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映画『ばるぼら』で稲垣吾郎さんが狂気の芸術家を熱演!ミューズ役・二階堂ふみさんと対談

  • 折田千鶴子

2020.11.18

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稲垣吾郎さんが“デカニズムと狂喜にはさまれた男”に!

“マンガの神様”手塚治虫さんの問題作であり異色の名作が、映画『ばるぼら』として誕生しました! 手塚さんご自身が自著を、“デカニズムと狂気にはさまれた男の物語である”と語られていた、その男を演じるのは、なんと稲垣吾郎さん

繊細でどこかミステリアスな稲垣さん(私の勝手なイメージですが)は、すごくハマりそう!!と思う一方で、その狂気の方向性が“異常性欲”となると、“え、え゛~っ!?”と驚いてしまいます。驚くけれど、でも観たい(笑)! さて、どんな作品になったのか、稲垣さんに直撃です!

今回、稲垣さん扮する作家・美倉洋介のミューズとなるフーテンの少女“ばるぼら”を演じた二階堂ふみさんと共に、LEEwebにご登場いただきました! “フーテン”という言葉自体に時代を感じますが、今回もまた二階堂さんの女優魂にも惚れ惚れです。というのも、ミューズ役である“ばるぼら”の謎めいた存在や魅力が、当然ながら作品の成否を左右すると言っても過言ではないですから。

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監督は手塚治虫さんのご子息であり、『白痴』(99)でヴェネチア国際映画祭デジタルアワードを受賞した手塚眞監督。監督作『ブラックキス』(06)でも夜の濡れた街の透明感、ひんやり怖いようなゾクゾクに満ちた映像で多くのファンを魅了してくれました。さらに今回、撮影を担当したのは、かのクリストファー・ドイルさん(ウォン・カーウァイ監督の一連作品の映像世界で一世を風靡した撮影監督で、近年は監督としても活躍されています)! 期待の高まる映画『ばるぼら』は、こんな物語です。

こんな映画

 著名な耽美派小説家・美倉洋介は、密かに異常性欲に悩まされていました。ある晩、新宿駅の片隅で酔い潰れた少女・ばるぼらを、思わず家に連れて帰ります。ばるぼらの奔放な言動にどこか魅力を感じる美倉は、彼女を手元に置いておくことにします。すると、美倉の中で久しぶりに新たな小説を書く意欲が沸き起こって来ました。またばるぼらは、美倉が陥る異常性欲の幻想から、何度も救い出します。もはやばるぼらなしには、美倉は生きていけなくなっていくのですが……。

『ばるぼら』   
© 2019『ばるぼら』製作委員会
2019年/日本・ドイツ・イギリス/100分/配給:イオンエンターテイメント
監督・編集:手塚眞 脚本:黒沢久子 撮影監督:クリストファー・ドイル、蔡高比
出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、渡辺えり
2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開

“画”や“額”の中に入っていく感覚

──序盤の夜の新宿のシーンから、もうゾクゾクしました。さすが手塚眞監督×クリストファー・ドイルさんだ、と。完成作をご覧になられて、“こんな映像になっていたのか”と驚きはありましたか?

稲垣 現場で既に上りが想像できていたので、驚きはありませんでした。というのも本作は、“画”作りから始まっていった映画だった、と言えると思います。クリストファー・ドイルさんの撮られる“画”は非常にハッキリしているので、その“画”に自分たちが入っていくような感覚だったというか。驚きはありませんでしたが、どの“画”もすごく印象的でしたね

二階堂 その場に用意された“画”や“額”の中に入っていくというか、“画”の中に自分たちがあてがわれていくような感覚でしたね。だから驚きはなかったのですが、一つ、“あれ、想像以上に自分、汚れているな”という点には驚きました(笑)。

稲垣 あ、そうでした(笑)!?

確かに、ばるぼらの服装はボロボロですね(笑)……インナーは見えていませんが、結構、本気で煤けている感じです。

二階堂 うわ、汚ない、と(笑)。完成作を少し時間が経ってから観たのですが、本作は自分の気持ちの中で“あれは何だったんだろう!?”という感覚が残っていたんです。観たら答えが出るのかな、とも思いましたが、結局パキッとした答えは出なくて。ただドイルさんが撮る画って、ちょっとだけ優しさが見えるというか、そういうところが、やっぱり好きだな、と思いました



ばるぼらは、他者が作り出した産物

──手塚治虫さんの原作から感じたこと、または演じるにあたって参考にしたことなど、原作から何か映画に持ち込んだものはありましたか?

