大宮エリーさん「数学が苦手なのに東大薬学部に入った私が、今こどものためのクリエイティブ学校を作る理由」【こどもエリー学園をオンラインで開校】
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飯田りえ
2021.07.21
映画、舞台、CM、作詞、絵画、写真に執筆…と、ジャンルを飛び越えて表現し続けている大宮エリーさん。とどまることを知らない彼女のクリエイティブ力を、今度は他者に伝授すべく、昨年4月から「エリー学園」を始められました。18〜67歳までの大人たちがオンライン上で集まり、クリエイティブ力を鍛える多彩なプログラムに参加、世界各地から集まった200名の同志たちと、素敵なコミュニティになっているのだとか。以前から「ぜひこの活動を子どもたちにも!」との熱望があり、ついに8月に子どもむけのオンライン学校「こどもエリー学園」が開校されるとのこと!これはどんなプログラムになるのか興味津々。早速、エリーさんのアトリエでお話を伺って参りました。
学校・家ではない、クリエイティブな”第三の場”を作りたい
__エリーさんが今、「子どものための学校を作りたい!」と思われたきっかけを教えてください。
大宮エリーさん(以下、敬称略):以前から美術館などで子どものためのワークショップをしていたので、「いつか子どもたちのための学校を作りたいな」と思っていました。そんな中、2015年にNHK「課外授業 ようこそ先輩」という番組に出させてもらって、それが大きなきっかけになりましたね。
__母校に帰って、後輩たちに向けて授業をする企画ですよね!好きな番組でした。
エリー:でも、最初は母校で授業をすることが乗り気じゃなかったのです。小学生の頃、いじめられていたので。でも、「今の小学生ってどんな感じなのかな」ということが知りたくて、「自分を知る、他者を知る」というテーマで授業をしました。今の時代、親も子も発信欲や自己承認欲が強い時代じゃないですか。思いやりがある人になってほしくても、そこには想像力が必要なのに、他者を見ていない…。そんな中で想像力ってつくのかな、と。
__そういった過去からの思いがあったのですね。
エリー:その時いじめられていた経験も、学園を作るのきっかけになっていますね。と言うのも、学校で私をいじめていた子が、おそらく塾でもいじめようとしていたんです。でも、その塾ではほかの学校の子たちが私を守ってくれて。その時に「私が悪いんじゃないんだ!世界はもっと広いんだ!」って思えたんですね。
だから、いじめられっ子とか引きこもりの子とか、ぜひそういう子ども達にも参加して欲しい。どうしても学校という狭い中で考えてしまうと、毎日が辛くなっちゃうけど、実際にはそれだけではないから。ここは想像力の場であり、ほかの価値観も認め合える場。自分と違う他者の個性に対して、「自分はどう思ったか」を大事にしていきたいです。
自分を知る、他者を知る、そして想像力を身につけることが大事
__ちなみに「自分を知る、他者を知る」というテーマで、具体的にはどんな授業を?
エリー:1限目は「名刺を交換する」という授業で、葉っぱや石でもなんでもいいので「自分はこういう人だよ」と伝えられるものを、作ってきてもらいました。靴の箱を真っ黒に塗ってきた男の子がいて。その子は「かっこいい!」と思ってもらいたくて作ったんですが、渡した相手にはそう伝わっていなかった(苦笑)。そのギャップを楽しんでもらう授業です。
2限目は「ワクワクを撮りに行く」という授業で、自分がワクワクするもの・ことを写真に撮ってきてもらいました。その中で石を大きく撮ってきた子がいて。その子は普段大人しくてあまり話さない存在だったのですが、その子に話を聞くと「ありんこの目線」と一言。確かに、小さな石が大きな山に見えて、ほかの子達も「おぉ〜!あいつ、すげえ!」ってみんなの見る目が変わったんです。これらの授業は、今回のこどもエリー学園でも取り入れていますよ。
__そうなんですね!聞いているだけでも楽しそう。
エリー:あと、2016年に青森の十和田湖美術館で5ヶ月個展をした時は、地元の子どもたち向けにワークショップを開催しました。商店街のシャッターに絵を描こうとか、お手紙を書こうとか。そうこうしているうちに、ことばやアートに関するメソッドが少しずつできあがっていきました。
__下地が、たくさんあったんですね。
エリー:日本の教育現場ってどうしても画一的というか、スポーツができたり、勉強ができたり、面白かったり…、そういう子ばかりが脚光を浴びやすいじゃないですか。でも、そうじゃない子もいっぱいいるし、みんなオンリーワンの才能がある。もう大学や就職先が問われる時代じゃないじゃないですか。これからは特に個性が必要になってくるので、そこを引き出したいのです。
__本当に。それぞれの個の力が求められています。
エリー:地頭がいい人って想像力が長けていて機転が効きますよね。「この流れだとこうした方がいい」と、先回りして考え行動できる人。そういう人って、小さい頃に面白い経験をしていたり、一人で妄想していたり、本をたくさん読んでいたり…。これは学校で学べることじゃないじゃないから、想像力をここで補って欲しいな、と。
