命がけの優しさに、思わずむせび泣きたくなる渾身の感動作!
『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』
傷ついた者だからこそ持ちうる優しさや思いやり、すねに傷持つ者同士だからこそわかり合える悲しみや苦悩……みたいなものは、すでに多くの映画で描かれてきた。だからさほど新味は……なんて思いは瞬時に吹き飛ばされ、ガツンと脳天を直撃され、最後は思わずむせび泣きに。
原作は帚木蓬生による同名ベストセラー小説。『愛を乞うひと』の平山秀幸が自ら脚本を手がけ、11年をかけて実現させた渾身作だ。
母親と妻をあやめて死刑になるも、死刑執行が失敗して生きながらえた秀丸(笑福亭鶴瓶)が長く身を寄せる精神科病棟に、幻聴に悩まされる元サラリーマンのチュウさん(綾野剛)が入院する。院内はしょっちゅう騒ぎが起きるが、いつしか秀丸とチュウさんは皆に慕われ、院内の諍いさかいや騒ぎを中和する存在になっていた。そこへ、父親からDVを受けた女子高生の由紀(小松菜奈)がやってくる。心を閉ざした由紀も次第に笑顔を見せ、穏やかに過ごし始める。しかし由紀を巡るとんでもない事件が起き、秀丸はある決意で再び人をあやめる――。
元死刑囚にして禅僧のような風情の秀丸こと笑福亭鶴瓶、心が壊れそうな危うさと院内よろず屋を営むユーモラスな図太さを掛け合わせたチュウさんこと綾野剛、深い傷とトラウマを抱えた由紀こと小松菜奈。脇を固める個性派も含め、とにかく味ある役者たちがうまい!
奇声を上げたり虚言を重ねたり、果ては元死刑囚だなんて、かかわりたくない人の代表例のようだろう。だが各人の過去がフラッシュバックで差し込まれ、その切実な眼差しを目撃してしまうと、もう居ても立ってもいられず身悶えしてしまう。そして映画のキャッチ“その優しさを、あなたは咎めますか?”がブーメランのように心に突き刺さり、涙が止まらなくなる。
これは閉鎖された空間の物語ではない。誰もが不運やふとした拍子にそこに隔離されるに至る可能性のある、私たち社会、私たち自身の物語だ。だから命がけの優しさが痛いほど身にしみ、人を信じたくなる。その尊さに熱くなる。(全国ロードショー中)
怖すぎて身動きできないが優雅で上品な女性向きスリラー
『グレタ GRETA』
NYの地下鉄でバッグを拾ったフランシスは、持ち主のグレタに届ける。上品で美しいグレタに亡き母の面影を重ね、2人は急激に親しくなる。しかしある日、フランシスは多数の同じバッグを発見。怖くなって距離を取ろうとするが、孤独なグレタは次第にストーカーと化し……。
『エル ELLE』などの名女優イザベル・ユペールの醸す狂気が怖すぎる! クロエ・グレース・モレッツとW主演。(11月8日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開)
取材・原文/折田千鶴子
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