元祖王子様ミッチーがお殿様に! 映画『引っ越し大名!』及川光博さんに爆笑インタビュー!!
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折田千鶴子
2019.08.28
徒歩で藩ごと引っ越しとは驚きました!
ステキ!!! 取材後に、カメラマンと共に嘆息の連続でした! お会いする前に抱いていた印象をはるかに超えて好きになってしまう、及川光博さんという方は、そんな光を放っている方でした。さすが元祖・王子様!!
質問に真摯に応えて下さりながら、サラリと面白いことを口にして、何度も爆笑を起こし、ホクホクな気分にさせてくれる天才なのです。大人だなぁ、、、と感心しきり。
そんな及川さんが浴衣姿で登場して下さったのは、映画『引っ越し大名!』のプロモーションのため。星野源さん主演の、“引きこもり侍が「藩」ごとお引越しという難題に挑む”ユニークな時代劇で、及川さんは、当の姫路藩主・松平直矩(なおのり)という実在のお殿様を演じられました。
――参勤交代は誰もが知っていると思いますが、本作が描く“藩ごとお引越し”だなんて、及川さんはご存知でしたか?
「いわゆる“国替え”ですが、私もその内容を初めて知り、驚きました。例えば織田信長の時代にも前田利家が能登のお殿様になった、というような史実は知っています。でも、どういう風に能登まで行ったのか、なんて考えたこともなかったし、時代劇で“国替え”そのものを描いたのを観たことないですから」
「荷物も全部自分たちで持って徒歩で数千人が大移動するとは!! 私は殿として籠に乗りましたが、まぁ、狭い、狭い。籠に乗っての旅も決して楽ではない、うんざりだと思いました。しかも姫路から大分へ、さらに数年後には、そこから山形までって(笑)。その過酷な引っ越しの様を、本作は楽しく描いた作品です」
――演じられた“松平直矩”という実在の人物も、全くもって初耳でした。
「私も台本で名前を見て、何とお読みすればいいのかな、と思いました。“炬燵(コタツ)の炬”に似てる!?とか(笑)。一言で言うと直矩は“悲運のお殿様”です。父親に先立たれ、7歳で家督を継ぎ、何度も国替えを命じられ、大変な苦労をされた人」
「ただ演じる上では、一国のリーダーとして周りから神輿を担いでもらうことに十分慣れている、そういう威厳や風格を意識しつつ、プライベートな時間は美少年が好きという、その切り替えを意識しました。存在感の重さと軽さのバランスを、考えながら演じました。出演シーンは多くはないので、短い尺の中で色んなことをやろう、と(笑)」
原作者も出演を熱烈オファー!
――原作者・土橋章宏さんが、“直矩の気品、色っぽさは及川さんしかいない!”と思われて脚本を書かれたそうですね。
「先に言ってくれればいいのに~、と思いましたが(笑)、今日初めて知り、すごく嬉しいです。そういう時代劇的な見栄のきり方、被写体としての見せ方は……自信がありました(笑)。デビュー当初から中性的と言われていますが、その辺りの……(小さな声で)ミステリアスな魅力を(笑)、フルに活用したいな、と思って演じたので」
「カッコつけることは簡単にできますが、あえて己を軽くしていくという作業、コミカルな表現は、なかなか……ちょっと年数を重ねた人間じゃないと出来ないことですから、フフッ(笑)」
直矩も自分も一国一城の主
――原作者に“及川さんでないと”と言わしめた直矩と、ご自分にどこか共通するものを感じましたか?
「直矩は藩主であり、私も相当小さな規模ですが一国一城の主として、全国ツアーなどでチームをまとめるリーダーである、というところは共通するな、とは思います。メンバーの士気を高め、統率し、最高のステージのために、50人ほどのスタッフをまとめていく。その気苦労などは共通している……いや、江戸時代の藩主と共通するところなんて、ないですよ(笑)!! ちなみに、私は女性が好きなので、そのあたりは期待されると、ちょっと違います(笑)」
――ではリーダーとして、及川さんが理想として掲げていることは何ですか?
「求心力かな。カリスマ性があれば、もっと楽かもしれないけれど、全てのリーダーにカリスマ性があるわけじゃない。そこで、どうするか。それはもう、多くの人間の心を動かす情熱を、的確に表現することだと思います」
「僕なりに言えば“愛される努力”ですね。それがないリーダーって、結局は陰口を叩かれ、派閥などで足元をすくわれるのではないかな、と。会社勤めの経験はないですが、高校時代に運動部のキャプテンなどをした経験上、そう思います」
演じ切る自信がない役とは……!?
――劇中には、引きこもり侍の春之介をはじめ、個性的なキャラクターが多数登場します。彼らそれぞれが色んなことを感じさせてくれますが、及川さんが最も惹かれるキャラクターは誰でしたか?
