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FASHION

佐々木はる菜

世界のメゾンも注目!日本の伝統技術に新しい価値を! /「suzusan」村瀬弘行さんインタビュー【後編】

  • 佐々木はる菜

2021.01.28

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全く新しい形の「日本の伝統技術」に世界が注目!

400年以上続く日本の伝統技術「有松鳴海絞り」を活かし、ファッションからインテリアまで幅広く手掛けるブランド「suzusan」。海外高級メゾンや有名セレクトショップからの評価も高く、今世界で注目されています。

拠点のあるドイツで企画デザインを行い、国内外の厳選素材を用いて日本国内で生産し、ドイツ・フランス・日本で発表するという世界をまたにかけたものづくり。独自のデザインと美しさは世界的な評価も高く、ハイブランドへの生地提供やコラボレーションを行い、今では23か国120店舗以上で取り扱いが。

その「suzusan」を作り上げたクリエイティブディレクター村瀬弘行さんにインタビューする機会をいただき、その内容を前後編に渡ってお送りしています。
【前編】ではドイツで起業し自分でヨーロッパ中を回って少しずつブランドの魅力を積み上げていったこれまでの経緯や、全て手作業で行う「有松鳴海絞り」を活かした時間をかけた製品作りなどをお伝えしてきました。

その中でブランドの素晴らしさと同じくらい心に残ったのが、その華やかな裏にある「地道」とも言える積み重ねでした。【後編】ではそんな真摯な努力を続けられている原動力など、村瀬さんご自身の魅力に更に迫っていきたいと思います。

当日はドイツとオンラインで繋がり取材!「有松鳴海絞り」を家業とする「鈴三商店」の5代目として、1982年に生まれたLEE世代でもある村瀬さん。世界で評価されるブランドを作り上げた方ですが、画面越しでも優しさが伝わってくる穏やかな笑顔と、飾らない語り口が印象的でした。

「suzusan」が世界で評価される理由とは?

大切なのは「対話」。日本の伝統に新しい価値を

ドイツ・デュッセルドルフにあるsuzusanのアトリエ兼直営店。欧州各国からバイヤーやクリエイター、感度の高い顧客らが来店。2020初秋にオープンし、売り上げも好調とのこと。

存続すら危ぶまれていた有松鳴海絞りの価値を、全く新たな視点で再構築した村瀬さん。その根底には「価値を押し付けるのではなく対話したい」という想いがあるそうです。

「世界的に見ても素晴らしい技法で、その伝統や積み重ねがあるからこそ、こうやって世界で勝負できていると感じています。ただ、その伝統をそのまま出すことには違和感がありました。『由緒ある日本の伝統技術をもとに作った製品ですよ』といった強調のしかたではなく、気に入って手に取って使い続けていたけれど、実は日本の価値ある技術がもとになったものだった、そういう存在を目指したいと考えていました。」

村瀬さんが大切に考えていることのひとつが「使う側のことを想像して作ること」だそうで、使う方それぞれの暮らしに溶け込むようなものづくりについて「風通しの良いデザイン」と表現されていることも心に残りました。

『suzusan』のアイテムを手に取る方の背景にある国や文化や風土に、自分たちの持つ価値がどんなふうに関りを持てるのか、どうやったら使う人の生活と融合させられるのか、そういうアプローチを常に目指しています。」

国を越えた評価を得ている理由のひとつは、この「相手の立場に立ったデザイン」という考え方があり、またこの視点はグローバルな世界を生きて行く中で私達みんなのヒントとなるのではないかと感じました。

時間をかけて作られたものに価値を感じる時代に

厳選した素材を使い、全工程を職人さんの手作業によって丁寧に行うsuzusanの絞り。

新型コロナで大変な状況の中、「suzusan」の製品はヨーロッパでもよく売れていたそうです。その事実を通して村瀬さんが感じたのが、「人が手で時間をかけて丁寧に作ったものに価値を感じる方が、これまで以上に増えたのではないか」ということでした。

「もともとヨーロッパ、特にドイツは合理的な考え方を良しとします。一方、絞りは手作業で時間がかかるし、大量生産できないし、ある程度個体差もあって、合理性とは正反対の存在です。それを良いと感じて手に取ってくださる方が増えているのは、デザインの美しさに加えて、そういった人の温もりを感じるプロダクトに価値を感じる方が増えているのでのではないか、それが今世界で求められていることなのではないかと感じています。」

