スマホの便利さ・楽しさと併せて怖さも知る親だからこそ、子どもの利用には不安が尽きません。親のスマホで遊ぶ低年齢の子どもを持つ人に向けてアドバイス。
教えてくれたのは
スマホ安全アドバイザー 鈴木朋子さん
ITジャーナリストとしてスマホやSNSなど身近なIT関連記事や書籍を多数執筆。2人の娘を育てた経験から、親が抱く心配や疑問に答える。
健康被害、犯罪…「何が不安?」をクリアにすると、対処法や作るべきルールが見えてきます
「子どもとデジタルメディアについて、さまざまな種類の不安がありますが、要素が漠然としていると不安は増すもの。不安の内容をひとつずつクリアにし、親も一緒に試してみたり学ぶことで心配は減らせます。あとは、フィルタリングなどの“デジタルの見守り”と、声かけなどの“アナログな見守り”の両方を併用することが肝心です」
子どもへのメディア教育が専門 七海 陽さん
相模女子大学准教授。情報社会での子どもの発達をテーマに研究を行う。保育士、幼稚園教諭を目指す学生へのICT、メディアリテラシー教育にも注力する。
スマホによって“育ち”の機会を奪わないよう適切な環境を整えてあげるのが親の役目
「デジタルネイティブの現代の子どもにとっては、スマホやタブレットは身近な“遊び”のひとつ。子どもにとって遊び=学びなので、デジタル機器をすべて排除することは学びの機会を奪うことにも。大切なのは“どれだけよい出会いをさせてあげられるか”なので、利用時間や内容など、適切な使い方=環境を親が整えてあげたいですね」
小児科医・「子どもとメディア」代表理事 佐藤和夫さん
国立病院九州医療センター小児科医長。デジタルメディアが子どもの発育や健康に及ぼす影響について、情報発信や問題提起を行う。
発達・健康に及ぼす影響は少なくない! 親がそれを知り、実践につなげることが大事
「乳幼児は、生身のやりとりの中で人間としての基礎を獲得していきます。親は『長時間のデジタル利用は、子どもの発達や健康に必要な生身の活動の時間を奪う』という点を踏まえておくことが重要。年齢が進むと、その内容も発達に影響を及ぼします。子どもへの影響を学び、親自身がまず適切な使い方をするという心がけを」
年齢が低いほど、発達や健康への影響も大きい。子どもを守るには、限定的な使い方に絞る必要あり。
Q.外出先や移動中、家事中…どうしてもおとなしくさせたいとき、親のスマホを1~2時間貸すくらいなら、乳幼児に使わせても大丈夫ですよね?
「WHOからも『1歳まではスクリーンメディアを触らせない』というガイドラインが。2歳以上になって興味が出てきたら、1回あたり10~15分、1日1時間以内で使わせても。その際子どもを放置せず、親も一緒に見て反応してあげるのが大切です」(七海 陽さん)
「アメリカ小児科学会が乳幼児の電子メディア利用についてのアドバイスを出していて、その中のひとつに『子どもをおとなしくさせるためだけに使用しない』とあります。特に1歳半までは、遠くにいる家族とのビデオチャット以外は使用を避けるべき、としています。
手軽にずっと子どもがおとなしくなる“電子おしゃぶり”であるスマホやタブレットは、育児・家事で忙しい親にとって助かる存在なのは理解できますが、幼い子の利用に関してはそれだけ慎重になるべきだと知っておきましょう」(佐藤和夫さん)
Q.視力が悪くなりそう…。ブルーライトの影響は? 目のための休憩時間はどのくらい必要?
「ものを見る際は目で見た像を脳で処理しており、乳幼児はその力を養っている最中。その大切な時期にスマホを近距離で長時間見ていて眼球をあまり動かさないと『見る力』が育ちにくくなると言われます。1回の時間は短く、タブレットやテレビモニターなどできるだけ大きな画面で見るほうがベターです」(七海 陽さん)
「スマホ画面は紙媒体を見るときよりも視距離が近くなりやすく、目に負担が大きい。また、内斜視になりやすい傾向も指摘されているので、画面は30㎝以上離し、画面を明るくしすぎず、30分に一度は目を休ませることを心がけて。
また、夜にブルーライトが目にたくさん入ることで睡眠物質『メラトニン』の分泌が抑制されることがわかっています。子どもの成長に何より大切な睡眠の質を落とさないよう、特に夕方以降は、スマホやタブレットを極力見せないほうがいいですね」(佐藤和夫さん)
Q.姿勢が悪くなるなど、視力以外にも健康面に悪影響が? 脳の発育にも悪影響ってホント!?
