アウトドアウェア・ブランドとして名高い「パタゴニア」ですが、実はビールを作っていることをご存知でしたか?
アウトドアウェアなどパタゴニアアイテムを愛用している我が家ですが、初めてその事実を知った時はびっくりしました。爽やかな香りと味わいですっきりした飲み心地のとても美味しいビールで、缶のデザインがおしゃれなところもさすがパタゴニア!
しかもこちらのビール、ただ美味しいだけでなく、なんと飲むことで地球環境に貢献できるのです。
「1杯のビールで、地球を救う」
普段からよくパタゴニアのお店に足を運んでいるのは、アイテムの品質の高さやデザインの良さに加え、環境に配慮したものづくりをされている姿勢に惹かれることも大きな理由となっています。私の場合、特に子どもを産んでから以前よりも環境問題への意識が高まる中で、パタゴニアが様々な形で社会的な取り組みをされていることに気づきました。
今回は、環境問題と真摯に向き合い積極的に活動を行うパタゴニアの様々な取り組みの中から、私もお気に入りで愛飲している『ロング・ルート(Long Root)』シリーズについて、そしてパタゴニアが協賛する映画『ほたるの川のまもりびと』についてご紹介したいと思います。
原材料の穀物「カーンザ」が、地球の未来を変える?
なぜビールが環境に貢献できるのか?その答えはパタゴニアのビールに使われている「カーンザ」という多年草の穀物にあります。30年以上に渡る品種改良によって生まれたカーンザは、製品名にもなっている通り「ロングルート=長い根」を土深く伸ばすことが特徴で、土を再生してくれる革新的な穀物として注目されているそうです。
一般的な小麦は「一年生」で1年経つと枯れてしまいますが、カーンザは何年も成長できる「多年生」。前者よりも多くの炭素を大気中から取り込み、土の中へ封じ込める力があるといいます。炭素が増えることで土壌内の生物が多様化し、土をより健康な状態にしてくれる。さらに従来の小麦よりも少ない水で育ち、土を耕さなくても成長するため貴重な表土を守ることができるため、人間の活動によって放出された二酸化炭素を減らすことができるのだそう!
そのカーンザがビール造りに適しているとわかり製品化したのが、このロング・ルートシリーズなのです。
パタゴニアが発信してくれたからこそ「知る」ことができた事実
アパレルメーカーであるパタゴニアが食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」を立ち上げた理由は、食品をめぐる自然環境が急速に悪化していることに危機感を抱き、産業技術や化学製品などを通して壊してしまった地球のサイクルを回復させ、本来あるべき食の流れを取り戻さなければならないと考えたことだといいます。
「私たちが食べるものは単にお腹を一杯にして体に栄養を与えるだけではありません。良い食品は私たちの魂を高揚させ、世界をより深く理解する手助けをしてくれます。」
というのは、パタゴニアの創設者であるイヴォン・シュイナードさんの言葉。
私の場合は、普段慌ただしく過ごす中で、常に環境に配慮しながら行動することは時にハードル高く感じてしまうことがあります。でも、もともとファッションブランドとして馴染みのあるパタゴニアが作った製品や発するメッセージは興味を持ちやすく、ビールを始めとした「パタゴニア プロビジョンズ」の製品は、私自身改めて環境問題について考えるきっかけにもなりました。
また誰もが知っているブランドでもあるので周りの方にも興味を持ってもらいやすく、自宅で誰かをお招きする際に用意したり、御礼や手土産などに活用したりすると盛り上がります。贈る際はギフトボックスをよく利用しており、環境を守る古来の漁法で採れたサーモンや、海水をろ過するムール貝のオイル漬け、100%オーガニックのフルーツバーなど他にも魅力的な製品がたくさん詰めあわされています。みんなで楽しむことが大きな目的であるビールや食べ物だからこそ、構えることなく自然に環境について考えることができるのも素敵な点だと感じます。
故郷を守る人々のドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」
「パタゴニア」の取り組みのひとつに、長崎県東彼杵郡川棚町川原(こうばる)地区に計画されている石木ダム建設の是非について考える活動があります。
豊かな自然環境に多くの野生生物が生息する石木川に、佐世保市の水源確保を目的としたダム建設計画が持ち上がったのは1962年。それから55年以上が経過した今、人口減少や節水型社会への移行に伴い必要性に大きな疑問が生じている中で、長崎県民の約8割がダムの必要性と負担を「十分に説明されたと思わない」としたまま538億円の予算をかけて進む石木ダム建設。このまま計画が進めば、貴重な自然だけでなく建設予定地に住む13世帯の生活基盤をも犠牲にすることになってしまいます。
恥ずかしながらこの映画を観るまでの私の知識は「ニュースを聞いたことがあるな…」というレベル。やはり“他人事”で、正直なところ自分には関係のない話だと思っていました。
でも映画を通して、先祖代々から住んでいる自分たちの土地をふるさととして大切に想いながら、今ある暮らしを日々だいじに送っている方々のリアルな姿を垣間見たことで、それが正当に思える理由なく奪われてかけている状況に胸が痛くなりました。
工事車両が入ってきてしまうと勝手に計画を進められてしまうため、暑い日も寒い日も毎朝工事予定地の前で手作りの旗などを掲げ、バリケードを作り座り込む。夜中に異音がすれば飛び起きて確認に行く…全ては「ただ普通に暮らしたい」という当たり前の想いだけなのになぜ、と思わずにはいられませんでした。
ただ、映画全体が悲壮感に満ちているかと言うとそんなことはなく、全編を通して都会にはない豊かな自然や、子ども達を始めとした地域で暮らす皆さんの笑顔、そして強く美しく生きる姿が印象的でした。
バリケートの前に座りながらスーパーのチラシを見て雑談したり、赤ちゃんを連れてきた若いお母さんを囲んで成長を喜んだり…その活動は完全に日常に溶け込んでいる一方で、おばあちゃんたちが「くよくよしても仕方ない。でも殺されてもよかっていう覚悟をして生きとります」と笑いながら発した一言が胸に刺さり、「普通に暮らす」ということについて、そして私自身の無関心さについてなど、様々なことを考えさせられました。
この9月には住民の皆さんの所有地が強制的に収用され、土地の明け渡し期限の11月18日を過ぎると、行政代執行により強制的に立ち退かせることが可能になってしまいます。
今の日本の様々な問題を孕んでいるように思えてならない石木ダム問題。私たちひとりひとりが問題を知ること、そして考えることが目の前の現実を変える第一歩なのかもしれません。
※上映情報などはこちら↓
映画「ほたるの川のまもりびと」
プロテクターズ・オブ・ファイアフライ・リバー(ほたるの川のまもりびと)
(パタゴニア公式サイト内の特設ページ)
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佐々木はる菜 Halna Sasaki
ライター
1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。