LEE世代の幼少期とは大きく変わった感のある、昨今の養育&教育事情。
教育に悩みが多い今、子どもの「夢中」と親はどう向き合う?今からすべきことはある?
前回に引き続き、生物学者 福岡伸一先生が、不安を抱えるママたちから寄せられた悩みや疑問に回答します!
この記事は2020年7月7日発売LEE8月号の再掲載です。
ママの悩みにお答え!教えて福岡先生!
05|熱中しているものが将来仕事につながるのか不安です
「サメや恐竜が大好きで、将来それを仕事にしたいと言っていますが、全面的にサポートする勇気はありません……」(長男8歳)
「サメや恐竜が好きなんて最高です!それをどんどん追究していきましょう。図鑑や本をたくさん読んで、博物館や恐竜館などに出かけてみましょう。とにかく今好きなものを入口に、どんどん奥へと進むことです。
それで学者や研究者にならなかったとしても、まったく問題はありません。実は学者や研究者は、あまりお金持ちにはなれません。むしろ研究やら本の購入やらで、お金を使ってしまうほうですから(笑)。
私は、子どものときに熱中したことが、将来の職業につながる必要なんて全然ないと思っています。
ただ、そうしたものがひとつあれば、それを深掘りし、どんなことにも歴史、文化、発展、関連があることがわかり、世界を知ることにつながります。それに、今調べたり、見たり、考えたりした"研究体験"は、きっと将来の勉強や仕事につながるはずです」(生物学者 福岡伸一先生)
ママの悩みにお答え!教えて福岡先生!
06|夢や憧れの職業がない息子。このままで大丈夫?
「長男には夢や憧れの職業がなく、『将来は、普通の会社員になれればいい』と。学校の宿題や塾の課題は、言えばちゃんとやるのですが、自主性がイマイチないのも心配です」(長男10歳、長女5歳、次女1歳)
「言われてもやらない子も多いのですから、言われたらやるだけでもよしとしましょう。それに、本人や親が気づかないだけで、内に秘めたものがあるのでは?
誰にでも"独自性"があり、それがその人を支えるものになります。宿題のやり方や課題の取り組み方に、きっと"その子らしさ"があると思いますよ。だから今は焦らず、見守ってやりましょう。
それに、普通の会社員になることも決して悪い将来ではありません。大半の人は普通の会社員になるのです。でも本当は、普通に見えても、どこかに独自性があります。
まずはお子さんに、『どんなことをしている会社に行きたいの?』と聞いてみてください。何か返ってくるかもしれませんよ。
もし具体的な答えがなかったら、会社にもいろいろあり、会社員にもいろんな仕事があるのだと、教えてあげましょう。親が、子どもの視野を広げる手伝いをするのはよいと思います」(生物学者 福岡伸一先生)
ママの悩みにお答え!教えて福岡先生!
07|幼児早期教育についてどう思われますか?
「小さいうちは自由に遊ぶのが一番だと思っているので、娘には習い事はさせていません。でも、幼稚園のお友達が、勉強系を含めて習い事を3つも4つもしているのを見ると、娘だけが取り残されてしまうような気がして不安に」(長女4歳)
「早期学習の必要性はそれほどないと思います。年齢相応に、読み・書き・計算ができていれば十分です。
ただし、音楽やスポーツ、芸事は、本人が好きなら、早くに取り組むのも悪くないでしょう。それも、ひとつに絞り、一生懸命やるのがいい。
天才と呼ばれる人たちを調べると、ピアノでも将棋でも、それに費やした時間が最低でも1万時間といわれています。1日3時間、年間300日取り組んだとして10年、5歳から始めた人が15歳まで続けて、ある種のプロフェッショナルになるわけです。
つまり、環境が運命を決めるということ。よく“遺伝子レベルの天才”などといいますが、そんな遺伝子なんてありません。“どれだけそれに時間をかけたか”なのです」(生物学者 福岡伸一先生)
ママの悩みにお答え!教えて福岡先生!
08|AIやロボットの登場で子どもに必要な教育も変わってくる?
「求められる知識も変わると思うけれど、そのための具体的な教育がまだ見えてこないことに不安を感じます」(長男9歳、長女7歳)
「そんなに心配することはありません。今後はインターネットやPCを通じた学習がますます盛んになるだろうとは思いますが、子どもたちは、どんな環境にもおのずとなじみ、適応していくはずです。
それに、いつの時代も、大事なのは、読み・書き・計算という基礎学力をつけること。よく読み、書き、また基本的な数理的能力を地道に高めていくのが、教育の基本なのです。
これは私たち親の世代が受けた教育と何ら変わりません。ご自分の経験を振り返ってみれば、きっとわかるはずですよ」(生物学者 福岡伸一先生)
ママの悩みにお答え!教えて福岡先生!
09|コロナ禍後の学力や教育格差が気になります
「息子が通っている公立校は、オンライン環境が整っていません。学校のコロナの対応も遅く、ますます他エリアの学校と格差が広がると懸念しています」(長男12歳)
「新型コロナにかかわらず、文科省はもっと早くからリモート授業の整備を進めておくべきでした。今後は、タブレット端末を各家庭に配布するなどして、地域や所得による格差なく、授業やリソースに随時アクセスできる環境が必要になるでしょう。
ただ、今回の休校については、ちょっと夏休みが長くなったくらいに考え、あまり気にされないほうがいいと思います。まとまった時間がとれるときだからこそ、挑戦できることもたくさんありますからね」(生物学者 福岡伸一先生)
福岡伸一先生 PROFILE
ふくおか・しんいち●1959年、東京都生まれ。京都大学卒業後、米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授などを経て、現在青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員研究者。分子生物学を専攻し、専門書からエッセイまで著書も多数。
イラストレーション/根津あやぼ 取材・原文/村上早苗
この記事は2020年7月7日発売LEE8月号『生物学者福岡伸一先生に聞く 夏の子ども、「夢中のタネ」の育て方』の再掲載です。
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