大切なものは見極めながらも、時代に合わせた形に

成功とは「次世代に繋ぐこと」

村瀬さんのような方にとっての「成功」とは何か、興味があり伺ったところ「次の世代に繋ぐことができた時だと思う」という答えが返ってきました。

「次の世代が育ってくれて、そこに今ある価値を手渡し自分の手から離れた時が『成功』なのかなと思っていて、そのための準備は常に意識しています。今やっていることと全く同じことをするのではなくて、時代に合わせた形で変化しながら続けていくものを作っていきたいです。」

海外の大学で教鞭も取らている村瀬さん。絞りの勉強のため有松に留学する外国人の学生もいるのだとか。もちろん日本の学生や、地域の子ども達に向けた体験イベントなども開催しているそう。写真は、名古屋芸術大学テキスタイルデザインコースでの授業風景。 

時代に合わせて変化しながら続けていくこと

村瀬さんの言葉はそのまま、これまで村瀬さんが成し得てきたことだと感じました。
素晴らしい伝統を持ちながらも廃れそうだった「有松鳴海絞り」を、世界で評価されるブランドとして蘇らせた「suzusan」は、まさに価値の再構築を体現している存在です。

世界で愛され続けているブランドも、確固たる軸は持ちつつも時代の先端を見て常に変化を続けているからこそ、ずっと一流と言われているのだと思います。

変化の激しい時代の中で、変わってはいけないものと変えた方が良いものの、見極めができる力。デザインなど芸術的な力に加えて、その力を持っているからこそ、村瀬さんが今、世界中から高い評価を受けているのではないかと感じました。

未来を見せることが希望になる

人の繋がりの中で、続けてくることができた

これまでの道のりはもちろんですが、世界に評価される新たな価値を常に生み出し続けることはやはり大変なこと。粘り強く続けていくために意識されていることなどはあるのでしょうか。

「ここまで続けてくることができたのは、周りで支えてくれる方たちの存在があったからこそだと思っています。応援して励ましてくれる人と出会えたから生きてこられたし、ひとりだったら心が折れていたと思う。」

2018年、ミラノの一流ブティック「Biffi」で行われたsuzusanのイベント時の写真。 左からバイヤー Rosy Biffi 氏、村瀬氏、Pitti ディレクター Antonio Cristaudo氏、Biffi オーナー Tiziano Cereda氏。

「suzusan」がこれだけ大きくなったことで、これからはさらに経営的な視点も求められるようになっていくそうですが、「これまで自分がやったことのない挑戦を前にすると、変化はやはり怖いと感じるし、傷つく時もへこむときもある。実は今でも結構毎晩のように心が折れて、妻に心配されていますよ」と笑う村瀬さん。

原動力は「希望」と「恩返し」

「でもそれを続けられるのは、ひとえに応援してもらっている人たちに恩返ししたいという気持ちです。恩返しするためには自分が成功するしかないし、それを見せることが御礼になると思う。なくなりかけていた伝統工芸が今のような状況になったこと、そういう『未来』を見せることは希望になると思う。諦めてしまったら今までやってきたことがゼロになってしまう、だから前を向いて進んでいけるのだと思います。」

日本の伝統を活かしながら新たな価値を生みだし、世界で評価されている村瀬さん。ファッションなど流行の最先端を見つめながらも、それを支える想いは温かく普遍的なものだったことが、とても心に響きました。

家族、仕事、子育て…私たちLEE世代は色々なことを抱え同時進行で進めていかなければならない世代だと思います。忙しく大変な時こそ立ち止まり、その先にある目的を意識すること。「目の前のことをなんのためにやっているのか」「どんな暮らしを送りたいのか」など、少し大きな視点で、なんのために頑張っているか考えてみること。そういった大切さについて改めて考えさせられる取材にもなりました。

少し先にある未来も意識しながら、そうやって日々目の前の事に精一杯向き合う…「suzusan」はそんな時に寄り添ってくれる、今を生きる私たちに力をくれるブランドだと感じます。
今後は2月に日本(東京)で展示会の予定があるそうなので、気になった方は是非チェックされてみてはいかがでしょうか。

※社会情勢を踏まえ、展示会及び受注会の最新情報は詳細はSNSやHPからご確認ください

suzusan HP

instagram

オンライン販売サイト

 

佐々木はる菜 Halna Sasaki

ライター

1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。

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