“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.3:柄本 時生さん
映画、演劇、テレビドラマ……代表作をいい意味で選びにくいほど、溢れんばかりの出演作の軌跡を残している柄本時生さん。現在放送中の『アリバイ崩し承ります』ではオネエの検視官役で、気になり過ぎるエッセンスを利かせて、2月8日に初日を迎える舞台『泣くロミオと怒(いか)るジュリエット』で演じるのは、何とジュリエット! 設定はオリジナルとはいえ、最初に、次のお仕事はジュリエットだよ、って聞かされたとき、柄本さんの心中は!? 役もご本人も気になり過ぎなので、お呼びしちゃいました。
8割ツラい、2割楽しい。それが仕事
――『泣くロミオと怒るジュリエット』の公演リリースを拝見したときから、いろんな方向に想像が止まりません。まずは、柄本さんに“ジュリエット役だよ”と告げるマネージャーさんはワクワクされたんでしょうか!?
柄本「いや(笑)、いつもと同じように、“次の仕事は、舞台で『ロミオとジュリエット』がきてまして……ジュリエット役です。お引き受けしますか?”って言われました(笑)。さすがに僕もジュリエットと聞いて……二度聞きみたいなことはしましたね(笑)。一回考える、って答えました(笑)。仕事いただいて初めて、それ言ったかもしれないなぁ。で、役についていろいろ考えることが嫌いじゃないから、やってみてもいいのかな、って」
――原作はキャピレット家とモンタギュー家、お家争いで引き裂かれるロミオとジュリエット。『泣くロミオと怒るジュリエット』は、戦後の港町を舞台に、二つの愚連隊を描くとか。愚連隊ってところが、ロミジュリが元になったと言われている『ウエストサイドストーリー』要素もありますね。柄本さんのジュリエットは……!?
柄本「どうでしょう(笑)。台本を読んで、作・演出の鄭 義信さんが、僕に寄せてくださってるなと感じました。器量のよくないジュリエットです(笑)。小学生の頃に観た、ウチのオヤジがやってた東京乾電池のシェイクスピアが僕の基準だったので(笑)。それに、シェイクスピアは『ロミオとジュリエット』を喜劇のつもりで書いたんですって」
――そういえば、ロミオもジュリエットもあわてん坊(笑)。
柄本「よくよく考えるとそうなんです。仮死薬を飲んで死んで。恋人は勘違いして後追いして。目覚めたら恋人が死んでるから私も死ぬ」
――確かに(笑)。コントにしようと思えばできそうな(笑)。
柄本「そんな勘違いですよね(笑)。そういうところは昔から、面白い戯曲だなぁとは思っていました」
ロミオの相手役としてのジュリエット
――ロミオ役には、ジャニーズWESTの桐山照史さん。
柄本「今回、初共演なんですけど…いい方ですね。とってもいい方」
――ジュリエット役へのアプローチはどうお考えに?
柄本「そこは、鄭 義信さんが僕がジュリエットであることを考えて書いてくださってると思ったので、僕が考えてなくていいな、って。ジュリエットに見えるためにはどうしたらいいんだろう?っていう悩みは、台本ですでに鄭 義信さんが解消してくださってました。だったら僕がやるべきことは、台詞を一生懸命言うしかないな、と。器量がよくない、ってことだけじゃなく、口調、行動もノリやすく書かれた台本でした。ジュリエットというよりは、ロミオの相手役、なのかな」
――ポスターの柄本さんは女装ではなかったので、どうロミオとジュリエットが成立するのか楽しみです。
僕にとって演じることは“お仕事”
――役を得る、受け入れるときは、どんな態勢で受け入れるんですか?
柄本「すべて、“お仕事”です。お仕事を断る社会人はいないっ」
――望まれたことはやり遂げよう精神!?
柄本「いや、ただ単に僕が、社会人だから、って考えです。仕事をやらせていただいてる、っていうのが本音です」
――俳優になろうと思ったときから、仕事として取り組もうというお気持ちがあったということですか?
