ペネロペ&ハビエル夫妻が元恋人同士に扮する濃密サスペンス
『誰もがそれを知っている』
今、世界で最も次作が待ち焦がれられているイラン出身のアスガー・ファルハディ監督。監督第4作目『彼女が消えた浜辺』(’09年)から日本公開され、『別離』(’11年)、『ある過去の行方』(’13年)、『別離』に続き米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『セールスマン』(’16年)と、そのどれもが一瞬たりとも目が離せず、“人間って……”と複雑な嘆息を漏らさずにいられない極上のヒューマン・サスペンスの名手だ。そんな彼がスペインを舞台に、実際に夫婦のペネロペ・クルスとハビエル・バルデムに元恋人役を演じさせたというのも、またたまらない。
妹の結婚式に出席するため、ラウラ(ペネロペ)が2人の子どもを連れ、アルゼンチンからスペインの田舎に帰省する。結婚パーティは夜中まで大盛り上がり。ところが停電騒ぎが起き、気分が悪くなり休んでいた、ラウラの娘イレーネがいないことが発覚。ベッドには昔の誘拐事件の切り抜きが置かれ、やがて巨額の身代金を要求するメッセージが送られてくる。家族ぐるみの付き合いで地元に顔の広い、ラウラの元恋人パコ(ハビエル)も奔走するが、何もつかめない。やがてラウラの夫も駆けつけるが、状況は変わらない。ついにラウラは身代金を用立てるべく、ずっと封印してきたある秘密を打ち明ける――。
仕組まれた停電、新聞の切り抜きなど、次第に明らかになる犯人の用意周到さ。村中誰もがラウラとパコがかつて熱愛した恋人同士だと知る中、親身すぎるパコの奔走を、当然ながら快く思わない現在の恋人の心情もわかる! 疲労といら立ちがたまっていく中、次第にあぶり出される人間のエゴや業、家族の秘密……。それこそがファルハディ監督の真骨頂だが、本作は過去作に比べ、答え合わせが明快で後味スッキリ。ファルハディ監督作に初めて触れる人にとってもとっつきやすく、かつ、とはいえこの事件で運命を変えられた人のその後の人生、ラストシーンが匂わせる深く沈む重りのようなドラマの濃厚さも味わえる一作となっている。(Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中)
バカがつくほどイイ奴の町田くんと出会ってしまったら……!?
『町田くんの世界』
勉強も運動もからきしダメな、16歳の地味な町田くん。でも分け隔てなくすべての人を助けようとする、掛け値なしのイイ奴! そんな彼が恋をしたら!?
窮屈な今の世の中だからこそ、町田くんに魅了されずにいられない。町田くんと初恋相手はほぼ新人だが、いつしか町田くんに影響される同級生&後輩を岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀など豪華俳優勢が演じるのも注目。安藤ゆきによる同名コミックを、『舟を編む』の石井裕也が映画化。(全国公開中)
取材・原文/折田千鶴子
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