久々の制服は嬉しかった(笑)!
LEE12月号では、映画『ホテルローヤル』の原作者・桜木紫乃さんのインタビューをご紹介していますが、その『ホテルローヤル』で“ワケアリ女子高生”を演じている伊藤沙莉さんに、ご登場いただきました!
沙莉さんと言えば、どんな作品でもザックリと爪痕を残す、人気も注目度も急上昇中の女優さん。急上昇中というより、既にブレイク済みと言った方がいいでしょう。好感度の証であるCMも含めて、今では見かけない日はないくらい。個人的にも、どうしても目がいってしまう大好きな女優さんである沙莉さんですが、またまた『ホテルローヤル』でも、とってもイ~味をたっぷり注入しています。
──女子高生「まりあ」役で、久々に制服を着られましたね!
「走馬灯のように、というと大袈裟ですが、感慨深かったです! 実は私、かつて周りの大人たちから、“制服を着た君しか想像できない”“大人の役は来ないだろう”と言われたことがあって、コンプレックスから学生役をやりたくないと思っていたんです。でも最近は色んな役をやらせていただくことが続いたので、逆に“制服着たい~”と思っていて。とはいえ自分から制服を遠ざけていた間に年も取り、もう無理かな、いやギリ行けるかな、というタイミングでこのお話をいただいたんです。(監督の)武正晴さんから“ずっと君に決めていた学生役がある。でも決めた時から2、3年経っているから、俺も不安だ”と言われて(笑)。ギリギリOKだと言ってもらえて、良かったです」
──「全裸監督」でご一緒した武監督は、数年前からなぜ“まりあ役”を沙莉さんに、と思われていたのでしょう?
「今となっては“そんなコト俺、言ったか?”と言われそうですが(笑)、原作の「先生」という章を読まれた時、私の声で「せ~んせ~い」と、のっぺりした喋り方で先生を呼ぶセリフが聞こえた、とおっしゃっていました。そのセリフを私の声で聞きたかった、と武さんに言われたのは(演じるモチベーションとしても)大きかったです」
『百円の恋』『全裸監督』監督の面白演出
<こんな映画>
釧路湿原を望むラブホテル“ホテルローヤル”を舞台に、ホテルの経営者家族と従業員、“非日常”を求めてホテルを訪れる人々の、色んな人生の断面が映し出されていく。ヌード写真の撮影に訪れたカップル、子供と親の世話に疲れている中年夫婦、行き場を失った女子高生と妻に浮気をされている担任教師……。クスリと笑ったり、感動して目頭が熱くなったり、衝撃を受けたり……。色んなエピソードに彩られた人間ドラマ。
──ラブホテルに高校の担任とワケあってやって来たまりあが、なんとも図々しくて面白かったです。無敵の女子高生ぶりを発揮していましたね。
「武さんの演出で面白かったことの一つですが、“一生、口開けてて”と言われたんです。だから話を聞いている時も、ずっと(ポカンと緩く口を開けて)とやっているんです。抜けているというか“何も考えていないな、コイツ”という空気を出して欲しい、と。それがこの子の孤独や哀しさなど、逆の作用に働くことになる、という計算なんですよね。さらに常に余計なことをしてくれ、とも言われました。例えば廊下を歩くシーンでも、“これ何?”とすべての物に触っているんです。いつもはお芝居をする時、余計なことをしないように心がけますが、今回は、とにかく余計なことしかしていない。初めてのラブホで全てに対して興味しかない、という風情で。能天気に見える田舎の女子高生が実は……という導き方が、すごく面白かったですね」
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──隅々までこだわりを感じさせる昭和なラブホテルの再現も、見どころの一つですよね。
「廊下などは釧路の実在するホテルで撮っていますが、部屋はセットなんです。本当に古き良きラブホです、って感じで、この物語が生まれそうな空気感が見事に表現されていると思いました。美術部さんも武さんも、すごく強いこだわりがあり、本当に“その場”に居させてくれる場を作り上げてくれたことに感動しましたし、とてもやりやすかったです。思い出しても、なんだかすっごく寂しい気持ちになる空間だったな……と。ただ、風呂の扉がこんな感じ(取材時に間に置かれていた透明アクリル板を指し)だったのには驚きました。“全見えやん”って(笑)。まりあのセリフに“風呂入ろ”というのがあるのですが、言いながら“うわぁ~、これにぃ!?”と思いました(笑)。ラブホだなぁ~、エッチだなぁ~って」
先生役の岡山天音さんとは実は同い年
──まりあの担任教師を演じるのは、岡山天音さんです。10歳差という役の設定ですが、実は同い年ですよね。
「そうなんです。実は16歳の時に学園ドラマの同級生役で共演したことがあって、待ち時間など、いつも絵を描いていた天音君に“何、描いているの?”なんて聞いていた思い出があって。そんな天音君が、まりあにとって一番の支えになる先生を演じているというのも、すごく感慨深かったです。本当に好きな役者さんだし、いつも素敵なお芝居をされるので、やっていてメチャクチャ楽しかった。幸せに近い楽しさで、すごく気持ちよかったです」
──岡山天音さんも常に“何か”を醸す不思議な存在感の、本当に上手い俳優さんですよね。
「天音君の近々のお芝居を間近で見られるのは、すごく贅沢でした。相変わらず素敵なお芝居で。だから10歳差ということや、私が子供っぽくしようとか一切考えず、天音君に投げた感じです。憂いというか、先生の表情がすごくやつれていて、“もう一杯一杯だ”という顔を表情で出していて、すごく老けて見えてマッチしていましたよね」
──表情が変わっていないように見えるのに、同時に表情がすごく豊かというか、すごく気持ちが伝わって来るのが不思議ですよね。逆に、沙莉さんは非常に表情が動いていて表情が豊かで、一目でパッと伝わって来る感じです。
「私たち、真逆の顔芸タイプなんですよ(笑)。私は、そんなに顔を動かしているつもりはないのに勝手に動いちゃう。こっちは顔が筋肉痛なのに、天音君は繊細な動きが無意識にできるというか、さほど顔の筋肉を使わずに、こんなに伝えてくるのか、スゴイな、と。見習いたい部分です」
夢のようでフワフワしてます
──本作の他にも、11月公開の映画が2作もあります。ドラマ出演もある中で、本当に超売れっ子状態ですね!