柄本「そうですね。ウチは家族が役者ですけど、仕事だ、仕事だ、って言ってましたね。ウチのお父さんは俳優だ、って意識はなく、普通に仕事に行く姿を見送っていただけで。お芝居というものは身近にはありましたけど、そこに何か特別な意味を感じながら育ってきた…ってわけではないんですよ。ヘンなこと言うようですけど(笑)、もし、何日か後に世界が滅亡するとして。何を必要とするかと考えたら、演劇はすぐ無くなっちゃいますよね(笑)」
――食糧が先になりますね(笑)。
柄本「ですよね! 農家の人は必要とされても、“誰か、ジョニー・デップ探してこいっ”とはならないでしょ(笑)」
――最後の瞬間、ジョニーにも会いたいですけどね(笑)。
柄本「最後の最後はね(笑)。でも、演劇とは生活がまず基盤にあってこそ、ってものだと僕は思っているので。僕にとっては、お仕事です」
役者の矛盾と戦っていく
――でも、面白い“お仕事”ですよね。今回は特に、ジュリエット役が巡ってくるという非常にユニークな。
柄本「仕事をやるにあたって思っていることがひとつあって。仕事とは、8割ツラいことで、2割いいことがある。だから、仕事は断らず頑張って、社会というものと向き合っていく。そうすると、今回のジュリエット役みたいに、いつのまにか面白い仕事がやってくる。そんな感覚ですね」
――なるほど……。おっしゃること少しわかる気がするのは、私は前職は証券会社の営業部にいたんですが、金融商品のいいところを紹介してお客様の貯蓄の役に立ちたいという気持ちと、こうして取材をしていい読み物を書いて、読者の方に喜んでいただきたいという気持ちは、己の喜びの体感としては、そんなに違いはない気がしていて。
柄本「そうですよね。仕事なので、僕ができることは一生懸命やる、それ以外、ないんですよ」
――ただ、目の前のお客様に向き合っていたときと違うのは、自分が書いたものを、想像以上に多くの方に喜んでいただけることもある…という奇跡のような瞬間もあることです。
柄本「それもわかります。仕事として一生懸命やったものから、何かを感じていただけるのはすごくありがたい。とにかくありがたいと思う瞬間に、この仕事を一生懸命にやれたんだなって思えます。けど、一生懸命にやるのは自分のためでもあるので。人様のために何かやるとしたら、お金もらっちゃいけないような気がするんですよね(笑)。……出る側の人間っていうのは、こういった矛盾と戦っていく仕事なんだな、って思いますよね」
――役者さんそれぞれ、演劇と向き合うお考えがあって、それぞれに正解があるんでしょうね~。
柄本「きっと違いますよ……絶対違います」
これが“やりたい”って言葉は怖い言葉
――最初から、役者は仕事だと捉えていたんですか?
柄本「高校卒業して、大学落ちたときにそう思いました。14歳からこの仕事を始めて、18歳で大学に落ちて、これからは職業欄に俳優って書かないといけないんだ、って思って。結局、自営業って書いてるんですけど(笑)、とりあえず、職業は俳優なんですよ」
――自分から、こんな役を掴みにいきたい、っていう欲は?
柄本「僕は“やりたい”って言葉はすごく怖いものだと思っていて。やりたい…ってことはつまり、自分にはできる、ってことと同じじゃないですか。我々役者は“できない”ところから始めてると思っているので、自分から“やりたい”はないですね」
――柄本さん、すごく明確なスタンスをお持ちなんですね。もう少し浮ついたところで誰にも咎められないご活躍だと思いますが。
柄本「こういうスタンスだ、とは意識したことありませんけどね(笑)。お仕事に関して僕は運がいいほうだと思います」
――演劇界は暑苦しいほどの情熱で演技論を語る若い方も多いでしょう?
柄本「そういう人とは……仲良く…ないですね(笑)。というか、僕はあまり出会ったことないなぁ。この仕事はどこか冷静じゃないとやっていけないと思いますし。熱さってことで言えば、仕事がある人っていうのは、皆さんひとつひとつに対して一生懸命ですよね」
30歳で結婚したい……ってことは今年中!?
――とはいえ、次の役はジュリエットです、ってお仕事は、楽しいですよね(笑)。
柄本「アハハハハハ(笑)。そうなんですよね、なかなかできないですよ」
――仕事をしていて、いちばんワクワクする瞬間は?
柄本「段田さんに会えたとき!」
――段田安則さん?
柄本「はい。カッコいいじゃないですかー!! 一緒のお仕事があるときなんかは、“段田さんに会えるー! この仕事やっててよかった~!”ってワクワクします(笑)。ファンなんです」
――女優さんは?
柄本「深キョン(深田恭子)とか(笑)。深キョンに限らず女優さんはみんな可愛いからなぁ。会えて嬉しいことばかりです」
――ちなみに、好きなタイプは?
柄本「うーん……お互い仕事をしていて、それぞれの時間を持っていて、できれば、その時間軸が似た人がいいです。最近特にそう思うようになりました。無理がなくていいと思います」
――結婚願望は?
柄本「30歳で!! でももう30歳だから今年中……にできたらいいですよね(笑)」
――予定通りにいったら、LEEに素敵なご夫婦として出てください。
柄本「あ~なるほど。呼んでいただければ受けると思いますよ、お仕事であれば何でも(笑)」
考えることが好き、とおっしゃる柄本さん。だからなのでしょうか。普段からいろいろ考えられてるだけに、基本、質問に対する答えが速い! 明確! だから話していて気持ちいい(笑)。しかも、その明確な答えに強すぎるこだわりとか、頑固さは感じられなくて、“どうして、こう思うに至ったか”まで説明してくださるので、清々しい気持ちで納得するばかりのインタビューでした。自分というものがしっかりとあって、なぜそうであるかもご自身で理解されている。きっと、夫としても家族事の決断にブレがなくて、いいご家庭をお持ちになりそうな予感!
撮影/細谷悠美
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堀江純子 Junko Horie
ライター
東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。