自立を選んだ障害者たちが、自分らしさを取り戻すドキュメンタリー映画『インディペンデントリビング』が最高に面白くてかっこいい訳【前編】
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飯田りえ
2020.03.16
夜の大阪の街を颯爽と駆け抜けるのはフェラーリのステッカーが貼られた一台の電動車椅子。地下鉄を乗り継ぎ、新人の介助者と共に帰ってきた自宅のキッチンで、まずはタバコを一服。火をつけてもらい、灰が落ちるか落ちないか…ギリギリのところで「ええよ」と一言告げ、介助者に灰を落としてもらう。その後も「冷蔵庫にあるナポリタン、チンして」「お風呂の換気扇はいらん、寒いわ」など、介助者に対して低い落ち着いたトーンで、自分の思いを的確に伝えている。一方で、介助者に顔を洗ってもらう時は「上手なったなぁ」と満足気に一言、それに対して介助者も「自分の顔でめっちゃ練習したんで」と褒められて嬉しそう。好きなものを食べ、気持ちよくお風呂に入り、シーツを替えたばかりのベッドに入って…、そこからまた、夜の静かな語らいが始まる__。
障害者と介助者の関係性って…?
「え、障害者とヘルパーさんとの日常ってこんな感じなんだ…!」とイメージを打ち破られた、衝撃的なイントロでした。私の勝手な思い込みは、どうしても所属する施設や介助する人が主導で、介助される側は受け身で…という関係性なのかとばかり。もちろん、みなさんがこうではないと思いますが、自分の障害者に対するイメージが、いかに浅く、決め付けた見方をしていたかを知ることになりました。
このシーンで登場されている渕上賢治(フチケン)さんは、17歳の時のバイク事故で脊髄損傷を負い、15年ほど寝たきり生活を送っていました。その間、ずっとお母さんが介護し、お母さん自身がその後、病に倒れ亡くなってしまいます。それから出会ったのが、障害者の自立生活を支援する『自立生活夢宙センター』。車椅子に乗ることもままならなかったフチケンさんが、そこから2年かけて地域での自立生活を果たし、自ら自立生活センター『ムーブメント』を立ち上げたのです。
舞台となっている『自立生活センター』とは
そもそも、このドキュメンタリー映画の舞台となった、自立生活センター(Independent Living Center)をご存知ですか?
自立生活センターとは/重度の障害があっても地域で自立して生活ができるように、必要なサービスを提供する事業体であり、同時に障害者の権利を求める運動体である。センターは障害者当事者により運営され、身体障害に限らず、知的、精神の障害者のサポートもしている。1972年、アメリカ・カルフォルニア州に世界初の自立生活センターが誕生。1986年に日本でも初めての自立生活センターが生まれた。2019全国に121の自立生活センターがある。(パンフレットより引用)
今回、大阪にある3箇所の自立支援センターが舞台となり、キャラ立ちした、愛すべき方たちがたくさん登場してきます。先天性の障害だけでなく、病気や事故によって様々な障害を抱えながら、自立に向かってチャレンジし、それをみんながサポートして見守っています。失敗を重ねながら、自分らしく生きていく当事者たち。見ているうちに「自分こそ、いろんな枠組みや固定観念にとらわれて生きているのではないか」と、一種の焦りのようなものすら感じたのです。
映画「インディペンデントリビング」を世に送り出したのが監督の田中悠輝さんと、プロデューサーの鎌仲ひとみさん。田中監督は29歳にして今回が初の映画監督作品!ご自身も介助者として現役で働きながら、3年半かけて今回の映画を撮られました。鎌仲さんはご存知『六ヶ所村ラプソディー』はじめ、『小さき声のカノン』など声が届きにくい人たちを撮り続けていらっしゃるドキュメンタリー監督ですが、今回が初プロデュース作。誰しもが自分らしく生きていく意味、そしてその価値を考えさせられたこの作品ですが、どのようにして誕生したのでしょうか?お二人にお話を伺いました。
“意識高い系”学生から、2年間のホームレス支援へ
__監督自身もこれまで生活困窮者の支援やヘルパーをやりながら、映画を撮られていたそうですが、学生時代からこういった社会活動を?
田中悠輝監督(以下、敬称略):学生時代は、いわゆる意識高い系の学生でした(苦笑)。国際学部のアフリカ研究で南北問題を考えたり、ゼミでセネガルに行ったり…。でも、意識高い系ってご想像通り、言葉遊びが得意なだけで、実際には何も行動していないんです。大学3年の時に3.11があり、福島には行けなかったので2学年下の奥田愛基くんはじめのちのSEALDsになる仲間たちと一緒に東京で活動していました。奥田くんのお父さんである奥田知志さん(牧師をされていて、北九州でホームレスの支援活動『NPO抱樸』理事)とお会いした時に「この人についてきたい!」と思い、大学卒業した2013年4月にトランク1個を持って北九州へ行きました。
__奥田知志さんとの出会いが第一歩だったのですね!
田中:それまでも、何か自分で「面白そうなものに出会ったらその道に行こう」と決めていて。奥田さんにお会いした時に、原発の話や様々な社会問題の話をさせてもらいました。その中で奥田さんが「僕たちが支援しているのは路上にいるおじさん達だが、その人たちを一体誰が助けるのか。それは、今出会った君がやらないといけない」と。
鎌仲ひとみさん(以下、敬称略):奥田さんさすがだね〜、うまいなぁ〜!(笑)
__意識高い系から、北九州での支援活動はいかがでした?
田中:いかにこれまでが”言葉遊び”だったかと言うことを、まざまざと見せつけられましたね。2年間支援活動していました。障害者の自立生活支のことも、ある時、上野千鶴子さんと中西正司さんの『当事者主権』の本を奥田さんから渡され、知りました。