「どうやってひとりで楽しむか」を考え続けて過ごした子ども時代
__エリーさん自身はどんな子ども時代を?
エリー:親が家にいなくて、いつも一人で石坂浩二さんの読み聞かせのレコードをずっと聞いていたり、本を読んでいたり。淋しい気持ちもありましたが、ずっと工夫して一人遊びをしていました。絵も好きで習ってはいませんでしたがよく描いていたので、コンクールにも入賞していましたね。
__まさに想像力を働かせて、遊んでいたのですね!
エリー:あと勉強は全然できなくて、分数の「通分」がわからなかったんです。みんな要領よく機械的にできるんですが、私は腑に落ちないとできない。するとおかんが「ケーキを描いたら?」って言うので、いつも算数のノートにケーキを切り分けて考えていました(苦笑)。
__何がきっかけで勉強ができるように?
エリー:NHKの砂漠化のドキュメンタリーを見た時に「これは大変!砂漠でも育つ植物を作りたい!」と思ったんです。バイオ=理系なんですけど、数学が苦手で…。数学で得意じゃなくても、というか、難しすぎて差がでにくいから入りやすい大学と聞いて、一浪して東大に行きました。
__え!!そこから東大…ですか?!
エリー:そうなんです。東大生ということもあって家庭教師もよく頼まれていたので、そういう意味では子どもを教える実地は踏んでいますね。全然勉強したくない子とか算数が苦手な子とか…、うまく本人の興味と直結させて、勉強する理由を作っていました。自分の中で腑に落ちる理由さえ見つかればできますよ。
__本人がやろうって気にならないとできませんからね…。それにしてもすごい。
エリー:私自身も、あの頃の自分に「やっておくといいよ」と言ってあげたいことがたくさんあります。例えば、中学受験の時に漁港の「水揚げ量」とか覚えるじゃないですか。今、仕事で国内を回ると「あぁ、ここが!」って思うことたくさんあります。なんにもフックがないと興味すら持たないけど、うっすらと名前を知っているだけで違いますから。
__そうなんですよね。最低限の知識はやっぱり必要で、それが実体験と重なった時に発揮します。
エリー:知識も必要だしクリエイティブ力も大事。詰め込み教育だけじゃ困るけど、クリエイティブ力だけだと底が浅くなっちゃう。だから、知識の部分をいかに楽しめるか、学校の授業を面白くさせたりするコツを教えられたらな、と思っています。
ことばとアート、あと面白い大人に会えるオンラインスクール
__実際にオンラインでの授業はどんな流れですか?
エリー:隔週土曜の午前中開催で、通常の授業では月替わりでアートとことばのどちらかを学びます。1回目が「お題」を出されて、その間に制作して、2回目がそれぞれ「発表する」という90分です。例えば、アートの授業では「赤だけで絵を描こう」というお題を出されます。条件を制限することで、人は知恵を使いますから、そこでクリエイティブ力が鍛えられる。これってすごく困難に立ち向かえる力が養われるので「これしかないの、どうしよう!」という局面をいろいろ作ろうかな、と。
__確かに!便利すぎる世の中なので、不便で知恵を絞る機会ってないかも…。
エリー:あと、毎月1回特別授業があり、おもしろい大人にお話を聞く会があります。学校の先生からシェフになった方とか、漆職人で人間国宝の方とか。昔は地域があったから、いろんな大人に出会えましたが、今って難しいじゃないですか。だから私がコーディネーターとなって、いろんな大人と出会う機会を作ろうかと。
__人と気軽に会えない状況も1年以上続いていますからね。
エリー:学校で授業も行事もなくなっちゃって、子どもたちの思い出がないって聞いたので、「コロナでつまんなかったけど、エリー学園に通って面白いことしたな」って大人になってからも思い出して欲しい。
__ユニークな授業の中で、自分を知って、他者を知って。子どもたちの成長が楽しみですね。
エリー:そうですね。とにかく、子どもたちには自信を持って「自分って才能あるんだ!」「可能性あるんだ!」って思えるようになって欲しいです。これから生きていれば、失敗も、逆境もあるじゃないですか。親はずっと寄り添えないから、自分は失敗しても否定しないで、生き抜く力をつけて欲しいと思います。
__今後、挑戦してみたい授業はありますか?
エリー:いつか「森の学校」をやってみたいです。東大生の時にすごい覚えている授業があって。北海道の富良野集合だったんですが、なんの授業かもわからず、とりあえず単位がもらえるからという理由で富良野まで行くと…、研究者や教授が森を歩きながらキノコや植物を教えてくれて。それが、すっごい楽しかった。だからいつか私がコーディネートして、研究者と森を歩きながら生態系教えてもらいながら、木とか苔とか、見せてあげたいなぁ。
__それすごい素敵!!コロナが落ち着いたらできそうですね。
エリー:そうですね。あと、子どもたちにも意見を聞きいて、子どもたち自身で作る学校にしたいので、初期メンバーはとにかく楽しいと思います。私自身、これから子どもたちと過ごせる時間が楽しみです!
お話を聞いていると素敵な構想ばかりで、想像力はもちろん、考え方がいろいろ柔軟になりそうなプログラムばかりでした(むしろ、親の私が受けたいぐらい)。小学生〜中学生までが対象で、8月7日から開校予定。なんと初期メンバーの募集は7月25日締め切りなのでお急ぎを!ご興味のある方はぜひ「こどもエリー学園」専用サイト、もしくはエリーさんのNOTEでご確認ください。
撮影/山崎ユミ
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。