「体を十分に動かして遊ぶことは心身の発達にとても重要。利用時間には気をつけて。また、スマホにお守りをさせて子どもを放置せず、反応を見て言葉や表情で返してあげるなどして、興味を体験的な遊びにつなげてあげられるといいですね」(七海 陽さん)
「東北大学の研究グループによる解析で、子どもの頻繁なインターネット習慣は、言語能力の低下につながることがわかりました。子どもは双方向のやりとりによって言葉を習得していくため、ネットで一方的に情報を受け取るだけではダメなんですね。さらに驚くべきことに、脳の神経細胞が集まる場所(灰白質)の発育も悪くなるという研究結果も出ています」(佐藤和夫さん)
Q.時間を決めても止まらなくなり、取り上げると泣いて怒ってお手上げに…。これって依存?
「依存というより、自分の好きなようにやりたい“イヤイヤ期”による場合も。3~4歳になれば親の言うことも理解できるので、スマホ以外にも楽しいことがあると、諦めずに伝えましょう」(七海 陽さん)
「『スマホ依存』という言葉は医学的にはありませんが、それに近い兆候は乳幼児から見られます。スマホは常に新しい情報が入ってきて飽きないという点では、子どもも大人と同じ。必要最低限の使用とし、親も子どもの前では使わないようにしましょう」(佐藤和夫さん)
Q.子どもに貸すために不適切なコンテンツに制限をかけると、親が自分で使うときに不便そう…
「アプリの利用時間を制限できるスクリーンタイム機能があるので、子どもに使わせる際はそれを活用してみて。また、iPhoneやiPadのアクセスガイドという機能は、使えるアプリを1個に限定でき、ボタンや画面タッチのオン/オフも細かく設定可能。子どもに渡す際はアクセスガイドをオンに、自分で使う際はオフすれば、不便を感じないはず」(鈴木朋子さん)
「スクリーンタイム」の設定方法 ※iPhoneの場合
「設定」→「スクリーンタイム」→「App使用時間の制限」を選択。時間設定をかけたいアプリを選び、1分ごとに利用時間を設定できる。子どもがよく使うアプリの時間制限を設定してから、使わせるようにしたい。
iPhoneの「アクセスガイド」設定方法
「設定」→「アクセシビリティ」→「アクセスガイド」→チェックボタンをオンすると、パスコードと時間制限を設定できる。アプリ使用中にホームボタンをトリプルクリックするだけで起動でき、「オプション」(画像2枚目の左下)から画面内の一部分のタッチを無効化できるので、うっかり操作による事故も防げる。
Q.YouTubeで残酷な内容など、大人向けの動画を見ていて、ドキリ! いわゆる「エルサゲート※」も目にしないか心配…
(※人気キャラクターなどを利用して子ども向けに見せかけて投稿される、残虐行為や性的表現など子どもに不適切な内容の動画のこと)
「子どもに見せても安心な動画が揃う『YouTube Kids』や『NHKキッズ』といった動画サイトも。年齢に合ったコンテンツしか表示されず、タイマーをかけることもできます」(七海 陽さん)
「低年齢の子どもに、大人向けの動画、暴力的、性的な内容のものを見せることは、思考や性格などへの影響が大きいので、目に触れないよう親が気をつけることが必須です」(佐藤和夫さん)
Q.小学校ではタブレット授業も始まるだろうし…早めにスマホにも慣れさせておいたほうがいい?
「今や小学生でスマホデビューが増えています。ただICT教育に関しては、学校や自治体ごとに端末は異なる可能性も高く、今から特定のデバイスに慣れさせる必要はないと思います」(鈴木朋子さん)
「アメリカ小児科学会の提言にも『IT機器はすぐ使えるようになるので、早くから使わせなくてよい』とあります。就学前だからできる“スマホ以外の遊び”をおすすめします」(佐藤和夫さん)
親のスマホを使わせるときのPOINT
- 1歳半までは、できる限り触れさせない
- 必ず時間制限などを設定し、目の届くところで使わせる
- 親がルールを作り、親も手本となるようなスマホ利用を
【特集】子どもが「スマホを持ちたい」と言ったら…
詳しい内容は2021年LEE8月号(7/7発売)に掲載中です。
イラストレーション/近藤圭恵 取材・原文/遊佐信子
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