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飯田りえ

映画『友達やめた。』。自分と異なる考えの人とどう向き合えばいい?向き合った先は?監督にインタビュー【ネット配信あり】

  • 飯田りえ

2020.09.17 更新日:2021.06.12

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©2020 Studio AYA

お互いの違いを認め合い、尊重し合えている?

日々、多様性という言葉を見聞きします。
お互いの考え方の違いを認め合い、尊重しあえる社会になってほしい。
誰もがそう願っているはずです。しかし、実際には自分はというと…どうでしょう。誰か考え方やスタンスが違った人と出会った時、頭では理解できていても、自分の中に奥深く染み付いた価値観や考え方が、なかなか手放せない時ってありませんか? それが、家族や友達など、自分と身近な相手や、好きな相手とだったらなおさら、苦しみますよね…。「どうして??」と。

そんな悩みに、真っ正面から向き合った映画『友達やめた。』が9月19日(土)より公開されます。生まれた時から耳の聞こえない今村彩子監督が、アスペルガー症候群のお友達・まぁちゃんとの友達関係に悩み、その問題解決のために映画を制作した作品です。

さらっと説明しましたが、「特別な話なのでは…?」と思われた方、私も最初はそう思いました。もちろん、お二人の障がいについても描かれていますが、第三者の視点を挟んでいないので、非常に私的でナチュラル。私にとっては、それぞれのありのままの状況を”知る”という意味でも、非常に良い作品でした。それ以前に、この作品は誰しもが持つ「異なる考え方を持つ人と人とが、どうやったら上手く共存できるのか」という、普遍的な悩みについて、キレイごとだけではなく、感情もろとも描いている作品なのです。

少し重たそうなテーマかな…?と思いきや、ここが今村監督の素晴らしいところ。とにかく身近な日常を通して描かれているので、クスッと笑いつつも、深く考えさせられ、終わったあとには「友達っていいなぁ」と愛おしく思える…。これは誰しもが抱える日常の風景で、同じ悩みを抱えている人も多いはず!是非、今村監督にお会いしてお話を聞いてみたい!ということでインタビューしてまいりました。

自分にない魅力を持っているし、一緒にいることで新しい自分にも気付かされる

今村彩子監督:1979年生まれ。大学在籍中に米国に留学し、映画制作を学ぶ。劇場公開作品に『珈琲とエンピツ』(2011)『架け橋 きこえなかった3.11』(2013)、自転車ロードムービー『Start Line(スタートライン)』(2016)がある。また、映像教材として、ろうLGBTを取材した『11歳の君へ ~いろんなカタチの好き~』(2018/DVD/文科省選定作品)や、『手話と字幕で分かるHIV/エイズ予防啓発動画』(2018/無料公開中)などをも手がける。初めての著書となる「スタートラインに続く日々」(2019/桜山社)には、本作の原作とも言える「アスペのまあちゃん」が収録されている。現在、『架け橋 きこえなかったあの日』を制作中。

__今回、まぁちゃんとの関係性が辛くなったことがきっかけで、映画を撮り始めたそうですが、以前から撮ってみたい存在でしたか?

今村彩子監督(以下、継承略):私にとってまぁちゃんはとにかく面白いので、前から撮りたいなって思っていました。年下の私の前でも平気で泣くし、私に面と向かって「あなたに嫉妬している」って言ってくるし…。自分の弱いところも全部さらけ出せるのが、すごいなぁと思う。あと自分が好きなものは、周りにどう思われようと「好き!」と言える所もいい。自分を偽るということがないから、見ていて清々しくって、気持ちがいいのです。

__まぁちゃんと出会って変わったところはありますか?

今村:私は人前では泣けないので、そういう意味では変わりませんが…、自分に対して自信が持てるようになりましたね。例えば、まぁちゃんと一緒の時はお店での注文も私がします(まぁちゃんはお店の人に声をかけるのが苦手)。今まではきこえる友人がしてくれていたのですが、自分でやってみたら「私もできるんだ!」って、自己肯定感に繋がりました。むしろ、初めての人と話すことを楽しんでいる自分もいるんです。

__新しい自分と出会えたのですね!

今村:これまで自分は少数派の立場で、映画を作り、メッセージを発信していたのですが、まぁちゃんに言わせると、私は”一般的な脳みそを持っている=多数派”らしく、初めて多数派の立場に立たされて、すごく戸惑いました。なので、最初はまあちゃんの言動に納得できなくても、「多数派の私が理解しないといけないのかな」「我慢しないといけないのかな」と思っていましたが、それは違うんですよね。特に、まぁちゃんと二人でいる時は自分と、違う考えを持った人という「1対1」の関係なので、それに気づいてからは、マイノリティとかマジョリティにこだわらなくなりました。

