喪失を抱えた3度の夏。悲しくもみずみずしい愛と再生の物語
『サマーフィーリング』
東京国際映画祭グランプリ&最優秀脚本賞に輝いた『アマンダと僕』が公開中だ。突然テロで姉を失った青年と母を亡くした少女、叔父と姪が寄り添って生きようとする感動の物語。新鋭ミカエル・アースがその3年前に撮ったのが、本作。なるほど、共通項は多い。
大切な人を失う悲しみを抱えて人はどう生きていけるかという主題をはじめ、監督の本能や探求世界がまんま重なる。本作を習作と見ることもできるが、むしろ効果や完成度を上げた『アマンダ~』以上に、捉えがたい曖昧な感情の機微がより生々しく、みずみずしく映し込まれた珠玉作だ。
ベルリン。サシャは恋人が眠るベッドをそっと抜け、シャワーを浴び、朝食を食べ、仕事に向かう。アトリエで染色の仕事をし、帰宅途中の公園でバタリと倒れる――。フランスから駆けつけた彼女の家族も恋人の青年ローレンスも、現実を受け止めきれない。ローレンスは「サシャの面影が濃すぎて(妹のゾエを)まともに見られない」と呆然とつぶやく。1年後、ローレンスはパリのゾエを訪ねる。幼い息子を抱えるゾエは夫と別居し、ホテルで働いていた。さらに1年後、ニューヨークに移り住んだローレンスに離婚を決意したゾエが会いに来る。
ヒロインとおぼしき人物が突如消える、冒頭の衝撃! だが終始サシャの影は色濃く残る。陽光きらめく3つの街、サシャの両親が暮らすアヌシー湖畔の情景……。悲しみも喪失感も消えないのに、こんなにも世界は美しい。その美しさが痛くも胸にしみる。3度の夏ともローレンスとゾエは街をそぞろ歩き、時々サシャの思い出話をし、友人を交えバーに繰り出す。寂しさから恋によろめくかと思いきや、互いに同じ悲しみを共有する者同士として相手を思いやる、微妙でゆるやかな関係を保ち続ける。それが優しく、心地よい。喪失感が完全に癒えるなんて、きっとない。でも共感と差し伸べ合う手があれば、心は少しずつまた世界に開いていく。なにげない日常の積み重ねに、胸を打たれる。
(7月6日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)
不条理な現実に翻弄される、ある善良な女の復讐劇
『よこがお』
周囲から信頼の厚い訪問看護師の市子(筒井真理子)は、結婚も目前で充実していた。だがある事件の関与を疑われ、職も縁談も失う。さらに市子を慕っていた訪問先の娘(市川実日子)との秘密がきっかけでマスコミに追い回されるように。完全に加害者扱いされる市子の心に、復讐心が芽生え……。
制御不能で転がっていく状況に息詰まり、事の次第にゾワゾワ必至! 監督は『淵に立つ』の鬼才・深田晃司。(7月26日よりテアトル新宿ほか全国順次公開)
取材・原文/折田千鶴子
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