「小澤征悦くん演じる、山里一郎太がキーマンですね。“侍とはこうあるべし”という、日本人の心に刺さるキャラクターで、僕も感動しました。武士が刀を捨てて農具を持つというのは、プライドはズタズタだと思いますが、それでもなお守ろうとした何か――忠義や誇り、本当の意味での自尊心。それが素敵だな、と思います」
「世の中、自分のプライドのために人を攻撃したり、威張ってみたりしますが、本当に大切にすべきなのはカタカナ4文字ではない。他者への愛と自尊心だと思うんです。なかなか出来ることではないからこそ、それを体現した山里はステキ。(小澤さんは)学校の後輩ですが、ユキ、いい役もらったな、と思いました。これが僕だと出来ませんから」
――出来ないというのは、どのあたりが無理なのでしょう?
「それはもう、野良仕事!? そこは演じ切る自信がない!」
もう、居合わせた人、爆笑の渦です。及川さんの言葉には、ホント、ユーモアと愛と毒があって、もう引き込まれてしまいます。
毒を吐くときも笑顔で(笑)!
――先ほど“気品”が大事という話がありましたが、品位というものは常日頃から意識されていますか?
「プライベートではもちろん、仕事になるとさらに意識します。知人の言葉を引用させてもらいますが、『多くの人のために自分を犠牲にできる、これが上品である。自分のために人を犠牲にする、これが下品である』と。これはもう、なるほど、と思いました」
「品位とは、崇高さ、というより、忍耐力と笑顔じゃないかな? みんな我慢できないから、すぐ居酒屋で怒鳴るし、店員さんに横柄な態度をとるし。僕は店員さんに常に感謝の意を示しますし、絶対に怒鳴らない、という程度の意識の仕方ですが……」
――リーダー論の話で、“愛される努力”とおっしゃいましたが、愛されることに執着してしまい、逆に苦しむ人も少なくないと思います。正しい“愛される努力”とは?
「確かに、そこに執着すると媚びへつらう人生になりかねないね。サービスしすぎて心が摩耗していくなんて、あるあるだよね。愛されたいと願うなら、まずは自分から愛すること。そして清潔感と、やっぱり表情筋だな」
「しかめっ面で人の陰口ばかり言ってると、やっぱりそういう顔になる。表情筋は形状記憶していくので、人の陰口を叩くにしても微笑みながら言いましょう(笑)。笑顔で毒を吐く。表情筋は、笑っていれば勝手に上がっていきますから。グイグイ上げていきましょう。読者の皆さんにも“ 笑顔だよ♡ ”とお伝えしたいですね」
これまでの成長、そしてこれから
――さて、本作は主人公・春之介の成長譚でもあります。及川さんがこれまで、自分が“成長したな”と実感された瞬間ってありますか?
「実は30歳前後、引きこもりのようにゲームをやっていた時期があったんです。ファイナルファンタジーなど。仕事も忙しいのに睡眠時間を削って。トータル70時間くらいで全部クリアし、もう、涙がボロボロ出て来るくらい感動したんです。そうして全てが終わったあと、「で?」ってなったの(笑)」
「キャラクターはメチャメチャレベルアップしたけれど、僕自身は何もレベルアップしていないな、と。そこでゲームは止めました。その時、削った睡眠のための数時間を、友人との語らいや楽しい思い出作り、勉強に費やそうと思って。他人とコミュニケーションを取らなくても楽しくなってしまうと、色々と感覚がズレてくるな、と思ったんです」
――主演の星野源さんもそうですが、アーティストの方が演技をする際の強みは絶対にあると思います。ご自分では、どんな風に感じますか?
「美輪明宏さんとよく話していたことですが、音楽家だからこそ声や音の高低、台詞のテンポと間に、耳の良さが少なからず影響する、というのはあると思います。五線譜ではないですが、数名の役者が同じシーンで演じる際、それぞれの個性が引き立つように自然にアンサンブルやハーモニーを考えてしまう」
――それでは最後に、これからの目標として、どんな人間になっていたいかお聞かせください。
「70歳になる頃には、インテリエロじじいになっていたいですね。石坂浩二さんのような容貌で、高田純次さんのような軽みが理想です。ユーモアを大切にして楽しいひと時を続けていきたい。楽しいひと時の連続は、すなわち最高の人生ですからね!」
もう、金言がポロッポロ!! 本当に楽しいインタビューのひと時でした。
映画『引っ越し大名!』の中では、いかにもお殿様然と“良きにはからえ”的な懐の深さを見せたかと思えば、騒ぎが起こると慌てふためいてしまう姿など、本当にコミカルかつチャーミングな魅力を放たれています。
是非、ミッチーファンの方はもちろん、そうでない方々も、劇場でお楽しみください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。