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LIFE

佐々木はる菜

今すぐ我が子に伝えたい、正しい性教育【「小学生と考える『性ってなに?』」高橋幸子先生インタビュー/前編】

  • 佐々木はる菜

2020.12.19

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子ども達が幸せに生きるため、正しい性教育を

皆さんは、お子さんに対して「性」にまつわること、どんなふうに伝えていますか?

子ども時代に一度は聞かれる「赤ちゃんってどうやってできるの?」という無邪気な質問に始まり、大人に向かって体が変化する時期を迎え、思春期と呼ばれる年齢に入り…いわゆる「性教育」の大切さは感じていても、こと我が子に伝えるとなると何をどう教えて良いかわからず戸惑ってしまうという方も多いのではないでしょうか。

高橋幸子先生の性教育

「サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える『性ってなに?』」  リトルモア

私もそんなママのひとりで試行錯誤してきましたが、今回ご紹介するこちらの本に出会ったことで、「なぜ性教育が大切なのか」そして「なぜ幼いうちから伝えた方が良いか」ということに心から納得することができました。

また、著者であり産婦人科医で性教育の普及のため尽力されている高橋幸子先生(サッコ先生)にインタビューする機会をいただき、私自身が8歳5歳兄妹と一緒に本を読んで話し感じたことなどを踏まえてお話を伺ってきました。

幼いうちから性について正しく伝えることにはメリットしかない!

ひとりの母としても強く実感した理由を、前後編に渡ってお伝えしてきたいと思います!

高橋幸子先生のポートレート

高橋幸子先生/埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科医 年間120回以上、全国の小・中・高校にて講演を行うなど、性教育の普及や啓発に尽力。思春期の入り口に立つ子ども達に科学的で正しい知識をつけてもらいたいと書かれた本書は、子ども達にもわかりやすい言葉を使いながらも、日本の義務教育では盛り込まれない、ユネスコの国際基準に照らし合わせた内容を学ぶことができる。

幼いうちから性教育をするメリットって?

性教育の出発点は「自分を大切にすること」

性教育と聞くとつい「赤ちゃんがどうやってできるか」を伝えることと考えがちだった私にとって印象的だったのが、

「性教育は自分の体を大切にすることから、他の人の心を大切にすることまで含む広く深いテーマで、まず自分の体を知ること、自分を好きになることから始めます。」

というサッコ先生の言葉でした。
最初は大学生、その後中高生に向けて、性教育を通して「あなたの体を大切にしてほしい」という話を伝えていたサッコ先生。その中で痛感したのが、もっと幼いうちから正しい知識を伝える必要性だったといいます。

「実際に中高生と接する中で感じたのが、すでに自己肯定感が低くなってしまった子ども達には、その『自分を大切にしてね』というメッセージが届かないということでした。たとえ知識を伝えても、自分を守る行動が取れなかったり、逆に自分を傷つける行動に走ってしまったり…その子たちと向き合うことはもちろん大切ですが、やはりもっと小さいうちから教えた方が良いと痛感したことも事実。そしてご縁があり、地元の小学校で10歳を迎える学年である4年生向けに講演をすることになったのが10年前のこと。それが小学生向け授業の最初の企画でした。」

親子一緒に受ける授業で、まず「どうしておへそがあるんだろう」という話から始めてどうやって赤ちゃんができるかを伝え、最後にサッコ先生の出産ビデオを観てもらうという流れで、この授業が本の内容のベースにもなっています。

世界の子ども達が学んでいる内容

子どもの性教育にいい本

子どもでも読みやすく、8歳息子もまずは一人で最後まで読み終えました。

サッコ先生がこの本を書かれた大きな理由は、思春期の入り口で、男女ともにだんだんと自分やお互いの体や心が気になりだす時期を迎えた子どもたちに、科学的で正しい知識をつけてもらうこと日本の学校教育では盛り込まれない、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を参照した内容となっています。

その基準によると世界では性教育は5歳から始まっており、それ以下の年齢でも、その国の事情に合わせて教えましょうということになっているそう。

確かに、子ども達と一緒にサッコ先生の本を読んでまず感じたのは、性教育に対してつい構えてしまうのは大人側だということでした。まだ幼く変な先入観がない子ども達にとっては、「どうやって命が生まれるか」といった話を始め純粋に面白かったようで、ひとつの知識として興味を持って聞いてくれます。その姿を見て、小さいうちから繰り返し伝えて話す大切も実感しました。

なぜ「プライベートゾーン」を学ぶことが大切?

