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LIFE

飯田りえ

LGBTは特別じゃない。『息子のままで、女子になる』は子育て世代にこそ観てほしいドキュメンタリー映画【サリー楓さんインタビュー】

  • 飯田りえ

2021.06.16

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LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓インタビュー画像昨年、#Pride Hairというキャンペーンを見て衝撃を受けました。

トランスジェンダーが抱える就活時の悩みを訴えかけるものでした。爽やかさと美しさを併せ持ったその写真の奥には、これまで自分が知り得なかった苦悩を明確にしたのでした。

その時、出演されていたサリー楓さん。

彼女は今、日建設計で夢だった建築の仕事をしながら、新世代のトランスジェンダーアイコンとしてモデル活動やメディアを通して発信し続けています。その彼女のドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」が届きました。彼女を知りたくてLGBTドキュメンタリーを初めて鑑賞することに。

いざ観てみると、社会に旅立つ学生が挑戦を続けながら「自分が何者であるか」を探すと共に、親子の葛藤を描いた作品でした。特に、考えさせられたのが父と子の関係性。お父さんは戸惑いつつも真摯に向き合い、それでも、「息子」として認識を変えない。それぞれの想いや、向き合う姿にも非常に印象深く、まさにこの親子のそれぞれ視点が、私にLGBTを「自分ごと化」させた瞬間でもありました。

もし、わが子が、友達が、性に違和感を感じていたら?
どんな時でも味方であり続けたいけれど、そのためにはどうしたら?

日本では約8~10%の割合でセクシャル・マイノリティの悩みを抱えていると言われています。そう考えると学校や職場、地域において、誰もが正しい知識を持ち合わせておく必要があります。私たち、子育て世代にも重要なテーマなので、サリー楓さんにお話しを伺いました。(LGBTQ+やLGBTQIAなど総称はいろいろありますが、今回は「LGBT」でお話しさせていただきました)

カミングアウトする人も、されて困っている人も、同じ「当事者」なのです。

LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓インタビュー画像

サリー楓:1993年京都生まれ、福岡育ち。建築デザイン、ファッションモデル、ブランディング事業を行う傍ら、トランスジェンダーの当事者としてLGBTに関する講演会も行う。建築学科卒業後、国内外の建築事務所を経験し、現在は建築のデザインやコンサルティング、ブランディングからモデルまで、多岐にわたって活動している。パンテーンCM「#PrideHair」起用や「AbemaTV」コメンテーター出演も話題。

__楓さんが映画に寄せたメッセージに「LGBTドキュメンタリーは好きではない」とありましたが、どうしてですか?

サリー楓さん(以下、敬称略):世の中にはたくさんのLGBT映画があるのですが、このカテゴリーで発信すると、興味ある人や当事者にしか届かないのです。私が届けたいのは、理解のある人ではなく「カミングアウトされて戸惑っている人」。

もちろん、LGBTという言葉は知っていて、社会的にも受け入れた方が良いのはわかっている。けれど、私の両親のように子どもから突然、カミングアウトされてびっくりしている人も「当事者」なのです。

__そうなれば、誰でも当事者になり得ますものね。今、性教育も見直され始めましたが、学校ではそこまで教えてくれない…。ならば、親子で一緒に学びたい、そう思ってアンテナを張り巡らせている親御さん増えています。

サリー楓:日本の性教育って後進的で、大人も先生も正しい知識を持ち合わせていないので、子どもに教えられるはずもありません。知らない間に人の心を傷つけてしまうことにもなり兼ねない。だから、この作品も教材として見てもらえると理解が深まるんじゃないかなと思います。だからこそ、広く、若い世代にも親御さん世代にも見て頂きたいです。

LGBTに対して「わからない」と言えない雰囲気が、今の社会にはある

LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓画像

__親子のシーンは、見ているだけでもヒリヒリしましたが、そこにも逃げず、真正面から受け答えしている姿が非常に印象的でした。相当な覚悟で挑まれたのですか?

サリー楓:撮っている時に覚悟なんて1ミリもありませんでした。これまで親子関係については、割と良好でしたし、悲しいことばかりではなかった。ただ、ジェンダーに触れることだけはずっと避けてきたので、隠し事をしているとわだかまりができてしまう。でも、ドキュメンタリーを撮るなら、家庭内の葛藤を見せないとリアルじゃないので、初めて両親と向き合いました。

__親御さんは「どう受け止めていいのかわからない」、そんな風に見えました。

サリー楓:そうですね。今、LGBTやダイバーシティといった言葉はポジティブに語られることが多くなり、それは本当に素晴らしいことなのですが、それに同時に「理解を示さないといけない」という社会の雰囲気、同調圧力を感じることがあります。何事にも初めてだとわからないことがあって当然なのに、それを「わからない」と言えない。そんな雰囲気があると思います。

__確かに、ありますね。LGBTフレンドリーじゃないといけない。

サリー楓:私がカミングアウトした時、父もLGBTに理解を示すような顔をして「ありのままでいいんだよ」と言うこともできたと思います。カメラの前だし尚更ですよね。でも父は「自分にとっては、息子です」と最後まで言い放ったのです。反対もしないし、賛成もしない。そう言い切ることは、その場しのぎで理解を示すことよりもエネルギーが必要なことかもしれないな、と。

