光や映像を駆使した、
独創的な朗読ソロ・パフォーマンス
森山未來さんは俳優であり、一流のダンサーでもある。そして、舞台における森山さんは映像の中とはまた違った、特別な存在感を示す。そんな森山さんが初めての朗読ソロ・パフォーマンス・ツアーを開催中だ。残念ながら終了した開催地もあるが、これから大阪、福岡、長崎公演が控えている。予定を調整できるなら、ぜひ会場に足を運んでほしい。なぜなら、すぐ目の前にいる森山さんが全身を使って伝えるメッセージは、きっと誰しもの心に響くからだ。
身体・言葉・音・光…すべてを駆使して紡ぐメッセージとは
『「見えない/見える」ことについての考察』は、ポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』とフランスの作家/哲学者モーリス・ブランショ『白日の狂気』から一部のテキストを朗読し、合間にダンス・パフォーマンスが挟み込まれるという舞台構成になっている。光や映像、イヤホンから流れてくる言葉や音も駆使して、「その場」にいなければ体感できないライブ感あふれる作品だ。
2017年に東京藝術大学で初演された作品だが、「新しい生活様式」を築かざるを得なくなった2020年という時代に生きる私たちが「本当に見ること」とは何か、をとらえ直すのに、うってつけの題材として再演が決まったもの。
「いわゆる外的な、物理的な要素として盲目になるという話と、内面的に盲目であるのではないかという二つの話を考察させたら面白いんじゃないか」という森山さんのイメージから作りこまれた作品。というと、何やら難しそうに感じるが、そんなことはない。「物理的には見えているのに、本質的には見えていない」というケースがあることを私たちは体験的に知っている。あるいは、多数派の空気におされ、自分自身の感覚を見失うこともある。改めて自分自身の「見方」について考察する機会となるはず。
森山さんのクールな朗読と躍動感に満ち、息づかいまで聞こえるダンス・パフォーマンスが、光や映像といった舞台装置と一体になると、それはそれは美しい。
「本当に見ること」とは何か。
これからどういう風に生きてくのか。
再演に先んじて行われた取材会での森山さんのコメントも付記しておく。
「昨年はUAEのシャルジャでやらせてもらったので、作品が継続していくのは、ありがたいですし、素晴らしいことだなと思いつつ、2017年の初演時には2020年の状況がこうなるとはまったく想像はしていなかったわけです。でも、いま世界中の置かれている状況、僕らが置かれている状況、これからどういう風に生きてくのか、価値観が変動していったのは間違いないなかで、改めてどういう風に生きていくべきか。手探りかもしれないですけど、いまこの状況においてこの作品をやる意味っていうのが、皮肉にも強く出てしまったんじゃないかなっていう印象はあります」。
森山さんはとてもストイックな役者だ。ゲネプロ(本番直前にメディア向けに公開される舞台)の直前まで、ひとつひとつの動きや音の微調整に取り組んでいた。よりよい舞台を観客と作り上げたい、という気迫を感じる時間だった。
公演情報
リーディングパフォーマンス
『「見えない/見える」ことについての考察』
■演出・振付・出演:森山未來
■キュレーション:長谷川祐子
■テキスト:
ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』
(翻訳:雨沢泰、河出書房新社刊)
モーリス・ブランショ『白日の狂気』
(翻訳:田中淳一 ほか、朝日出版社刊)
■公演期間・会場:
<大阪公演>
2020年10月30日~11月1日(マチネ・ソワレあり)
フェニーチェ堺 大スタジオ ※開場時間は開演30分前
<福岡公演>
2020年11月3日(マチネ・ソワレあり)
スカラエスパシオ ※開場時間は開演30分前
<長崎公演>
2020年11月5日、6日(マチネ・ソワレあり)
長崎市チトセピアホール ※開場時間は開演30分前
■お問い合わせ:
サンライズプロモーション東京
☎0570-00-3337(平日 12:00-15:00)
取材・文/中沢明子 撮影/RYUYA AMAO
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中沢明子 Akiko Nakazawa
ライター・出版ディレクター
1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。