またサッコ先生が子ども達に幼いうちから伝えたいことのひとつが「プライベートゾーン=水着で隠れるところ+くちびる」を覚えて守ろうという話です。

『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』より

『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』より

「『プライベートゾーン』を学ぶことは加害者にも被害者にもならないために大切です。自分だけの大切な場所で、勝手に見たり触ったりしてくる人がいたらNOと言っていい、そしてもしそんなことがあったら信頼できる周りの大人に相談してね、そして他の人のプライベートゾーンも同じように大切にしようねという話は、2歳くらいから理解できると思います。」

サッコ先生は「思春期外来」という場所で、若年妊娠や性虐待、性被害にあってしまった子どもたちの診察もされており、プライベートゾーンという言葉や概念を知っていれば、被害を避けたり小さくしたりできると確信するようになったといいます。

「赤ちゃんができる時と生まれる時に通る道だからプライベートゾーンは大切、それを伝えるために妊娠出産の話をすると言っても過言ではないかもしれません。始めた当初は小学校4年生にここまで話をするの?と親御さんからクレームが出るのではとも思いましたが、むしろ逆で『よくぞ伝えてくれた』というご意見ばかりで嬉しく思っています。」

親子の信頼関係を育むことに繋がる

家庭でできる3つの性教育

サッコ先生が家庭でできる性教育について保護者向けに伝える際、3つの項目を挙げてお話されているそうです。

  1. 質問された時に逃げないこと
  2. 発達段階に応じて適切な本などを渡してあげること
  3. 学校で外部講師の性教育がある時は一緒に受講し、その話題を共有すること

つまり親である大人側も、年齢に応じたアプローチで、子どもと一緒に性の問題に向き合う意識を持つことが、とても大切なのだと思います。

性教育の授業こそ、親子一緒に受けて欲しい!

高橋幸子先生にお話しを聞く

「毎回授業の最後に保護者向けに5分ほど時間をいただき、小さな頃から自分を守る大切さを伝えるためにこのような授業をしているということ、そして今日帰った後に一言でも構わないので必ず、お子さんとこの授業の話をして欲しいとお話しています。そうすればお子さんは『うちでは性の話はタブーではないんだ』と感じ、将来思春期になって何か性のことで悩んだ時に相談をしてもいいんだというメッセージを伝えることができます。」

本当に困った時に、子どもだけで抱え込まず親にSOSを出してくれる準備をしておくこと…幼いうちから性について話すことは、親子の信頼関係を育むことでもあるのだと感じました。

またサッコ先生は、性教育の授業こそ親子で受けて欲しいと考えていますが、7割の保護者が参加してくれる小学校時代に対して、中学生になると7%にまで減ってしまうと話します。

「中学生になってから避妊や性感染症の話や妊娠してしまったら病院に行こうという話をするんですが、その時に保護者の方が一緒に聞いてくれていたら、あの時のあの話なんだけど病院行きたいんだよね…と相談するハードルが下がると思う。年齢的に難しいところもあると思いますが、是非お子さんと一緒に授業を受けて欲しいです。」

大きくなってからこそ、自分の子どもが何をどこまで知っているか理解しておくことが大切。授業を一緒に受けておけば、家で少しでも話題に出すきっかけにできることに加え、習った内容やお子さんのタイプに応じて「うちの子にはちょっと刺激が強すぎたかも」「この子にはもっと具体的に教えた方が良い」などきめ細かくフォローしてあげられる。そのために保護者も参加することはとても重要だというお話は、大変心に残りました。

思春期に入ってからいきなり話すのは無理!