__実際に「息子です」と言われた時はどう思われましたか?

サリー楓:言われた時はショックでしたが、改めて考えると「子どもであるがゆえに、嘘はつけない」そんな真心みたいなのが父にはあったのかな、と思います。カメラの前でも、表面上の理解で終わらせたくなかったのではないでしょう。

__なるほど…、そっか。親だからこその、深さを感じますね。

無関心で、ただ社会に同調しているだけでは、本質的な理解につながらない

LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓画像v

サリー楓:ある意味、社会の縮図だと思います。身近な存在にいなければ、なかなか理解できないので、父が正直に「わからない」と言うことで、観ている方も「これから理解すればいいんだ」と思えますよね。

私も、男性として生活していた時は「女性専用車両」が存在する意味がわかりませんでしたが、社会的に言い出すことはありませんでした。いざ、自分が女性として生活するようになると、これまで経験してこなかったキャッチやセクハラまがいな嫌がらせがこんなにも日常で感じるのか…と。そこで初めて理解できたのです。

__ 私もこの作品で、初めて当事者の視点に近づくことができました。自分も困惑するだろうな、と想像しましたから。

サリー楓:当事者も困っているし、カミングアウトされた側も困っている。そこに対してわからないことは、正直に言えた方がいい。この作品を通して、議論のきっかけになればいいと思います。「賛同しないといけない」とか「楓は正しい、お父さんは悪い」という捉え方ではなく、とにかく「自分ごと」だと思って欲しいのです。

__日本は社会的理解も遅れているイメージですが、海外と比べるといかがですか?

サリー楓:アメリカは制度的には進んでいますが、モラル的には追いついていない部分もあり、分かりやすい差別が多いといいます。日本はルールという意味では進んでいませんが、モラル的なところで言うと…、無関心なのでしょうか。自分に関係ないから「好きにやってればいい」となりがちです。でも、これは議論を避けているだけに過ぎませんし、逆に、「ダイバーシティだから」と言って同調していると、本質的な理解にはつながらない。だから、自分の関係のあるところにきた瞬間、「どうしよう」となる。これは日本のジェンダーキャップ指数120位というところと、つながる話だと思います。



もし親子の中でカミングアウトがあったら…、とにかく正面から向き合って

LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓インタビュー画像

__幼少期から違和感を感じつつも、楓さんは言い出せずにいました。もし親子に、どういう対話があったら、今と違っていたと思いますか?

サリー楓:どういう対話なのでしょうね…。でも、今の状況が正解だと思います。父は理解しようとしているし、映画にも真摯に向き合って出演してくれ、嘘をつかなかった。私は理解してもらえなくて傷ついたけど、父に悪意があったわけではないので、結果的に仕方がないと思います。通過点は痛みが伴うので、だから、今はまだ痛いです。

__理想とか、正しい接し方とか、そういうのではなく、その時にお互いが真正面から向き合えばいい、ということですね。

サリー楓:そうですね。もし、お子さんにカミングアウトされたら、両親がすぐに受け入れられなくても、自分を責めるべきではないです。時間が解決する部分もありますので、当事者で発信している人を見つけて知っていけば、折り合いがついてくると思います。

__これまで私が知っているLGBTのイメージでいうと、テレビに出ているタレントさんや美容業界の方の印象が強く、特別な世界の話だと思っていました。しかし、今回の楓さんのように、将来の夢を抱く大学生が、就職活動の時に直面する困難さを知ると「これは特別な話ではないんだ」「身近なところにある話なんだ」と気づきました。

サリー楓:そう思ってもらえて嬉しいです!私が就活を機にカミングアウトしようとした時、ロールモデルが全く見つからず…。だからこそ「自分が一歩を踏みださないと、これからの若い世代が同じ悩みを抱えてしまう」と思い、社会に発信し始めました。私が次の世代のロールモデルになれば、その人が決めた選択がまた次の世代…と、輪が広がりますよね。

__ロールモデルの輪が広がれば、選択肢も広がりますものね!

サリー楓:作品の英題にもなっている「You deiced」からはそういった意味を汲みとれます。それに、この記事を読んでくださった読者の方も、もう当事者です。私を知ってしまった以上、LGBTの議論を無視できないんです。だから、みんなで新しい選択肢を作っていきましょう!

LGBTドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」サリー楓インタビュー画像

ダイバーシティ&インクルージョンな社会の実現、そう言われて久しいですが、どこか実社会と結びついていないというか、自分ごと化できていない私を、このドキュメンタリーは一気に近づけてくれました。精神的な部分だけだけでなく、身体的なホルモン療法のメリット・デメリット、社会的な制度の問題や就活のことまで、具体的に知ることができます。6月はLGBTプライド月間。自分の理解を深めるためにも、ぜひご覧になってください。

撮影/細谷悠美

『息子のままで、女子になる』英題:You decide.


2021年6月19日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
公式HP
©2021「息子のままで、女子になる」

 

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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