主演映画にドラマにCMのほか、見かけない日がない、もう何年も最前線を走り続けている佐藤健さん。

いろんな監督から出演を乞われる佐藤さんが、「いつかご一緒したかったので（オファーされて）うれしかった」と語るのが、話題作・傑作を連発している白石和彌監督の最新作『ひとよ』。

子どものために母が父親をあやめるという、衝撃の事件を起こした当事者家族の、次男・雄二を演じた。

佐藤 健さん「＂母親ってこうだよな＂という強さを何度も感じてきた」

「久々に一読した瞬間から“おもしろい！”と思った台本でした。登場する人間はみな難ありですが、全員が愛おしく、共感できました」

事件を起こした母に対する兄弟妹の気持ちは、三者三様。観ながらも、誰がどんな気持ちでそんな行動をとるのかハッキリつかめず、だから余計にハラハラと凝視させられる。とりわけ雄二の恨み交じりの言動は、最もねじれている！

「そこは僕もわからず、どういうテンションで演じようか迷いました。なので監督に委ねようと、現場でとりあえずやってみたら、いちばん気持ちのいいところがあって。そもそも演じる人物の気持ちなんて、完全に理解して演じる必要はないんです。人間の感情自体、瞬間瞬間で生まれては消えていくものだから。“無”の状態で目の前のことに対応しただけ。とはいえ、ここまで役作りせずに現場に入ったのは、僕も初めてでした」

子どものために罪を犯す腹のくくり方は、母親というもののすごさ、愛の深さに畏怖せずにいられない！

「映画を観てももちろんですが、僕も普通に生きてきて、“母親ってこういうものだよな”というような強さを感じたことは何度もあります。今回、田中裕子さんは常にシリアスではなく、笑っちゃうようなコミカルさを交えて演じられ、僕も含めてみんな驚きました。それがブレない肝っ玉母ちゃんの強さになっていて、田中さんのスゴさを実感しました」

葛藤しながらも母を憎み切れない、雄二の愛憎がさく裂するラストは、叫び出したくなるほどの熱い感動が全身を貫く。

「僕も脚本を読んであのラストに、理屈抜きで感動しました。撮影は大変でしたが、意外にあんなハードなシーンも、白石組の現場は淡々と進んでいくんです。あまり危険なことをせずにすごく危険そうに見せられるのも、白石監督がうまいから。雄二としてもあの場面の後では、やっぱり何かが吹っ切れただろうな、と思いました」

雄二として無精ひげを生やし、どこか薄汚れた風体となった姿は、ファンならずとも驚くハズだ。

「誰に言われたわけでもなく、白石組に入るならそういうことだろうな、と普段は吸わない煙草を吸い、体の中から汚しました。抵抗もなく、なんなら快感なくらいでしたが（笑）、続けてまた同じような役をやるのはやっぱりキツイな」

普段どおりに体重も戻し、すっきりした麗しさに戻った佐藤さん。30歳を迎えた今、“30代で家庭をつくり、のほほんとしたい”と語る。

「ソファに寝転がってのほほんとしてる間に、ブレックファーストを作ってほしい。それ以上の干渉は特にしないで、というか。ごはんもパンも好きだけど、まずはスクランブルエッグ。白いお皿にカリカリベーコンと。昔から年上好きなのも変わっていませんよ（笑）！」

本誌をチラリと見てリップサービス。さすが万人の心をつかむ男！

『ひとよ』

©2019「ひとよ」製作委員会

どしゃぶりの夜、稲村家の母こはる（田中裕子）は、ひどい暴力から子どもたちを守るため、夫をあやめる。15年後、あの晩の言葉どおり、こはるが帰ってくる。事件の影響でそれぞれ心に傷を抱えた長男（鈴木亮平）、次男（佐藤健）、長女（松岡茉優）は、葛藤しながら母と再会するが……。劇団KAKUTAの同名舞台の映画化。11月8日より全国ロードショー。舞台版のノベライズ（『ひとよ』長尾徳子著・原作桑原裕子 ￥640／集英社文庫）も発売中。

撮影／菅原有希子　ヘア＆メイク／MIZUHO（vitamins）　スタイリスト／中兼英朗（S-14）　取材・文／折田千鶴子