
「素敵なおばあちゃん」像は誰のもの? パワーがわく老女小説!

『マジカルグランマ』柚木麻子 ¥1500/朝日新聞出版
現代を生きている女性の姿をエンターテインメント性たっぷりに描きつつ、その中に鋭い問いかけをはさんでくる柚木麻子さんの小説。最新小説『マジカルグランマ』は、70代半ばの正子という女がヒロインだ。
東京郊外の古い屋敷に住む正子は、若い頃、映画女優をしていた。しかし大作のヒロインとして花咲く機会はなく、映画監督の男性と結婚を決めて寿退職する。そして長い月日が流れ――。夫と同じ敷地内で別居状態の正子は、自活の費用を稼ぐためにシニアタレントを始める。売れっ子になりたい彼女に、姉貴分の大女優・紀子ねえちゃんが提案したのは「年齢以上に老けたルックスを作り込む」ことだった。
中途半端な色の髪を真っ白にブリーチし、妖精みたいな姿に変身した正子は「優しいちえこばあちゃん」として大人気に! そんな折、夫が突然に亡くなり、葬儀の場で夫への本音を漏らしてしまう正子。その言動が「怖い」と世間の嫌われ者になってしまうのだ――。
金ナシ、職ナシ、人気ナシとなった彼女だけど、世間に返り咲きたい気持ちもあり、次々と行動をし続ける! 実は欲深く、誰よりも自己顕示欲の強い性格だった彼女。そんな正子と行動をともにするのは、爽やかではない若者、引きこもりの夫を抱える子育て中の主婦、いつまでも妻の死から立ち上がれない男性など。誰もが問題を抱えており、むしろ「こういう人たちのほうが身近にいるかも!」と思えてしまう。
人は社会生活を送るうえで、どうしても「こうあるべき姿」を設定されがちだし、そうなれない自分とのギャップにも、多かれ少なかれ悩むもの。正子が“マジカルグランマ(世の中にとって都合のいいおばあちゃん)”を乗り越えようとする先には、私たち30代~40代も見習えるヒントが隠されていそう。
世間が求めるいい妻像やママ像に疲れたり、いら立ちを感じたらぜひページを開いてみて。単なる善人ではない正子の個性いっぱいな生き様に、刺激を受けること間違いなし!
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取材・原文/石井絵里
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