じというか……。僕がよく覚えているのは、路肩に車を止めて“ごめん、ネーム(漫画の下書き)見ちゃったんだ”と話すところですね」
黒木「あそこ(笑)! 不倫しちゃって、と言う……」
柄本「そう。“漫画通りってことは、不倫してるの?”“してないよ”という、行きつ戻りつみたいな長いやりとりです」
黒木「探り合いのシーンですよね」
柄本「どこまでいって、どこから引くか、という俊夫と佐和子の攻防がとても印象に残っています。一緒にやっていて、すごく楽しかったですね。ここで(相手を)見て、ここでは見ないで、とか」
黒木「見る/見ない問題はありましたね(笑)。あとは、面と向かって伝えると、どうしても強くなりすぎてしまうセリフは、監督と相談しながら調整していきました」
なぜか不倫なのに爽やか(笑)
──黒木さんが、柄本さんとの掛け合いで印象に残っているのは?
黒木「何をやっても、ちゃんと俊夫さんとして返してくれましたし、それを柄本さん自身も楽しんでくださっていると勝手に思っていたので(笑)、私もすごく楽しかったです。台詞の掛け合いだけでなく、視線のやり取りもでき、常に柄本さんが自然体でいてくれるから、私もそこに気負わずいられる。その雰囲気が、“夫婦”という空気感を出すとき、すごく有難かったです。所々“もう、そういうところだぞ!”という俊夫さんの愛らしさも出ていて」
柄本「うわ、嬉しい。ありがとうございます!」
黒木「憎めないという点では、奈緒さん演じる千佳さん(俊夫の不倫相手)のことも、あまり憎めないんですよね。あまりにカラッとしていて」
柄本「そうそう。千佳は爽やかに不倫を楽しんでいるから(笑)」
黒木「後ろめたさがないんですよ(笑)」
柄本「堂々としていてね。ドロドロしている要素ばっかり集まってるハズなのに、なんかドロドロしてない(笑)。多分、一つ一つの問題に対する監督の“突き詰め方”が、非常にいいバランスなんだと思います。ある種の物足りなさを感じさせず、いい塩梅のところを拾っていったのだと思います」
――俊夫が追いつめられていったり、妻の新しい恋を疑って挙動不審に陥ったり、その辺りがまた可笑しくて! さすが、絶妙な演技でした。
柄本「僕は元々理詰めで演じるのが得意ではないので、その辺りも計算はまったくしていないんです。“俊夫君ってこうだよね”という監督との共通認識の中に落ち着いただけというか。監督の言う“憎めなさ”に行きつくには、俊夫がどれくらい追い詰められるかも、極限までいかないとダメだとか、汗もあれくらい(ダクダク)かかないとダメだとか(笑)。本当に不倫に向いてない男で、嘘もつけない正直者だから、逆に愛らしくなって憎めない――というところに、監督は持っていこうとしたのだと思います」
不倫の始まりは!?
──“夫婦”や“不倫”は、LEE的にも熱いテーマです。佐和子と俊夫を通して感じた、お2人の“本音と見解”を教えてください。まず、結婚5年目で不倫をした俊夫は、単なる気の迷いだったのでしょうか?
柄本「それを考えると、まずは人物像になってしまうのですが……。2人は、俊夫が先生、佐和子がアシスタントという立場で出会い、付き合い、結婚した。そして俊夫が描けなくなって4年経ち、今は立場が入れ替わって、俊夫が佐和子のアシスタントとして落ち着いてしまっている。そんな状況を、俊夫は割と素直に受けて入れていると思うんです。佐和子に対する嫉妬心から、不倫に走ったわけではない。もし嫉妬が千佳に手を出させたのなら、愛憎の“憎”が強くなってしまうので、それはないですよね。ただ、そこを突き詰めてしまうと、この話の面白みが欠落してしまう。だから言えるのは、俊夫って割とのんきな奴ということ」
黒木「そこは、私もそう思います」
柄本「もちろん自分が描けないことに対しては悶々としているけれど、千佳ともそういう関係になっちゃってから、“あれ、これ不倫じゃね?”くらいの呑気さ(笑)」
黒木「ふふふふ(笑)」
柄本「しかも、そんなところでキスするなんて、まるで隠す気がないじゃないか、っていう(笑)」
黒木「ですよね(笑)!! 私も“え、そこで!?”と思いました!」
──逆に佐和子には、俊夫の不倫を漫画にすることに“わたし知ってるのよ”的な小さな復讐心はあったのでしょうか?
