“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.7:朝夏まなとさん
コロナ渦のもと、次々と舞台公演の中止が決まり、劇場街の静けさに演劇ファンとしてしんみりしてしまっていましたが、劇場の灯は再び点り始め、スタア☆劇場も再開いたします! VOL.7は私のかけがえのない親友にご登場いただきました。
私と朝夏まなとさんが共通の知人を介して出会ったのは、彼女がまだ宝塚歌劇団花組の下級生だった頃。その後まもなく入団4年目にして新人公演主演に大抜擢! そこからの彼女は若手スターの階段を駆け上り、着実に経験と実力を蓄えながら、宙組へ組替え。7代目宙組トップスターとなり、“宙組の太陽”と呼ばれる大きな光となりました。退団後は女優に転身。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』イライザ役で女優としてのデビューを遂げ、激動の2020年、再びオードリー・ヘプバーン主演の不朽の名作『ローマの休日』のアン王女役で、ミュージカル界を光で照らしてくれます!
最初に研究したのはグレゴリー・ペック
──この連載を始めるときから、朝夏まなとさんの登場はマストと勝手に決めていて……。
朝夏「わ~い!嬉しい~!(笑)予告してくれてましたもんね」
──タイミングを計ってました。コロナ渦で演劇界も激動の2020年を進む中、帝国劇場『ローマの休日』開幕、お迎えするのは今だと! 祝・帝国劇場初主演、おめでとうございます。 意外にも帝劇初めてですよね?
朝夏「8月に『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』で帝劇には立たせていただいたんですけど、ミュージカル作品での出演は初めてですね。これまでもシアターオーブ、日生劇場と大きな劇場には立たせていただきましたが……あ、もちろん宝塚もね(笑)。伝統ある帝国劇場に『ローマの休日』という名作でご縁が繋がって、本当にありがたいと思っています」
──『ローマの休日』…どのシーンも鮮明に思い出せるほど、何度も映画を観ました。大地真央さんの舞台も拝見しました。
朝夏「私も大好きな映画です。……グレゴリー・ペックのほうを研究してましたけど(笑)」
──あ~、そうか(笑)。映画で“男”研究は男役あるある、ですね。
朝夏「その通り(笑)。グレゴリー・ペックが演じたジョー・ブラッドレーのあの抜け感! あの大人のカッコよさを勉強するために何度も見ていたんです」
──今回演じるアン王女については?
朝夏「ひたすら、オードリー・ヘプバーン可愛いなぁ~って思っていて」
──ジョー目線じゃないですか(笑)。
朝夏「最初はそちら側でした (笑)。まさか私が帝国劇場でアン王女を演じる日がくるなんて」
人として惹かれるのが”身分違いの恋”
──この物語は、“身分違いの恋”の王道。『ボディ・ガード』や『ノッティングヒルの恋人』を初めて見たとき、『ローマの休日』を思い出しました。
朝夏「なるほど、そうですね。“身分違いの恋”大好きです! 韓流ドラマなんて、その際たるものじゃないですか?」
──『ノッティングヒルの恋人』のような恋愛は、朝夏さん、可能性アリですよね?
朝夏「え~!! 石油王の息子とか、どこかの国の皇太子との恋とか?(笑)」
──いや、貴方がジュリア・ロバーツのほうです(笑)。スター女優と一般男性の恋。
朝夏「そっちですか (笑)。でも身分違いの恋って夢がありますよね。『ローマの休日』の場合、どちらも最初から身分違いってわかってるじゃないですか。わかってるけど、どうにも、人間として惹かれていく……身分違いの恋ってそこが素敵だなって思うんです。アンとジョーの場合、その恋がたった一日の出来事で。運命の人に出会うって、会ってからどれくらい経ったか…とか、時間なんて関係ないんだな、って思いました」
──確か、ロミオとジュリエットの物語もたった5日ぐらいの出来事ですよね。
朝夏「そうなんです!本当にロマンと夢があって~」
──そんな運命的な恋をしたご経験は?
朝夏「ないですね(即答)」
──マネージャーさんが、「席外しましょうか?」って笑ってらっしゃいます(笑)。
朝夏「残念ながら、何も隠してないです(笑)。でもね、実生活ではなかなか経験できないことを役を通して体験させてもらえるから、このお仕事は楽しくて、魅力的なんです」
──プリンセスにもなれる。女の子が見た夢を体感するなら、女優ですね!
朝夏「本当に(笑)。ストーリーはわかっていましたけど、改めて台本を読んでみたら、50年以上前に書かれた物語なのに全然古さを感じなかったんですよ。『ローマの休日』って普遍の魅力なんだと。ジョーって現代にいても絶対に素敵な男性で、恋したくなりますもん。……って2人にプレッシャーかけたりして(笑)」
──2人のジョー。加藤和樹さんは初共演、平方元基さんは『マイ・フェア・レディ』で共演して……あ、平方さんにとっては朝夏まなとさんは常にオードリー!?