私の常識って何?あなたの常識は? 突き詰めると、二人の常識ができた

©2020 Studio AYA

__「友達だけど、ちょっと分かり合えないな…」と思った時、真正面から向き合うのって大変じゃないですか…。私なら、ある程度は言っても、どこか「この人はこういう人だから」と、諦めてしまうかも。

今村:最初は私も我慢していましたが、しんどくなってきて。まぁちゃんの言動で嫌な気持ちになっても私が我慢すればことが収まると思って流してきましたが、でもスルーできない部分もあるし、スルーしているつもりでも消化できてなかったりもする。それで結局は私が爆発しちゃって大きな喧嘩になるので、やっぱり我慢はよくない、と。

二人で長野に旅行に行った時、宿においてあるお菓子のことで喧嘩になりました。きっかけは本当に些細なことなのですが(苦笑)、どうしても許せなくて。これ以上、我慢を続けても、問題解決にはならないと思ったから、旅行の後で『二人の常識を考える会』を開いたのです。すると、まあちゃんの行動には私が考えもしていない理由があった。それを聞いた時に、私自身、すごく納得できました。「じゃあ、今度からはこうしよう」と二人で対策を考えることもできました。ですから、感情は一旦、置いておいて、まずは相手に聞いてみることが大事だと思います。

__感情を置いておいて、というのが重要ですね…!

今村:旅行から帰って最初の1〜2日は「泣きたいのは私なのに、なんでまぁちゃんが泣くの?」と腹が立っていました。でも、1週間ぐらい経ち、少し落ち着いた頃に「一般常識ってなんだろう」と考え始めたのです。例えば、挨拶だったら「楽しい時間を過ごしたい」という意思表示。心の距離を少し縮める、人間関係の潤滑油みたいな役割だと思います。「お互いに居心地のいい空間を作りたい」だから共通するマナーや挨拶がある、と考えました。それなら「まぁちゃんと私が気持ちよく過ごすためには、二人の常識を考えればいい」という考えに行き着いたのです。



相手の思いを知ること=自分の視野を広げること

__相手の思いを知ること=相手の常識を知ることで、どう変わりました?

今村:自分が想像もしていなかった考えを知ることで、自分の視野も広がるし、他の人に対しても柔軟に対応できるようになります。自分にとってはすごく意味のあることです。

__確かに。価値観があう人とだけ付き合っていると楽ですが、視野は広がりません。
『二人の常識を考える会』の後は、お二人の関係はどうなりました?

今村:その後も喧嘩してますよ(苦笑)。でも内容は変わってきていて、まぁちゃんが真顔で言う本音に、私が嫌な気持ちになる、っていうパターンが今は多いです。

__一度話し合っても、また問題は出てきますね(苦笑)。

今村:そうですね。この前、喧嘩の後にまぁちゃんからLINEで「心に余裕がないね」って言われました。その頃、仕事が忙しくて…。だから、私にも原因があるので、今後は、まずは冷静になって、感情を沈めてから「どうしてそういう風に思ったの?」って聞いてみるようにしたいです。

__相手の反応によって、自分の状態を気付かされること多いです。それにしても、まぁちゃんの言語化力は素晴らしいですね。監督との交換日記を読むと「そんな事を考えていたんだ!」と驚きました。

今村:何時間も話してくるので疲れちゃって交換日記を始めたのですが、まぁちゃんは短い文章で簡潔に素直に伝えるのが上手。良い文章を読ませてもらっている感じで、楽しいんです。これも、まぁちゃんの魅力の一つです。

__今、私は子どもと向き合う時間が多いので悩みも尽きないのですが、交換日記っていいなって思いました。子どもには子どもの目線があって、大事にしていることがあるので。

今村:いいと思います。お互い、素直な気持ちになって書けるので!

