火災保険には入っていても、地震保険には入っていない?
東日本大震災から10年となる節目がやってきました。誰もがこの時期になると、あの日自分がどこで何をしていたかを思い浮かべるでしょう。
都心のオフィスビルで「その時」を迎えた自分は、地震の全貌が見えぬまま、東北を襲った巨大津波や続けざまに起きた原発事故に底知れぬ恐れを抱いたものでした。あれから何度か被災地を訪れていますが、10年の年月を経て復興も一通りなされたという気持ちにはなれません。
震災翌年に見た、すべてが流されてしまった集落跡や、残された土地に肩寄せあうように建ち並ぶ仮設住宅をはっきり覚えていますが、暮らしは立て直すことができたのだろうかという思いがよぎります。
自助・共助・公助という言葉が繰り返される現代にあって、災害で失った住まいに対する公助はあまり期待できず、自助が基本になることはまだ理解されていないかもしれません。
健康を損なった時の医療費は3割負担で済む公的保険制度がありますが、住まいが災害で損なわれたとしても、再建資金の大部分は個人負担です。
そのために、火災保険や地震保険に加入する必要があるのですが、2019年の段階で地震保険の世帯加入率は約33%(共済は除く)、火災保険とのセット率でも66.7%となっています。住宅ローンを返済している人でも、火災保険のみで地震保険には入っていない可能性があります。
改めて、地震保険への加入をためらわせる誤解を解いていきましょう。
なぜ入るのをためらってしまう? 地震保険の 「5つの誤解」
① 家が燃えても火災保険に入っているから大丈夫
地震によって起きた火災は、火災保険では補償の対象外となります。噴火や津波の被害も同様で、家に被害が出ても地震保険に入っていないと保険金は出ません。かなり認知されてきた事実ではありますが、「大丈夫」では決してないのです。
② 火災保険とセットで入れと言うのは保険会社が保険料を高くしたいからでは?
地震保険は単独では入れず、火災保険とセットで入る必要があります。でも、保険会社が儲けたいわけではなく、どの保険会社で契約しても保険料は同じです。地震保険は国と保険会社が共同で支払うことになっており、利益を織り込んではいないのです。そのため保険会社が地震保険をいくら売っても儲けはありません。逆に火災保険とセットで売ることで販売コストを小さくできるとも言えます。
③ 住宅ローンを完済したからもう保険はいらない?
住宅ローンを組む時に火災保険への加入が必須とされていますが、それは万が一ローン返済中に家を失ってとしても支払いだけが残るのを防ぐため。しかし、災害はいつやってくるかわかりません。たとえローンが終わっても、自宅を守るための火災保険と地震保険は必ず加入し続けましょう。
④ そもそも地震保険では再建できないのでは
地震保険が加入できる金額は、火災保険の契約金額の30~50%、建物部分は5000万円まで、家財が1000万円までとなっています。3000万円の家でも最大1500万円しか受け取れず、しかも被害を受けた程度に応じて支払われる金額は変わり、満額が出るのは「全壊」と診断されたときだけ。
確かに地震保険だけで十分とは言えませんが、保険金は住宅ローンの支払いや当面の生活資金に充てるためととらえたほうがいいでしょう。そのため、家財にもしっかり保険をかけて、少しでも保険金を積み増しするのがベター。
また、補償額を上乗せできる特約もあるので、心配な人は検討を。なお、公的支援策の「被災者生活再建支援制度」から支給されるのは最大で300万円となります。
⑤ 保険料がやっぱり高い!
地震保険料は2015年から3段階で改定されてきており、2021年にも引き上げがあったばかり。保険料の基本となる保険基準料率は、全国平均で5.1%の引き上げになりました。地域や建物の構造でも異なりますが、東京のコンクリート造りの場合、1000万円の保険金に対し2万75000円(1年)。4000万円の建物なら2倍の5万5000円ということに。
確かに安くはありませんが、12か月で割り戻せば月5000円弱となり、他の月払い保険料と比べて格段に高いともいえないのでは。建物の状態によって10~50%の割引制度が使えたり、税金が戻る地震保険料控除もあります。住まいを失った時の家計へのダメージを考えると、必要なコストととらえてほしいところ。(なお、マンションなど集合住宅は、個人で入るのは専有部分と家財に対する保険となる)
地震保険は万能ではありません。しかし、地震保険の保険料が上がっているのは、それだけ発生リスクが年々高まっていることの裏返しでもあるのです。東日本大震災から10年の節目となる今、我が家の備えについて考えるきっかけになるようにと願います。
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松崎のり子 Noriko Matsuzaki
消費経済ジャーナリスト
消費経済ジャーナリスト。雑誌編集者として20年以上、貯まる家計・貯まらない家計を取材。「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。
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