朝夏「そうなんですよ。冗談で“オードリー女優!”って言われてます (笑)。めっそうもございません…って言いたくなるんですけど、『マイ・フェア・レディ』と『ローマの休日』どちらも大地真央さんが演じられていた役……本当に光栄すぎますね。大事に演じたいと思います。加藤和樹さんは初共演なんですけど、マネージャーさん同士がもともと仲が良くて、よく加藤さんの出演作品を拝見してご挨拶はしてたんですよ。お芝居ご一緒するのは初めてなので楽しみにしていました」
ラブストーリーであり、アンの成長物語
──アン王女を演じるにあたり、役作りとしてどこに焦点を当てようと?
朝夏「ラブストーリーであると同時に、アンが大人へと成長する話だと思っています。最初のアンと、最後のアンは絶対的に変わっている。自分が望んでいた夢は現実になったけど、自分が王女としてすべきことにも気付いてしまい、自分で自分の道を選んで歩んでいく……。ジョーとの思い出を胸に、ひと回り大きくなるアンですよね」
──最後の記者会見のシーン、オードリーの表情から、今おっしゃったアンの成長が感じられたことを思い出しました。
朝夏「ミュージカル『ローマの休日』には、言いなりではない、自分の意志で決意をする……っていうすごく素敵なナンバーがあって、ここがミュージカルの醍醐味だと。映画にはない、アンの内面を歌うシーンになります。他にも、全編本当にきれいな曲ばかりで。例えば、ミュージカルファンの方が映画を観ていて、“ここに歌があったらいいだろうな”って想像できるようなところに、バッチリ入ってる!!という感じなんです。もともと素晴らしい物語であるのに、音楽、歌によってもっと膨らんでいく……アンが脱走するシーンも楽しい歌がありますし、ラブシーンのデュエットはすごく美しいし。そして、この音楽、歌は日本人の感性で日本人のために作られたものである…と」
──『ローマの休日』は映画をもとにして作られた、日本のオリジナルミュージカルなんですよね。
朝夏「そうなんです。日本語で作られた歌なので、翻訳された歌よりもすんなり入ってくるんです。お芝居の延長線上に自然に日本語の歌があって、入り込みやすいですね」
──コロナ渦の今、多くのスタッフの方の尽力あって幕が開くことと思います。劇場へ向かう我々にとっても、今まで以上に劇場へ足を運ぶ喜びを感じる、特別な一日になるかと。
朝夏「次があるのは当たり前ではなく、今日このステージが最後かもしれない。私もそんな想いでこれからはステージに立つと思います。お客様にご不便をおかけしながらも、無事千穐楽を迎えることができたら、今までにも増して達成感が得られると思います。この『ローマの休日』がいろんな意味で、ひとつの希望になれたら嬉しいですね」
──観劇日の予定を手帳に記す……これだけでも希望になります。
朝夏「嬉しいお言葉です! 気を緩めず徹底的に気を付けながらやっていきたいです。ステイホーム中はこれまでになく時間があったので、ボイストレーニングしたり、バレエレッスンしたり、断捨離したり。充実した休暇になったので、私自身はいい状態で臨めます」
──公式インスタグラム拝見していましたが、お料理の腕前が上がったかと!
朝夏「でも、一時的なものでしたね(笑)。やっぱり私は、ナギサさんが欲しい(笑)」
──『私の家政夫ナギサさん』ですか(笑)。育てたバジルで美しいイタリアン作ってたじゃないですか!
朝夏「……バジルは、枯れました(笑)。ありがとう、って気持ちで苗を抜きました(笑)」
──次は、何を育てましょう?
朝夏「大丈夫です、もう(笑)。舞台に立てる日がきて、忙しくなったので!」
これまで、いろんな場所、状況でもがきながらもコツコツと努力し、前進し続ける朝夏まなとさんを見てきました。宝塚の下級生の頃から、舞台に立つことに対して常に真摯で、作品や役に対する研究も熱心な彼女とは、世界中の様々な作品について語り合ってきました。舞台人としての資質が素晴らしいだけじゃなく、友人としてお伝えしたいのは、その人柄。朝夏まなとさんという人に、一度たりともガッカリしたことはありません。彼女が誰かのことを悪く言うのを聞いたこともありません。いつも前向きで明るくて、立ちはだかる高い壁を越え続けて、また次のチャレンジへと向かっていく。そんな彼女がずっと変わらず大好きだし、私にとって尊敬すべき年下の友人です。ひとりでも多くの方に朝夏まなとさんと出会っていただきたい! 劇場で、彼女から発せられる“太陽”の熱をぜひ肌で感じてください。
撮影/菅原有希子 スタイリスト/加藤万紀子 ヘアメイク/根津しずえ
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堀江純子 Junko Horie
ライター
東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。