「こうしてコンスタントにお仕事をいただけることに未だに慣れず、夢みたいで本当にフワフワしています。信じられないというか、本当にありがたいお話だな、と。小学生からこの仕事を始めていて、作品の撮影が終わりに近づくと、大抵“次、何があるの?”と聞かれる、その言葉が大嫌いでした。一つ仕事が終わると、また一からオーディションを受けて……という生活をずっとしてきたので、視界に入れてくれてありがとう~って感じです」
──同じ時期に作品同士が重なっても、苦にならないタイプですか?
「元々、作品も役も引きずらないので、カットが掛かったら“お終い~”って感じなんです。伊藤と言う人間自体、一つの感情を持続させるのが難しいので、全く問題ないですね(笑)。“あぁ、悲しい。でもコレ美味しい~”みたいな人間なんです」
──沙莉さんと言えば、そのハスキーボイスが非常に魅力的です。一度聞いたら忘れない、すごい強い武器ですよね。
「オーディションでも声で覚えてくださる方が多かったので、最初は強みだったんです。ところが声優のオーディションに毎回呼んでくださるのに、毎回ギリギリで落とされる監督に、4回目あたりで“思っていたより特徴的でも個性的でもないな”と言われ、武器でもなんでもないじゃん、となって。自分で可愛いと思える声でもないし、カラオケで歌える歌も少ないし、超必要ない、と自分の声が大嫌いになってしまったんです。だいぶ長い間ひねくれにひねくれた結果、ぐちゃっとなり過ぎて今は真っ直ぐ、みたいな(笑)。声優やナレーションなど、声のお仕事もいただくようになって、この声も悪くないかな、と今では思っています」
──コンプレックスと言えば、エゴサーチをしてしまうと過去に言われていましたが、今でもされますか。
「もはや手癖です。ちゃんと読んでもいないのに、勝手に手が(Twitterを)開いちゃう。だから今は、携帯から離れる時間を作るようにしています。でも、今となってはどんなヒドいことを書かれようとも、何も感じなくなりました。むしろ原動力にしかならない。エゴサーチデビューが小学生と早かったので、もう、悟りの境地です(笑)」
──最後に。本作を経て、まだまだ学生役もイケるな、と自信を深めたのでは!?
「いや、ギリでしたね~。朝いちで衣装を着て鏡を見ると“大丈夫か?”と。北海道で、死に物狂いでマッサージを探して行きましたから(笑)! でも、これで一つ自分の中で区切りが出来ました。断言はしませんが、これが最後だな、と思ったというか、少なくともそういう感覚で演じました。しかも“よくいる”女子高生ではなかったので、最後がこの作品で本当に良かった。本作で締めるのは最も美しいな……と思いました」
何を聞いても、すべてが出来上がっているネタのように、面白すぎる沙莉さんのトークは、ずっとインタビューを続けていたいような楽しい時間となりました。今回改めて、面白い=ここまで頭の回転が速いとは……と唸りながら。演技も上手い上にこんなに面白ければ、当然、引っ張りだこになるだろうと納得です。
現在26歳。意欲作にどんどん挑んで行かれている姿から、これからもさらに幅を広げ、どんどん面白くなる女優さんだと、注目しないわけにはいきませんね。
映画『ホテルローヤル』
- 2020/日本/104分/配給:ファントム・フィルム
- 監督:武正晴 原作:桜木紫乃「ホテルローヤル」
- 出演:波瑠、松山ケンイチ、安田顕、余貴美子、原扶貴子、夏川結衣ほか
- 11月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
- 公式サイト:https://www.phantom-film.com/hotelroyal/
原作小説はこちら!
ホテルローヤル|集英社の本 公式
ホテルだけが知っている、やわらかな孤独湿原を背に建つ北国のラブホテル。訪れる客、経営者の家族、従業員はそれぞれに問題を抱えていた。閉塞感のある日常の中、男と女が心をも裸に互いを求める一瞬。そのかけがえなさを瑞々しく描く。
写真/細谷悠美 ヘアメイク/AIKO スタイリスト/吉田あかね
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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