ジェンダー問題に詳しい治部れんげさんと、男性学を専門とする田中俊之さん。
専門家の視点、親としての視点から、ジェンダーについて語っていただきました!
この記事は2020年1月7日発売LEE2月号の再掲載です。
ジャーナリスト 治部れんげさん×男性学 田中俊之さん
これからの子育てにも関わってくる?“ジェンダー”対談
田中俊之さん 大正大学心理社会学部准教授。男性学の立場から、日本で"男性"と"働くこと"の結びつきがあまりに強いことに警鐘を鳴らす。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など著書多数。2児の父。 |
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治部れんげさん フリージャーナリスト。ジェンダーに詳しく、東京都男女平等参画審議会委員(第5期)などを務める。『ジェンダーはビジネスの新教養である 炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)など著書多数。2児の母。 |
無意識に性差別しているかも?
〝ジェンダー"とはそもそもどういうこと?
治部 ジェンダーは社会的、文化的な性差、セックスは生物学的な性差のこと。男だからこうすべき、女だからこうすべき、というのがジェンダーですね。
田中 わかりやすい一例は、男の子はズボン、女の子はズボンでもスカートでもOKというルール。これは生まれながらに、生物学的にプログラミングされたものだとは思えませんよね。“社会的に共有されたルール”だと思います。
大事なのは、そのルールを犯したときにどうなるか。
男の子がスカートをはくと、本人が恥ずかしいと感じる。もしくは、本人はよくても、親が反対したり、友達にからかわれるかもしれない。規範から外れたときに、社会から許容されないというのが、ジェンダーのひとつの目安になります。
治部 本当は、男の子がスカートをはいてもいいし、好きに生きていても警察につかまるわけではないのに、社会的にバッシングを受けやすいということですね。すごくわかりやすい。
田中 ほかにもありますよね。日本社会では、男は乱暴・ふまじめ・大雑把でもいいとされ、女の子はやさしい・まじめ・細かいことに気付けるという特徴が刷り込まれている。
例えば、男子学生は、字が汚いことが多いんですよ。一方、女子学生は字がきれい、課題もきちんとやるとされている。女子で字が汚いと“ルール”に反するので、僕でさえ、ぎょっとしてしまいます。
親が自分を縛っていることも
まずは自分にジェンダーを押し付けない
田中 今の日本では男は男らしく、女は女らしくが一般的なので、いわゆる「普通」に育てば、必ずジェンダーの刷り込みはあります。僕がよく相談を受けるのは「男の子なのに弱い、体が細い」という悩み。その裏には、このままで社会的地位の達成は叶うのだろうかという思いがあるんです。
治部 なるほど。男は競争して勝たないといけないのに、頑張りがきくのか、ということですね。
田中 これは、親自身が弱々しい男の子を見たときにいやだと感じるからだと思います。自分に対して「男とはこう」を過剰に押し付けている。ジェンダーの問題は、まず自分に対して男だから、女だからを押し付けない。それプラス、他人にも押し付けないことが大切だと思うんです。
治部 自己解放できるかどうか、ということですね。
田中 わが家は今妻が育休中で、長男の保育園の預かり時間は9時〜16時まで。送り迎えはほぼ僕が担当しています。この前同じクラスの男の子から「何の仕事してるの?」と聞かれたんです。この年齢の子どもでも平日の昼間に大人の男が地域にいるのは変だと感じるわけですね。大学卒業以上定年退職未満のまともな男性は、昼間は働いているものだと。これを男性学では“平日昼間問題”と言うんです。
治部 そんなネーミングがあるんですね。それで言うと、私はずっと男性の多い職場で働いていたし、中身はおじさんだと思うんです。でも自営業で平日の昼間に近所をウロウロしていても、見た目がおばさんだからあやしまれない。これは自分がちょっとずるいなとも思います。
田中 女性はそうですよね。この前なんて、グズる息子を無理やり自転車に乗せようとしたら息子が「助けてー!」と。急に誘拐じみてしまう(笑)。男性はこうあるべきという根強い共有ルールがあって、多くの人はそれに縛られて生きています。
治部 うちの夫は、PTA活動のときの身なりに気をつけています。あやしく見られないようにと。
田中 男性社会の職場で女性が感じている違和感を、地域では男性が感じているんです。それをお互いが理解しないとジェンダー問題は解決しないと思いますね。
撮影/齊藤晴香 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
この記事は2020年1月7日発売LEE2月号『言ってませんか?「男の子だから」「女の子だから」』の再掲載です。
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