「児童手当は大人の小遣い」という報道に重大ミスが発覚
『世帯年収が高いほど、児童手当を「大人の小遣い」などの子どものため以外に振り向ける人が多い』――そんな報道をきっかけに、重大ミスが発覚しました。
私も11月12日付の日経新聞でこの内容を見たのですが、小さな記事だったため一連の高所得者外しの流れだろうと読み飛ばしていました。しかし、11日付の電子版のほうにはより具体的な数字が出ていたようで、年収600万~1千万円未満の39%、年収1千万以上だと49%もの人が、児童手当を「大人の小遣いに充てる」や「使わずに残っている」と答えたとあり、それに対し財務省が高所得者への児童手当は廃止すべきではないかと要請したというのです。
この割合の高さに疑問を感じた一般の方が元データを調べたところ、厚生労働省が作成した文書(「平成24 年児童手当の使途等に係る調査報告書」)の図表に誤記載があり、その誤った数字を引き合いにして、財務省が高所得者への給付見直しを提言する資料を作成したということが判明しました。誤った表では年収1000万円以上の人のうち32%もの人が児童手当を大人の小遣いに使っていると答えたことになっており、それが新聞報道につながったと思われます。しかし、実際にはその割合は全体のわずか0.9%。ミスの原因は、集計表の項目が入れ替わってしまっていたことです。この方をはじめとする多くの指摘を受け、現在は厚労省の元データおよび、それを引用した財政制度等審議会の資料は修正されています。
しかし、実は「間違いが修正されてよかった」という話ではありません。国はこれまで何度も児童手当の見直しに言及しています。今回やり玉に挙がった高所得者は、もともと所得制限のため児童手当の支給の対象外です。しかし、特例給付として一律5000円を受けており、その対象児童数は145万人いるとされています(前述の政制度等審議会の資料より)。この特例給付を廃止すべきという議論は過去に何度も繰り返されているのです。
さらに、見直し点はもうひとつ。現在は児童手当を受けられるかの所得基準は、世帯の中で最も所得が高い人の金額のみで判定されていますが、これを世帯合算にすべきという意見が根強くあります。現行制度では、扶養家族が3人まで(専業主婦の妻と子ども2人)なら960万円以上は児童手当の支給対象外になりますが、これが夫700万円・妻300万円の収入がある家庭だと支給されるため、不公平ではないかという理屈なのです。もし世帯合算の方向に制度改正されると、児童手当が受けられなくなる家庭が増える可能性が高く、非常に気になるところ。先にあげた厚労省のデータ誤記載問題はこれで終わったわけではなく、子育て世帯にとって現在進行形の大問題なのです。
今の子育て予算の中でやりくりするしかない?
政府は子育て支援に力を入れているといっています。2019年10月からは幼児教育・保育の無償化がスタートし、2020年には高等教育の無償化(対象になるのは低所得者世帯が中心)も予定されています。いろいろな負担軽減策を講じているのだから児童手当は見直ししてもいいでは、と政府はいうのでしょう。これでは一つのパイの中でやりくりしている印象が拭えません。
ちょうど手元に2017年4月付けの日経新聞がありました。そこにはこう書かれています。「…財政制度等審議会では、今後計画される保育所増設の財源として、高所得世帯を対象にした児童手当の特例措置を廃止する案が浮上した」。2年前にも同じ議論が起き、しかも廃止で浮いたぶんを保育所増設の財源にするため――とは、結局予算の付け替えしか方法はないというのかとがっかりします。
もちろん財源の確保は大切。今回の消費増税で増えた税収が幼児教育無償化などの子育て支援にもあてられています。この先、児童手当を見直さないと本当にお金がないのか。税金の配分をどうするべきか、何を削って何に手厚くするべきか。納税者である私たちも当事者として注視していくべきでしょう。
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松崎のり子 Noriko Matsuzaki
消費経済ジャーナリスト
消費経済ジャーナリスト。雑誌編集者として20年以上、貯まる家計・貯まらない家計を取材。「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。