“やっぱり天才”と唸らされた『ミッドナイトスワン』草彅剛さんの天然発言連発にギャップ萌え!
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折田千鶴子
2020.09.24 更新日:2021.04.15
またもヤラれてしまいました、草彅剛さんの演技に。“この人、本当に天才かも”と唸らされた『ミッドナイトスワン』は、観終えた後しばらく立ち上がれませんでした。胸に迫って来るものが大きすぎて。
鳥肌が立つ圧巻の演技&超絶自然体トーク
さて、キレッキレの演技で大爆笑させてくれた『台風家族』でのLEEweb登場に続いて、傑作『ミッドナイトスワン』の公開に合わせて、草彅さんが2度目の登場をしてくれました。
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草彅剛●1974年7月9日生まれ。 1991年CDデビュー。主な出演作に映画『黄泉がえり』(03)、『あなたへ』(12)、ドラマ「僕と彼女と彼女の生きる道」(04)、のちに映画化もされた「任侠ヘルパー」(09)など。2017年にオフィシャルファンサイト「新しい地図」を広げる。 その後の代表作に、『クソ野郎と美しき世界』(18)、『まく子』(19)、『台風家族』(19)など。舞台作品にも「道」(18)、「家族のはなし」「アルトゥロ・ウィの興隆」ほか出演。
お会いするたびに感心させられますが、草彅さんって本当に自然体。“こう見せよう”とか“こんな風に思われたい”とか、そういう邪念が全くない。本当に純粋に素直に正直に、思ったことや感じたことをポッと口に乗せてくれる印象、そして誰に対しても(きっと)、自ら垣根を越えてきてくれる感じなんです。
さて、そんな草彅さんが『ミッドナイトスワン』で演じるのは、トランスジェンダーとして心や身体に葛藤を抱えながらも、ひたむきに生きる凪沙。新宿のショーパブの舞台で「白鳥の湖」を踊り、舞台を降りると仲間の相談に乗る、面倒見のよい一面も。そんな凪沙のもとに、地元・広島の親戚から、母親のネグレクトを受けて育ってきた少女・一果が預けられることになるのですが──。
トランスジェンダーの役を演じる難しさ
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©2020 Midnight Swan Film Partners
──資料に「トランスジェンダーの役を演じる難しさもあった」とコメントがありましたが、凪沙を演じる上で、事前に準備されたりされましたか。
「実際にトランスジェンダーの方々にお会いして、それが役作りの参考になったところもありますが、何かを考えて出来るような役でもないので……。それより、現場で空気を感じて自然な形でできたな、という感じでした。なんと言っても、監督が優れていますから!」
──内田英治監督の存在が、本作のオファーを受ける理由でもあったのですか?
「そうそう。「全裸監督」も観ていたし、そんな監督とお仕事ができるのか、面白そうだな、と台本も読まないまま引き受けちゃって(笑)。僕は、お話が来た時点で巡り合わせというか、神様が(仕事や機会を)くれているんじゃないかな、という勝手な思い込みがあるんですよ。たまたま僕も草彅なので、ナギつながりで(笑)。そういうのも、何かいいですよね。それに、仕事をしないと生活できないぞ、みたいな(爆笑)。いつも難しいことは考えず、そんな感じでやってます」
台本から強烈に“内田ワールド”を感じた
──台本を読まずに引き受けたら、こんな胸が揺さぶられるような物語だったのですね! 親戚の子・一果との関係性の変化や、凪沙に生まれる母性に目が釘付けです。
「台本を読んだとき、内田監督の世界観を鮮烈に感じ、それが僕の中に響いてきました。一果の気持ちも、なんかすごく分かる気がして。母親から愛情を受けてはいたけれど、ネグレクトもあって上手く受け止められない一果と、トランスジェンダーとして生きて来た凪沙の心がどこかでシンクロする──。その理屈は分からないけれど、それがすごく人間らしいな、と感じて、涙が出てきちゃったんです。何に対しての感動なのか、あれ、俺はなんで泣いているのかな?と、逆にそれが知りたくなった。分からないけど泣けてくる、そのリアルな感情を映像でも伝えられたらいいな、と思いました。この作品、本当に出演できて良かったと今でも強く感じています」
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©2020 Midnight Swan Film Partners
──現場での監督の演出、現場全体の様子はどんな感じでしたか?
「テストを何度も重ねるようなこともなく、パッと本番で演じさせてくれる監督のスタイルが、すごく良かったです。もし何度もテストしたり、作り込んだりしたら、色々と考えて、こんな形では演じられなかったのかもしれない。監督は僕に対しては何も言わず、だから非常に楽な形で好きに演じさせてもらえました。多分、監督も撮影をしながら理解を深めていった、作っていったところもあるんじゃないかな。ディスカッションをしないまま、日に日にお互いが目指している“凪沙像”を掴めていった気がしたんです」
役を超え、彼女を守ってあげたくなった
──孤独を覚悟して生きているような“凛と哀愁が漂う”凪沙の横顔も印象的ですが、一転、一果を見る時の慈愛や優しさ、あの母なる眼差しが非常に印象に残ります。
「今回、一果を演じた服部樹咲ちゃんは、演技経験がまったくない新人さんゆえに、僕の目に映るのは、本当に一果だったんです。現場で監督が彼女にずっと話し続けているのを見ていて、大変そうだな、大丈夫かな、と本当に愛おしくなってしまいました。役を超えて、彼女を守ってあげたいという気持ちが溢れて来たのも大きかった」
「同時に、彼女のすごく純粋な姿、女優さんとして“生まれたて”でそこに居る彼女を見て、逆に僕が勉強になりました。いろんな役をやってきたけれど、経験の多さなんて全く関係ない、と思わせてくれたというか。凪沙を演じるにあたって、彼女が僕をまたゼロに戻してくれました」
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©2020 Midnight Swan Film Partners
──確かに、育児放棄を受けて来た子の人に対するぎこちなさ、凪沙と暮らすようになってバレエの才に気付いた後、才能が開花し、羽ばたいていくその変化など、彼女の伸びやかさが素晴らしかったです。
「凪沙のアパートに居るときは本当に田舎から出て来た女の子っぽいけれど、いったんバレエを踊ると、周りの空気を一変させてしまう存在感はスゴかった! 一果を演じるために生まれて来た、そう思わせてくれました。僕も含め、役との巡りあわせなど、本当にスペシャルな奇跡がみんなに起きた作品なんです。手前味噌になっちゃいますが、これは計算では生まれ得ない、奇跡が積み重なって生まれた作品だと思います」
アドリブ……じゃ、ない!?
