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川上未映子さんと考える、新しい時代の“人としての美しさ”とは

川上未映子さんスペシャルインタビュー「悩みや不安を抱くとき。それは、きれいのベクトルを変えるべきとき」

2020.04.10

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悩みや不安を抱くとき。
それは、きれいのベクトルを変えるべきとき

真の自由という「快感」を教えてくれる人

きっと近い将来、「『この人』がいなかったら、私たちはこんなに自由になれただろうか?」と振り返るときが来るに違いない。川上未映子という人に触れるたび、強くそう思うのです。無意識のうちに常識やルールになっていたことに対して、言葉を通じて「それって、本当?」とまっすぐに問いかけてくれる人。揺らいだり固まったりしていた価値観を「チューニング」して、「スタビライズ」してくれる人。例えば、おばさんと非おばさん問題。「個人的には、おばさんと言われるのはさほど嫌じゃない」としながらも……?

「抵抗感があるのはわかります。私も、初めておばさんと呼ばれたときは、正直ショックでした。すっぴんにダウンジャケットで子どもと公園にいたとき、隣でおばあさまとお孫さんがシャボン玉遊びをしていたんです。『上手ね』と声をかけたら、おばあさまが私にありがとうございますと言った後、その子に『おばさんにお礼を言いなさい』と。とはいえ、『お姉さん』と呼ばれるのも、変。しっくりくる呼ばれかたって、考えると難しいですよね。ちなみに、私は息子に『ご婦人にお礼を言って』とか『レディにこれを渡して』とか、女性に対してそう呼ぶように伝えています。ジェンダーやエイジングを揶揄する言葉はあまり使わせたくないと思うから。はい、ちゃんと呼んでますよ。『ご婦人がね』『レディがね』って。大切なのは、ネガティブな意味で、私なんてもうおばさんだからと、自分で言ったり思ったりしないこと。あとは、おばさんと呼ばれるのが嫌なら、自分の中でその概念を変えることも大切なんじゃないかな?」

おばさんと呼ばれたくない。でもおばさんの定義って、呼ばれたくない理由って、何だっけ? きれいじゃないから? それとも、セクシーじゃないから? 「嫌」という感情の奥や裏にある「何か」について、思考してこなかった自分に気づかされます。そう、一事が万事。川上さんの意識や興味は、24時間、360度に向けられていて、その結果、紡がれる言葉が、私たちの心にぽんと石を投げ、波紋を起こし、心に「ひだ」を創る……。そんな気がしてならないのです。

「アンチエイジングは、いわば、負けが決まっている『撤退戦』。私たちは、誰もが年を取るわけです。もちろん、見た目に変化を感じたときに、無理のない範囲で、アンチエイジングを続ければいいと思う。ただ、私自身もそうなんですが、それが義務みたいになると、次第に疲れてしまいますよ。遅かれ早かれ、『後付』が効かなくなって、地金で勝負するしかないと気づかされるときがやってくるんです。すると、運動をして汗をかこうとか、本を読んで新しいことを知ろうとか、『内面』に目が向き始める。自分を見ている自分を大切にし始める、というのかな? 変化の基準を自らの内側にたくさん作れれば、年齢を重ねるのが楽しくなると思う」

年齢を重ねることに対して。若さが失われることに対して。そして、ネガティブな感情を生んでいるありとあらゆることに対して。自分を苦しめているのが何なのか。自分を怖がらせているものは何なのか。とことん考えてほしい、と川上さんは言います。

「人が決めた価値観に乗るのは、34歳まで。何ができて何ができないのか、自分自身がわかってくる今。自由になるのは今なんです」

川上さんに出会えた私たちは、次に、自分を、今を、時代を変える使命を与えられた人に違いありません。軽やかに、でも力強く。川上さんに背中を押され、一歩を踏み出したいと思うのです。

作家/川上未映子

1976年、大阪府生まれ。2007年、小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』でデビュー。以降 ’08年『乳と卵』で芥川賞のほか、数々の受賞作品を世に生み出す。 ’19年の最新刊『夏物語』は第73回毎日出版文化賞を受賞。

Interviewer/松本千登世さん

美容や人物インタビューを中心に活動。「取材で川上さんにお目にかかったとき、自分の中に化学変化が起きたのを感じました」

Q おばさんって何だろう?

A アンチエイジングもしてハイブランドも着て、きれいにしているのに、おばさんっているでしょう? 私は、「自分しかいない」状態になる人が、おばさんだと思う。思いやりのない鈍感さ、みたいな。世界で何が起こっているのか、目の前で何が問題になっているのか、ちゃんと感じ、思い、考えて、自分の言葉を紡いでいれば、そうならない気がします。

Q美容整形、気になります

A 10代、20代の女性に生物学的な魅力のピークがあるのは、否定しようのないこと。でも、私たち誰もがもう十分に経験したし、いつまでもそこにすがる必要はないと思う。失われたものと過度に思わないほうがいいんじゃないかって。きれいの基準を、こう見られたいと「外」に求めるのでなく、こうありたいと「内」に向けるほうが、豊かな気がします。

モラハラ? でも言えません

A マインドコントロールを解けるのは自分しかいません。人間は本来自由だと思い出してほしいんです。人生の主体性は自分にあり、下に見られたり、偉そうに扱われたりする存在じゃない。誰もが尊厳に値すると、意識すること、されること。何度も練習をして初めて「薔薇」と書けるようになるのと同じで、その意識を持ち続けることが大切なんです。

私はもう恋愛できないの?

A 今は、「母」「親」としての自分を最優先している時期かもしれない。でも、それがいつまでも続くわけじゃないですよ。子どもが育ち、雌伏のときを終えたら、夫との穏やかな関係を温め直すもよし、卒婚も狂い咲きもあり(笑)。そのために必要なのは、常に「アップ」をしておくこと。自由であることに敏感でい続けてほしいと思います。


撮影/柴田フミコ(モデル) ヘア&メイク/吉岡未江子 スタイリスト/酒井美方子(モデル) 今田 愛(プロップス) フラワーアレンジメント/田口一征(ŒUVRE) 取材・文/松本千登世 構成/中島 彩

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