ハリウッドで活躍中のHIKARI監督が語る『37セカンズ』!「絶対に日本で撮りたかった」
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折田千鶴子
2020.02.07
ベルリン映画祭史上初のW受賞という快挙!
すごい監督が出てきましたよ! ワクワクしちゃうくらいパワフルで面白い方。しかも初長編監督作『37セカンズ』が、なんとベルリン国際映画祭史上初の2冠達成という快挙を成し遂げてしまったのです。そのHIKARI監督は、日本でこそ初監督ですし名前は知られていませんが、実はハリウッドで活躍されていて、既に大型プロジェクトに多数関わっている超多忙な監督さんです。
さて、その『37セカンズ』は、脳性麻痺のヒロインが“自分探しとルーツ探しの旅”を繰り広げ、世界に飛び出し、自分の生き方を自分で獲得していく冒険物語。そこに「女性の障害者の性」を絡めて描いた意欲作です! クスッと笑えたり、本気で「ガンバレ~!!」と熱くなったり、同時に彼女が体験していく人間関係に羨望を覚えたりもする、とっても気持ちのいい快作です。
日本では今週末から公開に。そんな注目のHIKARI監督に、東京国際映画祭(ちょっと古い話になりますが)でお会いすることが出来ました。
――ベルリン国際映画祭で2冠(パノラマ部門・観客賞、及びCICAEアートシネマ賞受賞)の快挙、おめでとうございます! 初監督作にして、すごいですね!!
HIKARI監督「ホントにもう“えっ!?”とビックリしました(笑)! 仕上げも出来ていない状態で、配給も何も決まっていないゼロ状態で、とりあえず送ったら“是非”という返事をいただき、急いでギリギリで完成させて、差し替えてもらったような状況でした。初長編なので“ファーストタイム・フィルムメイカー賞”にもノミネートされていましたが、そっちは受賞せず(笑)。でもやっぱり観客賞は、何より嬉しい賞でした」
――映画祭の最中も、観客の反応や評価の高さを肌でビンビン感じました?
「最初は5回上映の予定で、ベルリンは上映2日前にチケットを売り出すシステムなんですが、ほんま発売開始5分でSold Outになるんです。事務局がどんどん上映回数を足してくださって、最終的に9回上映されました。そういうのも嬉しかったですね。しかも一番小さいのが600席で、最大1500席の劇場ですから。質疑応答も熱心で、皆さん口を揃えて“障害者の暗い映画かと思ったら、めっちゃエンタメじゃないですか。楽しかった”と言われたのが嬉しかったです」
――ヒロインが過保護な母親をぶっちぎり、初めて夜の街に出ていったり、お酒を飲んだり、という展開も、ちょっとした冒険みたいでワクワクと楽しかったです。
「早い話、主人公が自立していきたい、というだけの映画なんですよね(笑)。でも障害者の方々も多く映画祭で観てくださって、各国の観客が“僕も頑張らないと、と思いました”というような反応をいただけて、良かったです」
日本人が知らない日本の不寛容
――それにしても、配給も決まらない状態でベルリンに出品されたとおっしゃっていましたが、本作を製作・完成させるのは、すごい大変でしたね。
「大変どころじゃなかった! 最初はアメリカでお金を集めようとしたのですが、どうしても“日本を舞台にした日本語の映画”にはお金を出せない、と言われて。そこでもう腹を括って、荷物を全部預け、向こうの家を解約してアメリカを出たんです。“この映画を撮るまでアメリカには戻らない”と思って。日本に来て、自分で電話を掛けまくって、一から営業しました」
――むしろ何故そこまで“日本で日本語”にこだわったんですか? 英語にすればアメリカで撮れたんですよね!?