今回の取材を通して、国際的には後れを取っている部分も多い日本の性教育の現状があるからこそ、親も意識的に伝えサポートしてあげることが大切だということを改めて実感しました。

「日本の義務教育では4年生の保健体育で初経と精通を習い、5年生で人の誕生について学びますが、その時に精子と卵子がどうやって一緒になるかという話はしてはいけないことになっています。さらに中3で性感染症予防のためにコンドームが必要と習いますが、セックスについては話してはいけない…そういった学習指導要領を超えた部分を託されているのが私達のような外部講師です。」

ただ、子ども達向けにたくさん授業をされているサッコ先生でも「思春期になってから初めて我が子に性の話をするのはハードルが高すぎる」とおっしゃっていました。

「小さい頃から伝えられなかったご家庭は、やはり学校の力を借りるのが一番だと思います。外部講師を招いた授業などがあるならば一緒に受けてその日に少しでも話すこと。もしそれがないのであれば、学校を動かすには保護者からの働きかけが一番だと思います。」

思春期のお子さんを持つ親御さんによると、身近なところで性にまつわるトラブルの話を聞くようになり、問題意識を持っている保護者は多いといいます。
正面から話すことが難しくなる思春期以降は、周りの方を巻き込んで学校に性教育の授業をするようお願いし、それを一緒に受けるといったアプローチが近道かもしれないと感じました。



歪んだ情報の前に、正しい知識を伝える大切さ

性との最初の接点が「ネット」という怖さ

ひとり1台スマホのみならずパソコンを持つ時代となり感じるのが、性との最初の接点がネット上の間違った情報で、それを信じてしまっている子ども達が非常に多いということ。どんなに親が気を付けていても、例えば友人からスマホにアダルト動画を送り付けられたといった話もよく聞くといいます。

「アダルトビデオなどでよくある、最初は嫌がっている女性が実は嫌がっていないといった表現を信じてしまっている子も多くいると感じます。どこまでが本当でどこから嘘かわからないと思って観ないとだめだと伝えていますが、正しい知識を知らないと間違ったものだけを教科書にして信じてしまう。また偏った情報だとしても、ネットで調べているとそれに関連した話ばかり出てくるため思い込んでしまいやすいという特徴も、ネットの怖さだと思います。」

判断できる力をつけてあげることが「教育」

今回、ユネスコの国際基準では12歳までにコンドームの付け方を教えることになっていると知り驚きました。日本の性教育が世界より遅れている理由のひとつは、具体的に性知識を教えてしまうと興味が高まり、必要以上に早く性行為などに走るのではという危惧があるそうで、確かに親になってみるとその気持ちも理解できます。
ただ、間違った性の情報へのアクセスがこれだけ手軽になってしまうと、その前に正しい知識を教えてあげない方が怖い!と感じました。

「幼い時から正しい知識を繰り返し聞いていれば、歪んだ情報が入ってきても正しい判断ができます。その力をつけてあげることが『教育』で、それは必ず人生の選択肢を拡げることに繋がります。」

プライベートゾーンについての理解に始まり、年齢に応じて、例えば避妊の方法など正しい知識を正しく学ぶことは、結果的に子ども達の未来を守ることになるのではないでしょうか。

子どもに性教育をする

サッコ先生の本について「とても面白かった!」と話していた息子、私が取材でお会いできると知り、先生宛にお手紙を書きました。果たして先生は喜んでくださるでしょうか…

【後編】では、子ども達が本を読んだ反応や、聞かれて困ってしまった性にまつわる質問など、子育て中のイチ母としてのリアルな疑問にもお答えいただきました。
そんな貴重なお話が詰まった【後編】もお楽しみに!

佐々木はる菜 Halna Sasaki

ライター

1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。

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