稲垣 元々この原作はすごく好きな作品でしたし、手塚先生の作品を演じられるのはすごく嬉しいことだと思いました。ただ同時に、とても難しい作品であり、どういう風に映像として表現するのかなど色々考えましたが、結局は原作を読んだときに自分が感じたことなどはあまり意識せず、今回は真っさらな感じで臨んでいくことにしました。ゼロから監督や共演者のみなさんと作り上げていった作品です

稲垣吾郎
1973年12月8日、東京都出身。91年にCDデビュー。主演映画『クソ野郎と美しき世界』が大ヒット。近作に主演作『半世界』(19)、舞台「君の輝く夜に~FREETIME,SHOW TIME~」(19)、また「No.9-不滅の旋律-」が2020年12月より再上演が決定している。

二階堂 私も原作を読んでいましたが、オファーをいただいた当初、ちょうどそういう作品――年の離れた男性との関係を描く、例えば『蜜のあわれ』など――を何本かやらせていただく機会があり、手塚監督からも“イメージがぴったりだ”とおっしゃっていただきましたが、私自身はそれがよく分からなくて、分からないままの状態で現場に入りました。そして、よく分からないまま終わっていました

稲垣 確かに最初の頃、本当にばるぼらみたいに、二階堂さんがセットのはじっこの方で体育座りしている姿を覚えています(笑)。何やっているんだろうと思いながら、俳優さんは、それぞれの現場での居方があるから、そっとしておいたのですが……

二階堂 最後まで役を掴めませんでしたが、ただ原作の中でも、ばるぼらの感情はあまり動いていないんです。どちらかと言うと、他者が作り出した“産物”という感じですよね。他の人の発言やリアクションによって、ばるぼらのキャラクターが表現されているというか、そもそも実体がないという印象を私は受けていたので、これでいいのかな、と深く考えずに現場に居た感じです

二階堂ふみ
1994年9月21日、沖縄県出身。09年に『ガマの油』でスクリーンデビュー。主な映画出演作に、『ヒミズ』(12)、『私の男』(14)、『リバーズ・エッジ』(18)、『翔んで埼玉』(19)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19)など。連続テレビ小説「エール」もいよいよ最終週に!
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稲垣 自分でイメージしたことって、現場で覆されることが多いですし、また逆にそれが楽しいことでもあるんです。だから僕も、いつも同様ですが、何かを決めて現場に入っていくことをせずに臨みました

時間を慈しみながら過ごした3週間

──手塚眞監督の演出×クリストファー・ドイルさんのカメラ。実際に現場では、どのように作られていったのでしょう?

稲垣 先ほどの話と重なりますが、今回は、俳優が芝居をし、俳優がどう動くからカメラがどう撮るかではなく、最初から撮る“画”が決まっていたんです。……でしたよね?

二階堂 はい。だから自発的に動いた記憶があまりないです。こうしてくれ、と言われて、はい、とそのとおりにするという感じでした

稲垣 それも面白かったよね。絶対的な安心がありましたから。このシーンはこういうカメラの動きで、という絵コンテのようなものがあるので、1枚1枚が画として楽しめるような美しい映像になっていると思います。場面によっては監督が2人いるような感じでもありました。直接クリスさんが芝居を付けるということはありませんでしたが、単にカメラを回すのではなく、監督とクリスさんの役割バランスを、お互いが上手くとっていた感じがしますね。お2人とも、その場で生まれる俳優を含めたバイブレーションを信じてやられている感じでした

稲垣 撮影自体は3週間強くらいと、割にコンパクトに終わりました。撮影から2年経っていますが、あることは昨日のことのように断片的に思い出したり、あることはすごく昔の出来事だったように感じられたり。本当に僕がやりたいスタッフや共演者の方々とチームで3週間過ぎてしまうのが悲しいような気持ちもありつつ、だからこそ現場での時間を慈しみ、大切に感じながら過ごしました。でも、あの時間は無くなるものではなくて、そこから作品が完成して残っていくわけですからね

美倉を稲垣さんが演じることが最大の裏切り!

──さて今回、初共演を通して互いの俳優としての存在をどのように感じましたか。

稲垣 二階堂さんが出ている映画は、園子温監督の『ヒミズ』や、大好きな小説家・桜庭一樹さん原作の『私の男』をはじめ、これまでもよく見てきて、“日本の映画界にすごい人が出て来たな”と衝撃を受けたのを覚えています。だから共演できるのが、すごく楽しみでした。顔合わせでは“あ、二階堂さんだ”と思いましたが、現場で顔を合わせたときは、既に“ばるぼら”その人にしか見えなかったミューズなのか、魔女なのか、はたまたそこに居るのか居ないのか分からないような、完全に“ばるぼら”でした。そういう象徴的な存在として現場に居てくれたので、僕自身がとてものめり込むことが出来て、感謝しています