“自分のものさし”で相手をはかってしまうから、悩んでしまう

©2020 Studio AYA

__人間関係に悩んでいる人にアドバイスありますか?

今村:私は「この人のことが好き」と思う気持ちを大事にしています。だから、喧嘩をしても「どうしたらいいかな」と考えるし、相手がどう考えているのか聞きたくなるのですが、まあちゃんとある程度親しくなり、慣れてくると「(アスペだから)仕方がない」と終わらせていた部分がありました。でも、それだと自分の中にしこりが残ってしまい、いい気持ちがしなかった。それは「私は耳が聞こえないから仕方がない」と終わらせるのと同じこと。だから、違うと思ったのです。

諦めてしまうと問題解決にはならないし、何も進まない。でも、向き合って話し合いをすることで、新たな視野が広がります。関わり続けるってしんどいですが、だからこそ面白い。でも、自分の心に余裕がないと向き合えないので、まずは「心の余裕」を持つこと。その先に、人間関係があるのかなと。

__まず、自分の状態を安定させることですね。

今村:あとは、何でも”自分のものさし”に当てはめて考えていると、世界は広がりませんよね。むしろ、ものさしからはみ出しているという理由で、排除につながってしまいかねない。だからこそ、対話すること、「あ、そういう考え方があるんだ」と、”相手のものさし”を知ることが大事になります。違いを知ることで自分のものさしを広げることもできるし、自分を省みるきっかけにもなります。

__映画のキャッチコピーにもある「あなたの常識は、私の非常識。私の普通に、あなたはドン引き」がすごく伝わりやすいと思ったのですが、あなたのものさしと私のものさしは違う、ところからスタートするのが大事ですね!

コロナによって人間の良いところも悪いところも、浮き彫りに

__今のコロナの状況を、監督はどう感じていますか?

今村:自分が信じていた常識が、いとも簡単に崩されたので、いま自分が正しいと思っていることは絶対じゃないし長くは続かない、と思うようになりました。その一方で、人間の強さも感じています。大変な時期だからこそ人と繋がる方法を考え、握手ができなくなっても、肘でタッチとか、エアハグとかしてまで「あなたに会えた喜び」を相手に伝えたいと思えるなんて…、希望ですよね。

あとトヨタが他の企業と一緒に、フェイスシールドや医療用ガウンなどを作り始めた時も、お互いに違うバックグラウンドで、一緒にものづくりをする姿が素晴らしいと思いました。人間は自分と異なるバックグランドを持つ人を「排除する」こともあるけど、「一緒に乗り越えていく」こともできる。良いところも悪いところも両面あるからこそ、どうしたら少しでも良い方向に進んでいけるのか考えていきたいです。

__本当ですね。ステイホーム中はどうされていましたか?

今村:今まで以上に本を読みましたし、海外の映画やドキュメンタリーもよく見るようになりました。最初はわからないしつまらないなって思う作品でも、根気よく、見たり読んだりしていくと面白さに気づくんです。人間関係と同じですが、わかるものだけに触れていると世界はどんどん狭くなってしまう。わからない・難しい、それでも、知る・触れることって大事ですね。

__変化に柔軟になれる、楽しめるっていうのも、自分のものさし次第ですからね。今後の作品の構想はどの様な予定でしょうか?

今村:来年3月で東日本大震災から10年です。被災地の取材を続ける中で、その間、熊本地震や西日本豪雨災害が起こり、ろうの人たちがボランティアに参加するなど、新しい活動も出てきました。また、今回のコロナではマスクで口元が読めないなど、ろう者が困ることも多々ありました。一方で、全国の知事会見の時に手話通訳が必ずつくという、良い動きもあったので、そういう変化も含めて、この10年の軌跡をまとめた新しい映画を制作中です。

__監督の視点、すごく気づかされることが多いので、次回作も楽しみにしています!お忙し中、ありがとうございました。

どうしても、日々忙しくしていると、人間関係もできるだけ波風立てぬ様に…と、何かと踏み込まずにいる自分に気付かされました。(それは人間関係、広がりませんよね)人と向き合うことの大切さを改めて痛感させられたインタビューでした。変化の激しい時代だからこそ、多くの人たちの考え方に出会って、”自分のものさし”も広げられる様になりたいと思いました。なにせ、「友達っていいな」と思える作品なので、人間関係でお悩みの方はぜひ!

また、今作は9月19日(土)からの劇場公開と共に、10月31日までネット配信をされています。コロナで映画館へ行きづらい方や、暗闇や大音量が苦手な方、個別の事情で映画館に安心して足を運べない方など、どなたでもご家庭で安心して映画を鑑賞できますので、ぜひネット配信もご利用ください。

9/19(土)より劇場公開とネット配信を同時スタート
新宿K’s cinemaほか全国順次

『友達やめた。』HP 
ネット配信用HP

撮影/山崎友実

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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