偶然の出会いと再会が重なり…介助者と映画監督をWワーク
__鎌仲さんとの出会いは?元々のつながりがあったのですか?
鎌仲:最初の出会いは学生の頃。と言うのも、悠輝くんのお父さんは田中優さんと言う環境活動家で、ダムの反対から原発反対、そこから環境問題の本もたくさん出し、市民バンクの理事もされています。そういうつながりで旧くから知っていて、『小さき声のカノン』を自主上映してくださっている会場でたまたま再会し「うちに来ない?」と思わず誘っちゃいました。
田中:その頃、2年の北九州修行を終えて東京に帰ってフラフラしていたら、『STEPえどがわ』と言う江戸川区にある自立支援センターのボス・今村登さんの介助をすることになったのです。「介助者になれば海外もついて行けるぞ」って。手始めに鎌仲さんの上映会をするから、とお手伝いしていたらそこで再会して…両方とも2016年の同時期に出会った感じです。生活困窮者の支援も関わり続けたいので自立生活サポートセンター『もやい』でも働き始めたので、3足のわらじをはいていました。
__それにしても介助と映画、この二つの出会いがすごくタイムリーですね!
鎌仲: Wワークするって言うし、海外にも介助者として行くって言うので、悠輝専用カメラを持たせたのです。
田中:海外の会議に介助者としてついて行くと、今回の映画に登場してくる『夢宙センター』の平下耕三さん(以下、社長)がいつも一緒にいて。撮っていた映像を鎌仲さんとプレビューしていたら「この社長を撮影できたらワクワクするよね」となり、僕もこの社長のセンター行きたいと思っていたので、大阪で撮ることになりました。
__それにしても映画を撮ったことがない中でどうやって?
鎌仲:辻井潔さんという、名だたるドキュメンタリーを作っている敏腕編集マンについてもらい、彼の全スキル且つ、指導してくれたのでめきめきと監督に成長しました。何をどう映像化するかは、もう現場でやるしかないから。
田中:辻井さんが自分でやったら色々早くできるはずなのに、「監督はどうしたい?」「こうしたいのであればこういう絵が必要だ」と、技術的な面を全て教えてくださいました。
鎌仲:彼を監督として立てつつ、話し合いながら現場でやってくれたので、そういう意味では新人ぽくない、クオリティの高い作品に仕上がっています(笑)。
当事者主体である事が、とにかく革新的…でもまだまだ異端
__施設や家族が介助するってイメージしかなかったので、衝撃でした。
田中:福祉のメインストリームから言っても、自立生活運動ってまだまだ異端です。医者や専門家が決める世界だから、当事者が中心となって望む生活、しかも当事者たちが運営することが革新的です。全国に121箇所ありますが都市部に多く、空白県もあり元気のない地域もありますし、まだまだと発展途上かなと。
__みなさんそれぞれ抱えている障害が全く違うじゃないですか。それを全てカスタマイズして希望に応えて…すごいですね。
鎌仲:それは当事者主体だから。本人がどうしたいかが最優先です。そういう「考え方の転換」ですよね。自由に生きなさい、あなたが自由を獲得しなさい。
__日本の福祉対応ってまずハコが先にありきで、行政主導というイメージしかなかったので。
田中:どこまででも目的語でしかない。主語として「この人がどうする?」という想像力が、あまりないのだと思います。
自立生活支援を通して思う、自分は思うように生きているか?
__障害者も健常者も関係なく、自分のやりたいことをできている人は、自信があり輝いていて…素敵ですね。
鎌仲:これ見たら、健常者もやりたいことやれているか?って思いません?
__まさに、思いました…。
田中:いや、それが今、本当に問題だと思います。セルフネグレクトという言葉があるぐらいですから。労働倫理なんて「こう決まったからこうです。そうしないと明日から仕事ないかもよ」みたいな話じゃないですか。そりゃ、自分を殺して生きていく方向に、自然となりますよ。権利性というと硬いけれど、自分らしい生活をいかに工夫して獲得していくか、と言うことが大事だと思います。
鎌仲:日本人全員が、自分たちの尊厳や人権を投げ出しているって問題があるんだけど。この映画は直接、その問題を扱っているわけではないけれど、見てくれた人はそこも感じてもらえるかと。
__自立支援の説明を当事者にしているシーンで「ヘルパーは仕事です。ボランティアではありません。お金をもらっているので遠慮なく、あなたが指示を出してください」。できないから我慢するのではなく、自分のやりたいことを的確に伝えることが大事なのだと。
鎌仲:私もこの映画のおかげで、やりたいこと我慢していた事に気がついたの。
__鎌仲さんもそう思われますか?
鎌仲:もちろん映画では、自己表現していますが、一方では、社会からの自己抑圧も見えてきて、このテーマは生涯を通して続けて行くと思います。私自身も、もうちょっと自由に生きようって思えたのが良かったですね。(後編に続く)
こんな世界があったなんて。もちろん、映画はほんの一端にしか過ぎず、当事者にしかわからない、苦悩や苦労があると思います。でもそれだけじゃない。自立生活には楽しいことも難しいことも含めての「自分らしい生活」がある。だからこそ自立であって、そこで失敗しても希望でしかない。この前向きな考え方に、自分を省みるきっかけになりました。そして何よりも愛すべき登場人物達それぞれの人間ドラマがあって…本当に面白い作品でした。
後半は自立生活の価値とは何か、今の社会に必要なインクルーシブする力とは…じっくり聞いてまいりました。お楽しみに。
撮影/富田恵
「インディペンデントリビング」
東京・ユーロスペースにて4/3(金)まで公開中、ほか全国順次公開予定。
急遽、コロナウィルスの予防策として期間限定オンライン上映あり(4/3(金)まで!
詳しくは公式ホームページ
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。