──凪沙からほとばしる思いや、すべてをさらけ出す凄みなどの生っぽさは、計算ではない、アドリブか?と思わせる場面も多々ありましたが……。
「いや、それが僕は真面目に台本通りにやっているつもりだったのに、監督が“ナイス、アドリブ!”って言ってくるから、いや、そんなつもりは……って(笑)。あれ、俺、台詞が前後しちゃったのかな、とか、単に言い間違えちゃったのかな、とか(笑)。アドリブってどういうことよ!?って感じでしたが、そういうのも含めて、すべてがすごくいい感じに回っていた、ということなんでしょうね」
──水川あさみさん演じる、一果の母親と凪沙の対決シーンもすごい迫力でした。
「あさみちゃんと久しぶりにお芝居をしましたが、すごいパワーや圧力があって怖かった~(笑)!! 一果の実の母親である彼女の気持ちが、すごく痛々しくてドキっとさせてもらえましたが、それを受け止め、“実の子供じゃなくても、自分の方が一果を愛しているんだよ”という気持ちを保とうとしましたが、やっぱりそれも大変でした。あそこまであさみちゃんに睨まれちゃって、かなりの緊張感でした」
──さて、凪沙は一果のために命がけの決断をしますが、草彅さん自身はその決断をどう思われますか?
「いやぁ、僕は(あんな決断)しないですよ。人のために生きるとか、自分を犠牲にしてまでって、難しいなぁ。でも、自分に子供ができたら、あの決断になるのかもしれないな、と少しだけ思えます。やっぱり“お母ちゃん”ってことなのかな。“自分がどうなってもいいから、この子を助けたい”という母親の気持ちは、自分の母親を思い出したりしてみても、この年になってようやく分かるようになったので。この年になったから凪沙を演じられた、とも思いました」
プライベートで初の母性発露!?
──とはいえ、草彅さんのプライベートでは、愛犬クルミちゃんに子犬が3匹産まれて、草彅さんが子育てに奔走したんですよね?
「本当に、こんなに大変だと思いませんでした!! 人生初、本当に10日間、寝られませんでした。コロナでステイホーム中だったから、出来たことですが。僕は何をおいても睡眠が一番大事な人間なんですよ。それなのに、生まれて3日間はずっと40分おきにミルクをあげ、しかも体調が悪くなって自力で吸えなくなっちゃった子もいたので、僕が常に抱っこした状態のまま、スポイトで点滴のようにミルクをあげていたんですよ。この子を救わないと、って僕の中にある母性らしきものが目覚めて、人生で一番頑張りました!」
「今はみんなすくすく育ってくれて、むしろ余計なことを何も考えず、コロナの恐怖から僕を救ってくれたな、と思っています。ふたり(2匹)は里子に出しましたが、知っている方にお譲りしたので、今も時々会っています」
草彅さんのお話には、つい吹き出してしまったり、ほっこりさせられたり。でも作品を観ると、“いやいや、そんな何も考えていないなんて絶対に嘘でしょ!!”と疑いたくなってしまうのです。そのギャップたるや。恐るべし、草彅さん。
それにしても、「新しい地図」のお3方の作品の選定眼には驚嘆させられます!!
稲垣吾郎さん主演の『半世界』(18/阪本順治監督)、香取慎吾さん主演の『凪待ち』(18/白石和彌監督)の素晴らしさは、当コーナーでも何度か言及してきましたが、それに加えて今度は草彅さんの『ミッドナイトスワン』が。あ、香取さんの『凪待ち』とも「凪」つながりですね。なんか運命……。
ドンとお腹の深いところに残るような重量感たっぷりの作品で見せた鬼気迫る演技とは対照的な軽妙なトークは、草彅さん、本当にさすが。
『ミッドナイトスワン』を期待されている方もかなり多いと思いますが、これに限っては期待し過ぎても大丈夫! ぜひ、劇場の大スクリーンで堪能してください!
映画『ミッドナイトスワン』
- 2020年/日本/2時間4分/配給:キノフィルムズ
- 監督・脚本:内田英治(「全裸監督」「下衆の愛」)
- 出演:草彅剛 服部樹咲(新人) 田中俊介 吉村界人 真田怜臣 上野鈴華 佐藤江梨子 平山祐介 根岸季衣 水川あさみ 田口トモロヲ 真飛 聖
- 映画『ミッドナイトスワン』公式サイト
- 9月25日(金)全国ロードショー
撮影/平郡政宏
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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