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二階堂 私にとって稲垣さんは、それこそ生まれたときから当たり前のように、テレビやスクリーンの向こう側にいらっしゃる方だったので、こうしてご一緒できただけで……という感じです。本作は、ともすると“変態作家の妄想話”となりかねないと思うんです。でも、そこに芸術家としての奥深さ、はかなさ、美しさ、作品を生み出す苦しみなどを感じさせるには、演じ手の方に教養があり聡明な方だといいなと思っていたのですが稲垣さんだとお聞きして、それはスゴイ、純粋に観たい、と思いました。ある意味、美倉というキャラクターを稲垣さんが演じられるということが、一番の裏切りになっていると思います。実際の稲垣さんは、すごく気さくな方でした

稲垣 ふみちゃんが沖縄に居た頃の話や、僕らが出ていたテレビを観て元気をもらっていたという話もしてくれて、とても嬉しかったな

二階堂 あとは、お花のことをお聞きしたり

稲垣 ふみちゃんが飼っている愛犬の話や、車とか動物とか、本当に他愛のない話をしましたね。後半は重いシーンがあって、お喋りするような雰囲気ではなかったですが。僕自身、ばるぼらの幻想や夢を見ているような感覚で過ぎていった3週間は、それだけ濃密な時間を過ごした、ということなんでしょうね

芸術家の狂気……理解できるか否か!?

──お2人がこれまで参加された作品の多くから、それこそ全身全霊を傾け、覚悟を持って臨まれたのだろうと思わせられます。芸術に関わる人間が感じ、体験される“狂気”みたいな境地に至る瞬間というのは、お2人は感じたことがありますか。美倉が陥った狂気を、理解できてしまう、というような。

稲垣 そういう気持ちは、すごく分かるな、と思います。この「ばるぼら」は、手塚先生ご自身の芸術論であり、表現論でもありますよね。手塚先生もやはり大衆娯楽と、本当に表現したい芸術との間で苦しむということがあったのではないか、と。だからと言って僕自身が芸術家だ、ということではないですが (笑)、その気持ち、分からなくはない。というのも、これまで僕はずっと大衆や娯楽というものを意識して、グループでやってきたわけです。その中で、苦しむまではいきませんが、自分のやりたいことと、求められることの狭間で悩む、ということはありました。今でもそうです。でも、きっと迷っているくらいの方が、観ている方は面白いのかな、とも思ったりします

稲垣 ただ、美倉のような狂気・変態ということに関すると……それも、分からなくはないな、というと語弊があるかもしれませんが(笑)、人間だれしもフェチみたいな面ってあると思うんですよね。きっと人には決して言わないことって誰でも持っていると思いますし、そういう意味で分からなくはない。彼の奇行を理解できるとは言えませんが、男性たるもの“ミューズが居てくれたらいいな”という気持ちは意外と分かるところはありますよ

二階堂 昔から谷崎潤一郎とか室生犀星など日本の文豪も描いているように、女性に対して神秘的な願望を持たれているのかなと。私は女性として生まれ、女性として生きていますが、“男性が理想とするミューズ像”ではない方に、女性の美しさを感じるというか、それこそ“ムネーモシュネー(ギリシア神話に登場する女神。本作では、ばるぼらの母と称して登場。渡辺えりさんが演じている)”に母性を感じたいというか……

──ご自身は、狂気に至る境地になられたことはない?

二階堂 狂気に至るという経験はないですし、健康的でいたいな、と思います。“芸術家の狂気”みたいなものに惹かれるマジョリティーの気持ちも分かりますし、面白いとも思いますが、時代は変わってきている、というか。そういうものが美しいとされていた時代はあったけれど、私たちの世代は少し価値観が違う、という印象です。私たちの世代では、“何かの犠牲の上に立つ美しさを美しいと思わない”ということなのかなと。芸術って、そのギリギリのラインにあるわけですが……。

 

なるほど。二階堂さんの自分の考えを物おじせずに発する能力、整理されている頭の中に感服です!

写真撮影になると、雰囲気のあるお2人の麗しい姿に、惚れ惚れ! 映画『ばるぼら』は20日公開です。ぜひ、劇場でゾクゾクッとしてください!

映画『ばるぼら』

  • 2019年/日本・ドイツ・イギリス/100分/配給:イオンエンターテイメント
  • 監督・編集:手塚眞 脚本:黒沢久子 撮影監督:クリストファー・ドイル、蔡高比
  • 出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、渡辺えり
  • 2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開

『ばるぼら」公式サイト


撮影/菅原 有希子 ヘア&メイク/金田順子(稲垣さん) 足立真利子(二階堂さん) スタイリスト/黒澤彰乃(稲垣さん) 髙山エリ(二階堂さん)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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