女優歴、すでに23年。クールビューティと称されてきた水川あさみさんは、近年そこに自然体や少女っぽさを加えつつ、変わらぬイメージで息の長い人気を誇っている。
もともとコメディも得意としてきたが、『喜劇 愛妻物語』では、ダメ夫を罵倒する鬼嫁・チカを嬉々として演じている。
水川あさみさん
「夫婦の形は、百あれば百通り
夫婦のおもしろさを感じてほしい」
「夫役の濱田岳さんが、私が自然と腹が立つような素晴らしい演技をしてくださったので、自然と罵声を浴びせていました。浴びせれば浴びせるほど生き生きしていく感じで、それがまた腹が立つ要因にもなるのですが(笑)、濱田さん、本当にスゴイと思いました」
どんなに妻にやりこめられてもへこたれない、豪太を演じる濱田さんとの丁々発止がたまらない!
「アドリブかと思われますよね?でも実は、すべてそう思わせるようなセリフで構成されている素晴らしい脚本で、ほぼアドリブはなし。あれらの丁々発止も、台本と演出から生まれたものなんです」
セリフとはいえ、かなり激しい罵詈雑言の数々。意外と言い放つのは気持ちいいかと思いきや……。
「めったに言わない“死ね!”などの毒舌は気持ちよくもありましたが(笑)、同時に自分が傷つくこともあるんだな、と思いました。チカの根底には、豪太への期待や成功してほしい気持ちがあって、言いたくて言っているわけではないので。怒り続けるのは疲れましたが、役のため5㎏体重を増やし、撮影中も食べ続けだったので、エネルギーがうまく循環していました」
カラッと笑う姿がいかにも水川さんらしい。さて何を隠そう、チカと豪太のモデルは、足立紳監督ご夫妻。今や売れっ子脚本家、及び本来目指していた監督でもあるわけだが、本作は今の成功に至る珍道程かつ前日譚でもあるわけだ。
「監督が“だんだん奥さんに見えてきた”とか“今の言い方、すごく傷ついた。100点です”などとおっしゃる言葉に導かれつつ、そういうのがまた腹立つな、と(笑)。実際に監督のご自宅で撮影したので、奥様もいらっしゃって、目の前で本当に劇中のような夫婦げんかが始まるんです。スタッフも監督をよく知る方々ばかりで、すごく愛にあふれたおもしろい現場でした」
監督の奥様がモデルになったチカは、つまり夫/男性を成功に導く術に長けた女性ともいえる。
「チカの気持ちは恋人同士の時代から、結婚10年の今も何も変わっていない。だから、こんなふうに一緒にいられるのだと思いました。豪太の才能を信じ、周囲に認められないもどかしさを感じ、なのにヘラヘラ甘える夫に頭にきて罵っている関係性は、表面的には変わったように見えるかもしれない。でも本来、チカは愛情も懐もすごく深く、それはもうまねしたくてもまねできるものじゃない。理想の夫婦像かと聞かれたら微妙ですが(笑)、お互い心がこんなむき出し状態でいられるなんて、ある意味、最強だと思います」
そしてLEE読者に向け、こんなメッセージを寄せてくれた。
「夫婦の形は、百あれば百通り。それぞれの形でいい、と思えるものであってほしい。結婚して何年もたつと、“こういうところが好きだった”と忘れてしまうこともあるかもしれませんが、それだけ一緒にいられるのがスゴイこと。夫婦のおもしろさみたいなものを、本作を通してあらためて感じてほしいです」
PROFILE
みずかわ・あさみ●1983年大阪府生まれ。近年の主な出演作に『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』、Hulu『住住(2020)』、Paravi『Love⇄distance』(すべて’20年)ほか多数。公開待機作に『ミッドナイトスワン』(9月25日より)のほか、『滑走路』(今秋)などがある。
映画『喜劇 愛妻物語』
売れない脚本家の豪太(濱田岳)は、生活費も妻・チカ(水川あさみ)に頼りきり。セックスレスを打破すべく、妻の機嫌をとり続けるも、拒絶されてばかり。そんな折、"すごい速さでうどんを打つ女子高生"の物語を脚本化する話が舞い込む。幼い娘を連れ家族3人、香川に取材旅行に向かうのだが――。9月11日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
撮影/宅間國博 ヘア&メイク/岡野瑞恵 スタイリスト/岡部美穂 取材・文/折田千鶴子
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