「そっちの方がずっと楽だというのも分かっていましが。でも、アメリカは基本障害者や車椅子ユーザーが住みやすい国なんです。だから、これは絶対に東京で撮らなあかん、と。ちょうど脚本を書いているときに、盲目の女子高生がラッシュ時に電車に乗り合わせ、杖が当たったサラリーマンから“何するんだ”と背中を飛び蹴りされた、という、海外では大きく報道されたニュースがあったんです。でも当の日本では知らない人の方が多い」
「しかも“ラッシュアワー時に居る方も悪いよね”という書き込みが少なからずあって。匿名で体の不自由な人に対して、そんなことを言えてしまう国ってヤバいぞ、と。また“障害者の性”や“女性の性”の問題にしても、アメリカやヨーロッパは“セックスセラピスト”がいますが、セラピストどころか日本では、あれだけ性風俗の店があるのに女性用がない。実際にある1、2社は、バカ高くて障害者が払える値段じゃない。そういうことも含め、絶対に日本で撮る必要がありました」
『37セカンズ』ってこんな映画 23歳のユマ(佳山明)は、生まれた時に息をしていなかった37秒というわずかな時間のため、身体に障害を負ってしまいました。漫画家を志望していますが、今はアイドルみたいに可愛い親友が漫画家を騙り、そのゴーストライターをしています。当然ながら、そんな状況に複雑な思いが溜まっていき、同時に自分を心配する過保護な母(神野三鈴)にも少しずつ疎ましさが募っていきます。ある日、公園に捨てられていたアダルトコミックを拾ったユマは、編集部に電話を掛けるのですが――。
――観ているうちに、自分らしく生きようとするユマが可愛くて、どんどん愛しくなっていきます。観客を誘導するのも演出力ですが、障害者が実際に抱えるリアルから離れてはいけないし、かと言って観客の心も掴まなければならない。撮り方としてこだわったのは、どんな点ですか。
「まずは一般の人たちがパッと見たとき、「あ、車椅子の子がいる」と分かるように撮りました。電車に乗っているシーンでも車椅子と同じ高さの位置から、お母さんとお風呂に入るシーンでも全て彼女と同じレベルから、という見せ方――第三者として「観察している」感じの撮り方から、少しずつカメラ位置を変えていって。クローズアップを使いながら、少しずつユマの心境に入って行くようにしました。カメラ位置には相当こだわりましたね」
「何をどこまで見せるか、見せないかを計算し、シーンごとにカメラ位置を変えていく。本当に微妙な変化をつけたかったので、カメラマンや撮影監督もして来たこともあり、自分でカメラを動かして微妙な匙加減などは自分で撮っちゃいました(笑)」
“演技している”カットはすべて削りました
――実際にヒロインと同じ障害を持つ佳山明さんが、ユマ役として初にして体当たりの演技を見せています。
「ユマ役を明ちゃんに決めてから、物語の3割を書き直しました。明ちゃんには“演技をしないで”という演出でした。そのため順撮りにして、感じたままで台詞を言って欲しい、と。さらに編集段階で“あ、これ演技しているな”というカットは、すべて削りました」
――ユマが初の性体験出来るかどうかのシーンも、リアルかつユーモラスでありつつ、すごく切なかったです。
「どう描写するか、どう物語を動かすか、すごく考えました。でも、ここで(セックスを)やったらあかん、と。人生って目的に向かって進んでいても、新しい選択が出てきて、また新たな道が開ける。その前進している姿を描きたかったんです」
――一方、お母さん役の神野三鈴さん、イケメン介護福祉士の大東俊介さん、障害者を中心にサービスを行うデリヘル嬢の渡辺真起子さんなど、ベテラン勢がさすがの味を放っています。
「神野さんは大ベテランの舞台女優さん。どのシーンも見事に感情が伝わって来るんです。俊介は、まずはそのカッコ良さを取りましょう、と(笑)。真起子さんとはリハーサルでしっかりと役についてお話をして、撮影時はほぼお任せ。彼女の場合は友人に「会った方がいい」と言われ、飲みに行き、真起子さんだと。すぐお願いしました」
――あんなイケメン介護福祉士が、あまりにもユマちゃんに親切にしてくれ過ぎるのはなぜ、という疑問も正直頭をよぎりつつ、すごくホッとさせられもします。
「ところが本当にいるんです。モデルとなった敏也くん(映画『パーフェクト・レボリューション』のモデルとなった主人公・熊篠慶彦さんの介護福祉士である辻本敏也さん)も、割にイケメン。ものすごく優しいイケメン介護福祉士さんたちは実際に結構いますが、相手が好きになっちゃうので、お年寄り担当になるらしいですけどね(笑)。本作でも、ユマとの間に恋愛要素を入れるかどうか最後まで考えましたが、ユマが彼に恋心を持つのは当たり前として、でも物語として恋愛ものに無理やりしなくてもいい、という判断をしました」
――ユマちゃんの大冒険から、観客は新しい世界に踏み出せる勇気をもらえると思います。
「その冒険の中で、健常者と障害者の間の壁をひとつ破れた、というニュアンスを出したかったんです。この映画を作りながら、健常者と障害者の心のバリアがなくなればいいな、とずっと思っていました」
パワフルで楽しくて生命力に溢れ、いっぱい勇気をくれる“温かさ”を皆さんにもゲットして欲しいのと同時に、こんなセンシティブなテーマを見事エンターテインメント作品に昇華させた、世界で活躍するHIKARI監督の魅惑の才能にいち早く触れて欲しいです。
是非、劇場でみてHIKARI監督の光に当たってください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。