黒木「色んな気持ちがあったと思いますが、復讐心はなかったと思います。というのも、佐和子にとって俊夫さんは、今でも憧れの存在で好きであることに変わりないと思うんです。でも、それだけでは乗り越えられない気持ちもあって。どこかで(俊夫の不倫を)“私のせいかも”と感じながら、俊夫さんには、もっと描いて欲しいなど色んなことを期待していると思うんです。夫の不倫を描いているのも、俊夫さんに気持ちを動かして欲しい、という想いからなのかな、と。色んなことが合わさっての、あの漫画なんですよね」
柄本「そうだよね。最初から復讐を考えていたとか、どこかで復讐心が生まれたとか、それも違うのか、とか考えるほどに難しい。多分、佐和子さん本人も、描きながら分かっていない部分ってあったんじゃないかな。人間、生きていてもたくさんありますよね。“なぜ今、俺はこれやっているんだ?”みたいなことって」
黒木「おっしゃるとおり、佐和子自身も描いていくうちに、“こう思っていたのか”という発見があったと思います。“知ってるのよ、フフ”という気持ちではなく、ちゃんと話そう、もっと会話しよう、ということだったのかな、と。“気持ち、動いた?”という台詞があるように、佐和子は常日頃から俊夫さんに対して、何かを感じて欲しいと思っていたんです。こういう余白を残した描き方が、この作品の好きなところです」
黒木華
1990年3月14日、大阪府出身。2010年、NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」のヒロインオーディションに合格し、本格的にデビュー。2011年、『東京オアシス』で映画デビュー。『シャニダールの花』(13)で映画初主演。『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。その他の主な映画作品に、『母と暮せば』(15)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『日日是好日』(18)、『浅田家!』(20)など。ドラマ作品に「重版出来!」(16)、「みをつくし料理帖」(17)、「凪のお暇」(19)、「イチケイのカラス」(21)、舞台「書く女」(16)、「お勢登場」(17)、「ハムレット」(19)、「ウェンディ&ピーターパン」(21)、その他多数。ドラマ「僕の姉ちゃん」が9月24日よAmazon Prime Videoにて全話一挙配信予定。
年下イケメンくんの登場!
──佐和子が、自動車教習所の新谷先生(金子大地)に淡い恋心を抱いていると漫画を通して知った俊夫さんは、可笑しいくらいに挙動不審になります。やはり“年下のイケメン”には勝てないな、と思わせる絶大な存在だったのでしょうか?
柄本「俊夫くんは、まるで怒る立場にないのに、怒ってましたね(笑)。でも僕自身は、妻が若い年下のイケメンに行くよりも、むしろお年を召した方にいく方が、根が深いような気がするんですよね」
黒木「アハハ(笑)! 本気度が高そう?!」
柄本「そう。もちろん年下も年上も、どっちもイヤですよ。でも僕は、年配の方にいく方が、根が深いというか、怖い気がするんだなぁ」
黒木「佐和子と新谷先生の恋話自体、現実の出来事なのか、漫画に描いているだけなのか、そこも最後まで分からないので、みなさんには想像力を逞しくして楽しんで観ていただけたらと思います。私には弟がいるので、年下のイケメンという存在は、どうしても“可愛いな”という意識になってしまい、恋愛対象としてはあまり見られないですね」
柄本「なるほどね(笑)。うん、分かります」
黒木「年上の方の方が、安心感があるような気もするんです」
柄本「そこ、その安心感が怖いのよ! 結局、安心感って年齢的なものから来るでしょ」
黒木「確かに、そう言われてみたら、経験値と余裕と……ですね(笑)」
柄本「その上で父親的な何かではなく、男としてみられる魅力を感じるわけだから、いやぁ、怖い。でも俊夫くんは、若い新谷先生に激しく嫉妬していましたね(笑)。少々おバカなところがあるので」
黒木「そこは、純粋ってことで(笑)。佐和子としては、気持ちが動いたということだから、俊夫さんが嫉妬してくれたのは嬉しかったと思います。“しめしめ”かもしれない。でも黒木個人としては、そんな俊夫さんを“可愛いな”と思う気持ち半分、“だ、か、ら?”と思う気持ち半分ですね」
柄本佑
1986年、12月16日、東京都出身。映画『美しい夏キリシマ』(03)で主演デビュー。2018年に『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『ポルトの恋人たち~時の記憶』で、キネ旬ベストテン主演男優賞、毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞。近年の代表作に、『居眠り磐音』(19)、『火口のふたり』(19)、『アルキメデスの大戦』(19)、『心の傷を癒すということ 劇場版』(21)、『痛くない死に方』(21)など。ドラマ「知らなくていいコト」(20)、「天国と地獄~サイコな2人~」(21)など。『川っぺりムコリエッタ』が今年の11月、『真夜中乙女戦争』(22)が来年公開予定。
注目のラストシーンは…
──最後に問題のラストについてお聞きします。観客それぞれの解釈を楽しんで欲しいところですが、ネタバレしない程度に、どんな感慨を持ったか教えてください。
柄本「グレーゾーンが大きいので言いづらいですが、身を任せて観ていただければ、おそらく爽やかに不倫映画を楽しんでいただけると思います(笑)。僕は、中盤から終盤に向けての、佐和子さんの“ある確信”を持って突き進んでいく女性の強さが、見どころの一つだと思います。どんな結末になるにせよ、一つ筋道をつけて闊歩していく後ろ姿が、それはもうカッコ良くて、清々しくて。特に女性のみなさんに楽しんでいただけると思います」
黒木「何かが解決した、というラストではないですが、なんとなく明るく先に進めるような気持ちになってもらえるんじゃないかな、と思います。俊夫さんのオタオタする姿も楽しんで観ていただけたら。そして映画が終わった後、佐和子と俊夫さんとお母さん、そして千佳さんと新谷先生、みんなの“これから”を想像してもらえたら面白いと思います。友達と“あれって、どう思った?”と観た後に話したくなるような作品だと思うので、そんな余白も楽しんでいただけたら嬉しいです!」
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
9月10日(金)より新宿ピカデリー 他、全国公開
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
2021/日本/119分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
オフィシャルHP:https://www.phantom-film.com/watatona/
写真:菅原有希子
黒木華さん スタイリスト:申谷弘美/ヘアメイク:新井克英
柄本佑さん スタイリスト:林道雄/ヘアメイク:星野加奈子
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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